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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜常盤色の人形遣い〜
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悪戯好き

 完全にヤバい奴だと全員から認識されるに至った自己紹介も、その後何とも言えない空気感の中行われたホームルームも終わり、今は一時間目の授業が始まるまでのちょっとした休憩時間。各自授業の準備だったり、読書だったり、友達と談笑したりと過ごすものだが……貴人のエリート中のエリート、選ばれし一組の教室はとんでもない騒がしさに包まれていた。


「見て。本当に奏楽様よ!転入なされたって言うのは本当だったのね!」

「あぁ~、生の奏楽様はやっぱりオーラが違うわ!いつ見ても美しい顔!」

「本当!何食べたら、あんな顔に生まれるのか是非知りたい!というか、こっち向いて欲しい!手ェ振って欲しい!!」

「なっ、それを言うなら私だって!ウィンクされたり、投げキッスされたり……それからそれから!!」


 テンションが爆上がり中なのか、ひそひそ話のつもりが思いきり大音量で黄色い声を上げている女生徒が十数名、一組教室前を陣取っていた。その熱い視線の先には麗しの王子様……もとい奏楽が自分の席に座って、蛍とお喋りしている。

 だが、流石に教室前で騒がれれば嫌でも聞こえてくる会話の内容に、奏楽はふと視線を彼女達へと向けた。

 そして……。


「あれ?奏楽様、こっちを見て……!!!?!???!」


 ハイテンションだった女生徒達が一斉に静かになる。

 奏楽が彼女達に優しい微笑みを向けながら手を振っていたのだ。そして「えっとウィンクと投げキッスですよね」と呟くと、言葉通りウィンク付きの投げキッスを披露してくれた。


「「「……………ギャーーーーーー!!?!??!!」」」


 数秒後、女生徒達の断末魔が校舎中に響き渡る。中には失神する者もいた。

 軽くパニックに陥った彼女達を横目で見ながら「賑やかですね~」と呑気に笑っている奏楽に対し、蛍は不満そうに口をへの字に曲げる。


「ソラ、何だよ今の」

「え、何って……ん~…ファンサ?」

「……お前は何処のアイドルだよ。あんなこと気安くすんな」

「え~、でも一応ボクは民衆の英雄なんで、愛想良くしないといけないんですよね~。それにほたちゃん嫌がってますけど、次期北斗七星になるなら、ほたちゃんもいずれしなくちゃいけないですよ?」


 奏楽が首をコテンと横に倒せば、蛍はウゲッと顔を顰める。余程愛想良く振る舞うのが苦手らしい。

 とその時、一つの人影が蛍を覆った。


「あー、談笑中失礼するよ、お二人さん」


 声を掛けられて、蛍達は声の主の方へと顔を向ける。そこには担任の教師が立っていた。


「ちょっと話があるからさ、蛍君昼休み始まってすぐ職員室に来てくれない?五分で済むから」

「……俺だけ?」

「そう、蛍君だけ。じゃ、一時間目頑張って」


 用が済むなり、蛍の返事も聞かず担任はさっさと教室から出て行った。

 残された二人は互いに顔を見合わせる。


「ほたちゃん、転入初日でもう何かやらかしたんですか?」

「そんなわけねぇだろ!…………多分」


 悲しいことに完全に否定できない蛍は、バツが悪そうに視線を逸らした。

 何か心当たりがあるわけではないが、大抵周りに迷惑をかけた時は蛍自身に思い当たる節がないことの方が多い。知らず知らずのうちに蛍の不幸体質が周りをも巻き込んでしまっているだけだ。

