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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜常盤色の人形遣い〜
37/101

蛍と莉一の共同戦線

「飯ィ……飯ィ……」

「「……」」


 互いに背中を合わせ、半身だけで亜人と対峙する蛍と莉一。緊張感の漂う中、莉一が蛍に「一回で覚えてくださいよぉ」と耳打ちする。


「『星力鎧包』は体内の星力を体外へ放出する技です。なので、身体の中を循環している星力の流れに集中して、流れを掴んだら体外へ放出してください」

「……わかった」


 頷くと同時に蛍が飛び出す。

 奏楽を囲う水鏡を壊そうと爪を突き立てている亜人へ一直線に駆けていくと、蛍は直前で高く飛び跳ねた。

 直後、四発の銃声が工場内に響き渡る。莉一だ。

 蛍を避けるようにして放たれた四発の銃弾は、亜人の四肢に当たって弾け、亜人の手足を凍てつかせる。これで防御も回避もできない。


「いい加減ソラから離れやがれ!!!」


 雄叫びと共に、蛍の踵落としが亜人の脳天に直撃した。

 しかし。


「飯ィ……飯ィ……」

「ウオッ!?」


 全くノーダメージの亜人は、凍ったままの手足を力づくで動かし氷を粉砕すると、蛍の足首を掴んで思いきり蛍を放り投げた。

 投げ飛ばされた蛍は空中で一回転し体勢を整えると、難なく莉一の隣に着地する。

 亜人はと言えば、既に蛍にも莉一にも興味がないようで、変わらず奏楽目掛けて攻撃を続けていた。


「チッ!どんだけ頑丈なんだよ!」


 蛍が舌打ちを溢す。そんな蛍を莉一が横目で確認した。


「それより足は無事ですかぁ?『星力鎧包』できたんですぅ?」

「できてねぇよ。咄嗟に水鏡を足に纏わせたから、足は無傷だけどな」

「でしょうねぇ。というか、お宅の異能の真髄は『反射』でしょぉ?水膜に亜人や貴方の攻撃の衝撃を反射させれば、それなりのダメージになるのではぁ?」

「無理だな。衝撃の反射でれるなら、さっきので終わってた。ほぼ脳天からの攻撃だぞ?普通の人間なら水鏡から反射された衝撃で、頭から押し潰されて即死だ。それがどうだよ……それなりのダメージどころか、全くの無傷だ」


 険しい表情で蛍が吐き捨てる。

 フラッシュ状態の亜人の頑丈さは折り紙付きだ。


「やっぱり『星力鎧包』するのが必須か……おい!どうやって、身体の中を循環する星力の流れを掴むんだよ!?何かコツくらいあんだろ!」

「耳元で大きな声出さないで頂けますぅ?」


 蛍の声量に顔を顰める莉一は、「だから一朝一夕でできるものじゃないと言ったんですよぉ」とぶつぶつ言いながら口を開いた。


「異能を発動させる為には星力が必ず必要です。つまり異能を使っている時は、必然的に星力の流れを把握して星力の流れを操ってる筈なんですよぉ。無意識にねぇ。言い換えれば、例え無意識的にだろうと何だろうと、お宅が異能を使えてる時点で、星力の流れを掴むこと自体は既にできてるわけです。ヒントは以上です。後は自力で何とかしてください」

「そんなんでわかるか!!」


 莉一のヒントになっていないヒントに蛍が声を荒げる。最初から「『星力鎧包』は難しい」と教えていたにも関わらず、理不尽に怒られて莉一は額に青筋を立てた。


「逆ギレしないで頂けますぅ?そもそも星天七宿家の人間の癖に『星力鎧包』すらできないお宅が悪いのではぁ?足引っ張るなって言いましたよねぇ!?」

「だから土萌に戻ったのはつい最近だっつってんだろ!テメェこそお得意の氷結銃どうした!?全然効いてねぇじゃねぇか!ひとのこと言えねぇだろ!!」

「はぁあ!?星天七宿家の顔を立ててあげようとサポートに回ってあげただけでしょぉ!?亜人の一体も瞬殺できない癖に偉そうに言わないで貰えますぅ!?」

「そりゃテメェも一緒だろ!!“シスコン眼鏡”!!」

「じゃあお宅は“狭量ヤンデレ”ですかぁ!?」


 敵を前に口論を始める二人。

 相手が奏楽だけを一心に狙っているから良いものの、そうでなければ二人共揃って大怪我だ。

 亜人そっちのけで二人がギャーギャーと騒ぐ中、見かねたニャイチが物陰から「ニャー」と飛び出して来た。


「ニャーニャー!!」

「「……」」


 蛍と莉一の間に割って入ったニャイチは一生懸命声を発する。莉一はともかく、蛍には当然ニャイチの言葉が理解できない。それでも「敵前喧嘩は止めろ」と言ってることだけは伝わった。

 少し冷静になる二人。


「……おい、レーザーの強さと亜人の強度、どれくらい差があるかわかるか?」

「えぇ、まあ。大体の差はわかりますけどぉ……それが何かぁ?」


 蛍の突然の質問に意図がわからず、莉一は怪訝な表情を浮かべる。構わず蛍は続けた。


「俺の“水鏡”は込める星力量を増やせば増やす程、元の衝撃を何倍にも威力を上げて反射させることができる。当然水鏡を介す回数を増やしてもその分威力が上がる。つまり、元がどれだけ弱くても、いくらでも強力な攻撃に変えることができるわけだ」

「!」


 莉一がハッとする。蛍の言いたいことがわかったらしく、口の端を持ち上げた。


「成程……つまり、レーザー光線をお宅の水膜に反射させ、フラッシュ状態の亜人を貫ける程にまで威力を上げ攻撃する……そういうことですねぇ」


 続きを代弁した莉一に、蛍が「ああ」と頷く。


「込める星力量が増えて疲れるから、あんまりやりたくねぇが……そうも言ってられねぇからな。但し、今の状態じゃあ、星力量がたねぇ。バリア代わりに使ってる水鏡は全部反射用に回す。ソラ達を護る盾が無くなるから、レーザーの威力が上がるまで、死に物狂いでテメェがソラ達を護れ」


 蛍が横目で莉一を見やる。

 つまりは囮役だ。しかも、亜人は奏楽のことしか見ていないので、奏楽を護るどころか気を引くだけでも一苦労である。

 しかし、そのことをしっかりとわかっていながら莉一はフッと笑った。


「えぇ、付き合いますよぉ。自分も、奏楽殿にはまだ借りが返せてないんでねぇ。傷一つどころか、指一本たりとも触れさせませんよぉ」

「!……」


 莉一の切り返しが意外だったのか、蛍が少しだけ目をパチクリと瞬かせる。そして、満足げにニヤッと笑った。


「上等だ。それで?レーザーと亜人の強度の差は?」

「大体二十倍と言ったところですねぇ。後二十倍、レーザーの威力が上がれば、フラッシュ状態の亜人の肉体も貫けます」

「……間違いねぇな?」

「誰に物言ってんですぅ?こちとら、天才科学者ですよぉ?」

「……じゃあ良い……やるぞ!」


 作戦開始の幕が開いた。


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