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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜群青の調毒士〜
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新たな面倒事

 

 誘拐事件解決から一週間。

 蛍の不幸体質のお陰で完全に平和とは言えないながらも、比較的穏やかな一週間を三人は過ごしていた。

 だが、当然平和とは長続きしないもので……。


「……珍しいですねぇ。奏楽殿が朝から居眠りなんて……」


 学校に登校してきた莉一が、教室に入って開口一番告げる。

 莉一の目には、蛍の膝の上で姫抱き状態のまま眠っている奏楽の姿が映っていた。

 何がどうなって、学校でそんな意味不明な寝方をしているかなど、今更蛍と奏楽の距離感にツッコむ程、莉一は馬鹿ではない。そんなわけで、明らかに教室でするには不自然な体勢の二人をスルーして、莉一は世間話をするかのように口を開きながら自分の席に腰掛ける。

 蛍は「あー」とお茶を濁しながら、今の状況を説明し始めた。


「考え事するには睡眠不足過ぎるからって、朝会ってからずっと睡眠この状態なんだよ。何か面倒事が起こって、色々煮詰まってんだと」


 蛍の短絡的な説明に莉一が顔を顰める。

 色々と気になることが多い話なわけだが、何よりもまず印象的なのは『朝会ってからずっと睡眠この状態』という蛍の台詞だ。つまり、奏楽をお姫様抱っこしたまま蛍は登校してきたわけだ。この一週間で二人の度の越えた親密度には慣れたつもりだったが、流石の莉一もその発言にはドン引く。

 勿論ツッコむことはないが……。


「睡眠削る程の問題ですかぁ……一体何が起こって、何に煮詰まってるんですぅ?」

「詳しくは知らねぇが……春桜家が管理してる病院知ってるか?」

「“咲良さくら病院”のことですかぁ?」


「勿論知ってますけど」と、莉一は脈絡の掴めない蛍の質問に訝しみながら答えた。

 “咲良病院”……主にガーディアン隊員が使用する病院だが、亜人による被害を受けた凡人や、一般の貴人の傷病人も受け入れている。春桜家が所有、経営している病院だった。

 莉一から出た病院の名に「そうだ」と頷きながら、蛍は更に説明を続ける。


「その病院に昨日、一人の患者が救急で運び込まれたらしいんだが……どうやら亜人の毒による中毒症状を起こしてるらしくてな。その毒ってのが、未発見の毒だったらしくて……で、その毒の分析と解毒剤の開発をソラがしてるわけだ」


 蛍が告げる。

 確かに面倒事であることは違いなかった。

 莉一は考え込むように、口元に手を持ってくる。


「“毒”……ですかぁ……亜人の種類は我々の把握している数の倍は居ると言われてますし……毒を出す亜人の種族数も毒の種類も、網羅なんて到底できませんしねぇ。春桜家の出身である奏楽殿が煮詰まる新種の毒ですかぁ……面倒な事この上ないっすなぁ」


 星天七宿家は任務とは別に、それぞれ重要な役割が与えられている。土萌家の『確認捜査』もその一つだ。

 そして、春桜家が代々与えられているお役目が『亜人と貴人の生態研究』である。亜人や貴人の身体や星力を調べ、それを亜人との戦いに生かすことを主な目的としている。春桜家が『咲良病院』を経営しているのも、誰よりも亜人や貴人の生態ことについて詳しいからだ。

 当然、その次期当主となる奏楽は、春桜家の千年に続く研究データを幼い頃から詰め込まれている。

 そんな奏楽が煮詰まる未発見の毒など、厄介以外の何物でもないだろう。

 莉一は思いきり顔を歪めるが、春桜家のお役目のことを知らない蛍は事の重大さがわかっていないようで、「本当面倒なこと引き受けたもんだよなぁ」と奏楽に呆れていた。


「つうわけで、莉一。お前、ソラの研究手伝ってやれ。得意だろ?」

「……自分は科学者であって、薬剤師じゃないんですけどぉ?確かに毒物薬物は実験に使うこともありますけどぉ……」


 蛍の頼みに、面倒臭さが勝つのか煮え切らない態度を取る莉一。まあ、莉一に手伝う義理はないし、奏楽でお手上げの案件で、莉一にできることがあるかもわからない。

 だが、蛍と奏楽に恩があるのも事実。

 莉一は「それより」と代打案を出す。


「自分以上に適任な人間がちょうどクラスにいますんで、そっちに頼んでみたらどうですぅ?まあ、望み薄でしょうけどねぇ」

「『適任な人間』?」


 蛍が首を傾げる。

 莉一は「ええ」と頷いた。


「……入学してから、一度もクラスに来たことがない……所謂不登校の方ですよぉ」

読んで頂きありがとうございました!!


今回は新しい編のプロローグ的な感じなので、短いです。


サラッと出てきた星天七宿家の役割はいずれ全ての御家分出します。蛍くんに勉強させなきゃだしね!


次回もお楽しみに!

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