 それでも転入初日でもう何か呼び出しをかけられる程のことを起こしてしまったのかと、全力で記憶を手繰り寄せる蛍に、奏楽が「まあ冗談ですけどね〜」とニコニコ告げる。


「は?冗談?」


 固まる蛍に構わず、奏楽は続けた。


「多分先生の話は、ほたちゃんが本当に次期北斗七星候補なのかの確認だと思うんで〜、別にほたちゃんが何かやらかしちゃったわけではないと思いますよ〜」

「…………心当たりがあんなら、先に言えよ!!」

「ごめんなさいです〜」

「その謝り方は一切反省してねぇな?」


 蛍の言う通り、奏楽は全く反省していなかった。その証拠に、表情はいつも通り柔らかな笑みを携えている。

 それでも蛍自身、本気で怒っているわけではないので、仕方ないの一言で片付けてしまうわけだが……。


「まあとりあえず、ソラ、昼休み付いて来るか?それとも教室で待つか?」


 蛍が尋ねる。

 昼ご飯はいつも二人一緒に食べるので、蛍不在の五分間何処で待つのかという質問だ。

 奏楽は「そうですね〜」と人差し指を顎に当てると、何か思い付いたような表情かおを浮かべた。だがこういう表情の時、奏楽が思い付いているのは大抵妙案ではなく、ふざけた案である。そのことを嫌という程身に染みてわかっている蛍はゲッと嫌な予感に顔を歪めた。


「おいソラ、何考えて……」

「ほたちゃんが先生とお話してる間、学校探検に行ってきます!」


 蛍が制止する前に奏楽が言い切った。

 その瞳は新品の玩具を与えられた子供のようにキラキラワクワク輝いている。

 やはり奏楽の思い付きは碌でもないなと改めて思い知った蛍は、一も二もなくコレに反対した。


「アホか!!一人じゃ学校に行くことすらできねぇ方向音痴が何言ってんだ!?後で探す俺の身にもなれ!!そもそもたった五分で何処探検するんだよ!?」


 取りつく島もない蛍の剣幕に、奏楽は「え〜」と頬を膨らませる。


「ほたちゃん、ボクを探すの得意じゃないですか〜。ボクだってほたちゃんの位置はわかりますし、迷子になんてなりませんよ?」

「そういう問題じゃねぇよ!それに一人で廊下なんざ歩いてたら、馬鹿達に囲まれるだろうが!!仕事や授業は仕方ないとして、それ以外で俺以外の奴を視界に入れんな!!」

「ほたちゃんは我儘ですね〜」


 蛍の頭がおかしい暴論を呑気にあしらいながら、奏楽は案外あっさりと「仕方ないですね〜」と引き下がる。


「わかりましたよ。一人で廊下は歩きませんし、校舎の探検もまた今度で良いです」


 やけに素直に諦めた奏楽に、逆に蛍の方が面食らってしまった。


「は?本当にわかったのか?」

「勿論です〜」


 いまいち信用できない蛍だが、奏楽は曇りのない眼で首を縦に振る。

 嘘をついてる様子ではない……が確実に何か企んでる表情かおだ。


「……絶対にするなよ?」

「わかってますよ〜」



 *       *       *



 そして到頭昼休みがやって来た。


「ソラ、絶対に一人で歩き回るんじゃねぇぞ?」

「ほたちゃん、もうソレ聞き飽きました」


 蛍の念押しに奏楽が呆れるように口を開く。

 休み時間の度に、こうして蛍は奏楽の前に立って、念押ししてくるのだ。それもこれも奏楽の日頃の行いと蛍の過保護の所為な訳だが、流石に耳にタコができるくらい聞かされれば誰だってウンザリする。


「絶対に廊下を一人で歩き回ったりしませんから!早く行かないと校内放送で呼び出されちゃいますよ?」


 奏楽が蛍の背中を押せば、『校内放送』の言葉にウッと眉を顰めた蛍がようやく教室の扉の取っ手へと手をかける。


「絶対に絶対にすんじゃねぇぞ!絶対にだ!」

「はいは〜い、お気をつけて〜」


 去り際までしつこく忠告する蛍を笑って見送る奏楽。

 蛍の背中が完全に見えなくなったところで、「良し」と呟く。


「それじゃあ行きますか〜」


 結局蛍の念押しに次ぐ念押しは無意味に帰したのであった。

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