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4.クレアの見た事実①

早くに亡くなった友人の子供達を私は親戚の子供のように見守ってきたつもりだった。

私にも家庭があるので引き取って親として面倒を見てあげることは叶わなかったが、それでも出来る限りのことはしてあげたいと思っていたし、実際そうしてきたつもりだった。



兄ザイは幼い妹マリーの面倒を一生懸命に見る良き兄で周囲に甘えることなく『自分達で出来ることはやりますから』と平民騎士として働きながら本当に頑張っていた。


やはり神様はそんなザイの頑張りをちゃんと見ていたのだろう。三年前には美人で気立ても良いと評判の隣町に住むロアンナとザイは結婚をすることになったのだ。


私もその結婚を聞き、自分の子供が結婚するような感覚で喜んでいたのだ。




「えっ、結婚式を挙げない?!いったいどういうことなの…」



当然結婚式を挙げるものと思っていたのに、ザイからは『結婚式はあとでやろうと思っている』と告げられたのだ。

特別な事情がない限り平民だって式は挙げるものだ。ザイだって働いているのだから式くらい挙げる余裕はあるはずだが、『もし経済的な理由が原因なら少しは援助するから式は挙げた方が良い』と説得し始めると彼の口から出た言葉は思ってもみないことだった。



「実はマリーが結婚式には出たくないって…」


そう言ってザイは式を今挙げない理由をポツリポツリと話し始めた。どうやらマリーは兄を取られると思ってなのか交際していた時からロアンナに良い顔をしていなかったらしい。

結婚が決まって二人でマリーに報告した時も祝福どころか『絶対に認めないからね』と何度も家から飛び出しその度に二人で必死に探し回っていたらしい。


その後なんとか説得して結婚は受け入れてくれたけど今度は『式なんて絶対に出ないからっ!』と駄々を捏ねているのだと言う。


 はあ…、まったくあの子ったら14歳にもなって何を言っているのか。



ザイはただの兄ではなく亡くなった両親代わりでもあるからマリーにとっては大きな存在なのは分かる。

たった一人の兄を取られてしまうように感じるのも理解できるけど、だからと言って兄の幸せを邪魔するのは道理が通らない、それはただの我が儘だ。



「ザイ、私からビシッとマリーに説教をしてあげるから式はちゃんと挙げなさい。嫁いでくる花嫁やあちらの家族に悪いわ」


当然のことだが私は式を挙げるべきだと主張した。結婚式はけじめでもあり、花嫁にとって晴れの舞台でもある。それをつまらない我が儘でやらないなんて有り得ない。



だがザイは私の忠告を聞かなかった。


「実はロナもこれから一緒に暮らしていくマリーの気持ちも大切にしてくれるって言ってくれて…。結婚式は落ち着いてから挙げることに賛成してくれたんです。ロナの家族にも彼女が話を通してくれて、俺達の意見を尊重するって最終的に言ってくれています。…だから式は後で行います」


自分でも嫁いでくきてくれるロアンナに対して申し訳ない気持ちがあるのだろう。そう言いながらもザイは自分の決断に苦しんでいるようで表情は暗い。


きっと彼だって式は挙げたいはずだ、でも未成年の妹がまた家を飛び出すことになったらと考えたのだろう。世間は無謀な家出娘に優しくはない、今まで無事だったからと言って次も無事だとは限らない。



もし私が本当の親戚なら頭を引っぱたいて『何言ってんだいっ!』とザイとマリーを怒鳴りつけるところだが、私は今まで自分が出来る範囲でしか手を貸してこなかった負い目もあってそれ以上は言えなかった。


ザイが両親を亡くした後、遊びもせずに頑張ってきた姿を見て来たから。

責任を負わないただの知人でしかない立場を選んだくせに、こういう時だけ出しゃばるのは気が引けてしまったのだ。



『素晴らしい花嫁を貰うあんたは世界一の幸せ者だね』と落ち込んでいるザイを慰めるしかなかった。




後日式も挙げずにひっそりと嫁いで来た花嫁はそんな状況にも関わらず『私は十分幸せですから』と朗らかに笑っている素敵な女性だった。


私が訪ねた時には幼い頃に病で亡くなった母親がいつか花嫁となる娘の為に作ってくれたという純白の花嫁衣装を見せてくれ『いつかこれを着てザイと式を挙げますからその時は是非来てくださいね』と隣に座っているザイと見つめ合いながら微笑んでいる姿を見て、この子がザイに嫁いできてくれて本当に良かったと思っていた。




だから三年後にザイではなく妹のマリーが結婚式を挙げると聞いた時は驚いた。順番を考えたら、マリーの前にザイがちゃんとロアンナの為にも式を挙げるべきだ。


だがそれをザイ達に告げたらマリーは『なんで兄さん達が今更式を挙げるのおかしいわ。私とミールとの結婚式はもう彼の家族とも話し合っているのだから変更なんて無理よ』とむくれてしまった。


 この子はまったく…誰に似たのだろうか。



私はその様子を見て呆れてしまったが、ザイが『俺達はマリーのことが済んだ後に色々と新婚気分でやり直すつもりなので…』とロアンナと手を繋ぎながら見つめ合い照れるように言っていたので、まあ二人が納得しているのならと引き下がった。



「じゃあザイとロアンナが結婚式を挙げる時にはちゃんと呼んでね、楽しみにしているんだから」


「ええ勿論、クレアさんも呼びますから来てくださいね。ふふふ、新婚ではないから照れるけど…」


そう言いながらロアンナはとても嬉しそうに自分達の式について話し、ザイもそんな妻を愛おしそうに見つめている。この時の二人はどこから見ても幸せそうな夫婦だった。

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