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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜常盤色の人形遣い〜
28/101

“きょうだい”とは

 

「……というわけなの」

「「…………」」


 所変わって、土萌邸近くの人通りの全くない公園。

 学校が終わった後、奏楽は蛍と一旦合流し、この公園でニャニーから莉一のことや事件の真相を全て聞かせて貰った。

 その内容は二人が思っていたよりも中々にディープなもので、しばらく二人と一体の間に沈黙が流れる。

 最初に沈黙を破ったのは蛍だ。


「……にしても、正義感とか皆無に見える莉一あいつが寝る間も惜しんで見張りとか意外だな」


 先程までの重たい空気は何処へやら。軽い口調で蛍が言う。

 ニャニーの話によると、人の血肉を求めるようになった実花を押さえる為に、莉一は毎晩寝ずに実花の身体を見張ってるらしい。鎖で拘束しているとはいえ、亜人並のパワーを持っている実花の肉体は鎖など簡単に壊してしまう。その上肉体が()()の為、実花は睡眠を取ることも気絶することもなく、体力切れすら起こさない。対する莉一は当然眠らなければ衰弱してしまう人間だ。

 蛍の言う通り、いくら自分の蒔いた種といえど、実花以外の人間に興味がないであろう莉一が自分の身を削ってまで見張るには、あまりにも割に合わない条件である。

 だが、その答えをニャニーは知っていた。


「……私の……私の所為なの。お兄ちゃんのパパとママは、私を『感情ココロのない兵士』にするつもりだったの。だから、感情ココロの無くなった私の身体はいっぱい訓練させられて……いつか本当にたくさんの人達を傷付けちゃうかもしれなくて……それが怖くて……とっても怖くて……お兄ちゃんにわがまま言っちゃったの。私の身体で誰かを傷付けたくないって……お兄ちゃん、それをずっと守ってくれてるの。お兄ちゃんに無理させてるのは、私なの」


 ニャニーの泣き出しそうな声が静かな夜の公園に響く。莉一を『実花』という鎖で縛ってしまった自分をずっと責めているのだろう。

 俯くニャニーに、奏楽は「大丈夫ですよ」と安心させるように微笑んだ


「ニャニーさんの……実花さんの所為じゃないですよ。莉一くんが今頑張っているのは、確かに実花さんの為かもしれませんけど、それは莉一くんの優しさであって、実花さんのわがままじゃありません」

「でも……」

「安心してください。お兄ちゃんはいつでも可愛い妹の為なら、何でもかんでもお節介焼いちゃいたくなる生き物なんですよ!」


 まだ俯いたままのニャニーの両頬に両手を添えて、無理矢理顔を上げさせると、奏楽は元気付けるようにニッコリ笑んだ。その妙な説得感に気圧され、落ち込んでいたニャニーも「うん」と歪な笑顔を返す。

 その様子を黙って見ていた蛍は「それで」と話を元に戻した。


莉一あいつを助けるのは良いとして、どうやって助けるんだよ。無茶を止めさせるだけで良いなら、とっとと捕まえて拘束すりゃ一番手っ取り早いが……それじゃダメなんだろ?」

「そうですね〜。それじゃあ、根本的な解決策にならないですね〜」


 非人道的な蛍の発言をフワフワとダメ出しする奏楽。言ってることは正しいが、ツッコむところはズレている。

 二人共そのズレに気付くことなく、あーだこーだと話を進めた。


「要は実花さんの身体から亜人の魂を抜けば良いんですけど、それだと実花さんの身体が死んじゃいますしね〜」

「別に良いんじゃねぇか?死体に魂入れられることがわかってんだから、亜人の魂抜いた後、別の奴の魂入れれば解決だろ?」

「莉一くんに聞かなきゃわかりませんけど、それができるならとっくにやってるんじゃないですか?多分できないと思いますよ?」

「……じゃあもういっそ、実花の身体の方は諦めたらどうだ?既に死体だろ?魂の方はニャニーが継いでんだから、身体に拘る必要ねぇじゃねぇか。『人は中身』って言うしな」

「……ほたちゃんの方が、人の心失くしちゃってる感ありますよね〜。却下です〜」


 真剣で和やかで、非情な会話が交わされる中、ニャニーが「あ、あのね」と二人の間に割って入った。


「私の身体はもう良いの。ぬいぐるみさんの姿でも、お兄ちゃんの側に居られるなら身体はもう良いの。それよりも私の身体でお兄ちゃんや色んな人達を怪我させちゃう方がもっとずっと嫌なの!それに私の身体はもう……」


 その時だった。

 実花の言葉を遮って、「ニャー」という聞き覚えのある鳴き声と共に、一体のぬいぐるみが奏楽の胸に飛び込んで来た。

 勿論、ニャニーの他に喋って動くぬいぐるみなどこの世に一つ。


「イチちゃん!どうしたの?」

「ニャー!ニャー!!」


 突然二人と一体の間に現れたニャイチは、奏楽の腕の中で必死に何かを伝えようと腕を振る。


「何て言ってんだ?」

「私にもわからないの」

「えっとですね〜……『実花ちゃんの身体が研究所から抜け出しちゃった』『莉一は寝てるから、代わりに早く止めて』って言ってますね〜」


 ニャニーにもわからない猫語をあっさりと意訳する奏楽に、なるほどと蛍は感心する。そして、言葉の意味を考えて「ん?」と首を傾げた。


「実花の身体が研究所ってところから抜け出したのか?」

「そうみたいですね〜。鎖を引きちぎっちゃったみたいです〜」

莉一あいつは寝てるんだな?」

「みたいですね〜。まあずっと寝ないで見張りは大変ですから、殆ど気絶と一緒ですね〜」

「つまり実花の身体が誰かを襲う前に、莉一あいつの代わりに身体を止めろってことだな?」

「そうですね〜」

「……つまり緊急ってことだな?」

「そうですね〜」

「………………」


 一瞬の沈黙。


「おっまえは!!緊急事態ならもっとそれらしい口調で言えよ!!全然焦らねぇから、こっちもすぐに動けなかったじゃねぇか!!」

「焦っても良いことないですよ〜?」

「そういう問題じゃねぇよ!!!早く行かなきゃ犠牲者が出るだろ!!」


 最もな理由で怒鳴る蛍。だが、当の奏楽は「大丈夫ですよ〜」とどこ吹く風。


「莉一くん、もう起きて実花さんのところに向かってますから〜」

「……何でわかんだよ、そんなこと」

「莉一くんと実花さんの星力辿りました〜」

「…………ならもっと早く言え!!」


 肩をワナワナ震わせたかと思うと、蛍は怒声を上げながら奏楽の両頬をつねった。対する奏楽は「いひゃいれひゅ〜」と大して反省していない。

 いつものことなので、蛍は両手を離して溜め息を一つ吐くと、諦めたように「じゃあ」と話を切り出した。


「時間あるなら、実花の身体をどうするか決めるぞ。そうしねぇと、動くに動けねぇ」


 真面目に切り出した蛍に続いて、少し赤くなった両頬をさすりながら奏楽が「ですね〜」と口を開く。


「それより、ニャニーさん。さっき何か言いかけてましたよね?何て言おうとしたんですか〜?」


 奏楽が首を傾げると、ニャニーは「それは」と言い難そうに視線を逸らした。しかし覚悟はできているのか、コクリと一つ頷くとニャニーは真っ直ぐ奏楽と蛍を見据える。


「あのね、私の身体はね……もう()()なの」


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