番外編 大切な貴女へ捧ぐ唄
番外編です。
本編に関係あるけど、関係ない(どっちやねん!)
サラッと読んでくれたら良いです
七年前……宮園家に実花が来て、丁度二週間経った日の夜のこと――。
「お兄ちゃん、眠れないの」
「………またですかぁ?」
莉一がニャイチをプレゼントした日以降、実花は毎晩莉一のベッドに潜り込むようになっていた。最初こそ「眠くなったら、部屋に戻れ」と言っていた莉一も、今となっては先に実花が眠れるスペースを確保してベッドに入るようになったくらいである。
今日も今日とてニャイチを片手に、莉一のベッドにモゾモゾ入ってきた実花は、背中を向けて横になっている莉一に抱き付いた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん」
「寝に来たんじゃないんですかぁ?」
いつもと同じく高めのテンションで話しかけてくる実花に、莉一が気怠げな声を返す。
今は夜の十二時過ぎ。小学生には充分過ぎる程遅い時間である。
だが早く寝たい莉一と違い、実花の方はバッチリ目も頭も冴えている。莉一の文句をスルーして、「あのね」と更に話を続けた。
「お兄ちゃん、好きな人いる?」
「はぁあ?何ですぅ?その非科学的な質問」
予想外の話題に莉一が質問で質問を返せば、実花が「えっとね」と続きを話す。
「今日ね、絵本読んだの。その絵本にね、お姫さまが王子さまと恋に落ちてね、ずっと一緒に幸せに暮らすって描いてあったの。好きな人同士はずっと一緒にいられるの。私はお兄ちゃんとずっと一緒にいたいから、お兄ちゃんも私のこと好きになってほしいの」
中々に分かり難い実花の言い分をとりあえず理解した莉一は、理解した瞬間に一つ溜め息を吐いた。
「はぁ……馬鹿ですねぇ。男女の恋愛なんて所詮、動物の生殖本能と一緒ですよぉ。良い様に言い換えただけで、『好き』は『ヤりたい』と同義に過ぎません」
「お兄ちゃんの言ってること、難しくてよくわからないの」
「ヤりたいって思う相手が『好き』ってことですよぉ」
「じゃあ……お兄ちゃんは私と『やりたい』って思わないの?」
「すみません。今のは俺が悪かったです。直ちに忘れてください」
五歳の幼女の純粋さに、抱えきれない罪悪感を抱いてしまった莉一が視線を思いきり逸らしながら口早に謝罪を告げる。
自分の言ったことを後悔しながら、どうにかさっさと忘れてもらおうと、莉一は実花の頭に腕を回してギュッと実花を抱き寄せた。
「良いから、さっさと寝ますよぉ。明日も朝早いんですからぁ」
言いながら莉一が実花の頭を撫でる。それが嬉しいのか、実花は「ふふっ」と小さく笑った。
「ねぇ、お兄ちゃん。最後に一つだけ、お願い言ってもいい?」
「何ですかぁ?」
「あのね、子守唄歌ってほしいの」
「…………」
実花のお願いに、ある程度予想していたとは言え、莉一は面倒臭そうに顔を顰める。しかし、早く寝たいのか先程の罪悪感がまだ残っているのか、今夜二度目の溜め息を吐くと莉一は「はいはい、わかりましたよぉ」と渋々頷いた。
「歌ってあげるんですから、ちゃんと寝てくださいよぉ」
「はーいなの」
本当に寝る気があるのかわからない実花の元気な返事に、やれやれと呆れながら莉一はソッと口を開く。
――♪大丈夫だよ 愛しいあなたにこの唄を捧げよう
暗い夜を星で飾ろう 怖い夢を私が照らそう
一人じゃないよ この地球全てがあなたの味方
さあお休み 素敵な夢を♪――
今は誰も知らない物語。千年前から唄われ継がれる子守唄。誰もが知っているこの唄の、真の調べを奏でる者はまだ居ない。




