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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜常盤色の人形遣い〜
24/101

図星

「………は………」


 突然の奏楽の発言に、しばらく沈黙が流れる。先に静寂を破ったのは奏楽だ。


「昨日莉一くんが消しちゃった星力痕、あれは莉一くんのモノじゃないですよね?」


 確認するように奏楽が尋ねると、莉一の焦った声が先程までの穏やかな空気を掻き消した。


「否、何言ってんですかぁ!?犯人は自分です!!昨日、貴方が言ったんですよぉ!?残っていた星力痕が自分のと似てたって!」

「似てるとは言いましたけど、同じとは言ってませんよ~。あれは間違いなく、莉一くんとは別の星力です」

「…………」


 奏楽が断定すれば、莉一が押し黙る。更に奏楽は続けた。


「時間がいてたら、莉一くんの星力だと勘違いしちゃったかもしれませんけど、星力痕を確認してすぐ莉一くんがその場に現れてくれましたからね〜。流石に間違えようがないですわ~」


 奏楽の言葉を聞きながら、莉一は小さく舌打ちを溢す。


「……仮に現場に残った星力痕が自分のじゃないとして、だからと言って犯人が別の人間だと決めつけるのは尚早ではぁ?偶然その場で星力を使っただけかもしれないでしょぉ?」


 莉一の青白い額に汗が滲んでいる。

 ただの屁理屈のように聞こえるが、莉一の言う事も間違いではなかった。

 異能なり異形なり使えば、自身の星力痕は一週間その場に残る。だが、必ずしもそれが事件に関わっているとは限らないし、星力痕が残った日と事件の起こった日は別かもしれない。

 事件現場に残った星力痕の主が犯人であるとは、百パーセント言い切れないのである。

 勿論そんなことは奏楽の方がよく知っているが、奏楽は確たる証拠でもあるのか、犯人が莉一ではないと断定しているようだった。


「ならどうして莉一くんは昨日わざわざ星力痕を消しに来たんですか?事件現場から自分以外の星力痕が出れば、疑いの目をそっちに向けることだってできるのに」

「それは……自分の星力と似てるんで、下手をすれば自分が犯人だと疑われるかもと思ったからですよぉ」


 莉一がしどろもどろに告げる。すると、奏楽はキョトンとした表情を浮かべて首を傾げた。


「自分が犯人だって疑われたくなかったんですか?」

「はぁあ?そんなの当たり前でしょぉ?」


 奏楽の疑問に莉一が「何言ってんだ、コイツ」とでも言いたげな表情かおを浮かべた。

 犯人が自分だと疑われないようにするのは当然のことだ。自分が犯人であるなら特に。

 何を疑問に思うことがあるのか、奏楽の頭の中が理解できず、莉一は眉根を寄せたまま奏楽を見つめた。対する奏楽はその視線に気付いたのか、ニコッと莉一に笑みを向ける。


「どちらかと言えば……莉一くんは自分が犯人だって疑われたいように見えるんですよね〜」

「ッ!…………」


 奏楽の言葉に僅かながらも莉一が動揺を見せる。構わず奏楽は続けた。


「昨日も今も、莉一くんは自分が犯人であることを一回も否定してませんし、自分以外の誰かが疑われたら逆に焦って否定してます。普通に考えたら、真犯人である誰かを庇ってるようにしか見えないんですよ〜。これで自分が犯人であることを疑われたくないなんて言われたら、ビックリしちゃいます」


 正論を突きつけられ、莉一が「それは」と言葉を濁す。二の句が告げないでいる莉一を横目に、奏楽は「ニャイチさん達は」と急に話題を変えた。


「この子達からは、微かにですけど莉一くんの星力を感じるんですよね〜。多分莉一くんの異能で作られたものだからでしょうけど」

「…………」


 二体のぬいぐるみの頭を両手で撫でながら奏楽が告げる。その様子を「突然何だ」と言わんばかりに、怪訝な表情で莉一が見つめた。


「莉一くんの異能で作られた生き物に、莉一くんの星力が残るなら……現場に残った星力痕が莉一くんの星力と似ていた理由も……何となく想像できますよね?」

「…………」


 意味深に微笑んで奏楽が小首を傾げる。だがしかし、莉一は黙ったまま口を開こうとはしなかった。ただ、その額にはずっと汗が滲んでいるし、隈の濃い目は瞳孔が開いている。

 どちらも緊張によるものだ。


「莉一くんの異能は無生物にしか効果がないらしいんで、人や動物には能力が使えないかもしれないですけど……それなら()()は?」

「ッ!!」


 あからさまに『死体』という単語に莉一が反応する。


「例えば……元々星力を持っている人間の死体に、莉一くんの異能で別の魂を宿せば……宿された死体には元々の自分の星力と莉一くんの星力が混合しちゃうんじゃないですか?ちょうど現場に残っていた星力痕みたいに」

「…………」


 奏楽が静かに告げる。ずっと現場の星力痕が莉一の星力と似ていることを奏楽は不思議に思っていた。

 本来他人の星力同士が混じり合うことは絶対にない。自分の身体に別の人間の星力が流れ込めば、自身の肉体が内側から破裂してしまうからだ。自分の星力は自分だけのもの。

 だからこそ、星力痕が莉一のものと似ていると感じた時、ただのそら似だろうと奏楽は思った。

 だが星力の持ち主が死体となれば話は別だ。死体に残った星力は謂わば燃えカス……他人の星力と反発する力は残っていない。

 それに加えて莉一の異能と、実際に莉一の星力が移っているニャイチ達。

 これだけヒントがあれば簡単にわかる。


「莉一くんは誰か……生き返らせたい人が居たんですね?それで自分の異能を使った。でも結果は……恐らく身体と魂の不一致による暴走。人を襲って誘拐してるのもその所為ですよね?」

「…………だったら何ですか?」


 ようやく莉一が口を開ける。

 もう誤魔化すことはできないと諦めたようだ。


「ええ、そうですよぉ!貴方の言う通り、事件を起こしてるのは自分のエゴで生み出してしまった()()()ですよぉ!それが何ですか!?貴方には関係ないでしょうぉ!?」


 莉一が今までにない大声で叫ぶ。しかし、そんなことで怯む奏楽ではない。


「関係なくないですよ。だってこの事件の捜査権はボク達が持ってますから。ちゃんと真相を突き止めて解決する責任があります」


 負けじと奏楽が言い返せば、莉一は煩わしそうに立ち上がり正面から奏楽を見下ろした。


「だったら、さっさと自分を捕まえれば良いでしょうぉ!?実行犯は自分じゃなくても、ヤってるのは自分の異能で動いてる化け物なんですから!!犯人は自分も同然です!!誘拐してきた人達だってすぐに解放しますよ!!これで良いでしょうぉ!?わかったら、もう()達に関わらないでください!!!」


 叫ぶだけ叫んで、莉一は肩で息をする。荒かった呼吸を少し落ち着けると、何も言い返してこない奏楽に満足して、莉一はその場から立ち去ろうと背を向けた。


「莉一くん!」

「……まだ何かぁ?」


 奏楽に呼び止められ、莉一が苛つきながらも顔だけ振り返る。その視線の先には、何故か普段と変わらない穏やかな笑みを携えた奏楽が立っていた。


「またニャイチさん達とお話しさせてくださいね〜」

「…………」


 最後の最後まで意味がわからない奏楽に困惑しながらも、莉一は無視して校舎へと帰って行ったのであった。

読んで頂きありがとうございました。


慌てて書いたので、多分後で改稿します

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