a-4_門出
スオの用意していた獣車に乗ってしばらく、建物の間から神授堂が姿を見せる。
近くで見るとまた、その大きさ、荘厳さ、神聖さが際立って見えた。
神授堂は周りに建てられている建物とは一線を画すような丁寧な装飾がなされ、材質も滑らかでヒビ一つない。それでいてその不思議な石質は、建物の外観に長い歴史を感じさせた。
神授堂の来訪者に対して大口を開けて出迎えるその門は、四つの弧が連なったような作りをしている。
しかし、空いている門戸は一つだけで、そこを大勢の人が出たり入ったりと入り乱れている。
車が止まり、その門の前に降り立ったナギは、新たな出発点を目前にして鼓動が高鳴っていることを感じた。
「ここが………」
「そうだ、ここが神授堂。イニティアム国の中心点にして『中核』。そして我々『神衛隊』にとっての『重要拠点』。そして、お前の目標に根差して切り離せない『基盤』だ」
ナギの独白に対して、スオが応えた。
再三言われてきたことであったが、いざ実物を目の当たりにしていると、それに対する感じ方も変わってくる。
「………よぉし、頑張るぞ!」
気合も入ると言うものだ。
「………あまり気負うな。空回りほど虚しいものもない」
それに対してスオがいつも通りの口調で言う。
せっかく盛り上がった気勢を削ぐような冷め切った言葉だが、それはいつもの皮肉というよりも強い実感のようなものが込められていた。
「一つだけ、忠告しておこう。私がお前に手向ける、最初で最後の寿ぎの言葉とでも思ってくれ」
ナギが頷くと、スオは私の顔を覗き込むように見下ろした。
「………いいか、悪目立ちすることは避けろ。今更だが、お前は特殊な立場にいる。くれぐれも………」
「それくらい、分かってますよ」
「………ならいいんだがな。とはいえ、余程なことがない限り問題はない筈だ」
「余程なこととは?」
ナギは純粋な好奇心から訊き返す。
「破壊的、もしくは破滅的な言動。そして、それに準ずる行動」
彼の答えは単純にして明快だった。と言うか、それは他の誰であっても問題になるだろう。
「いや、私をなんだと思ってるんですか」
「さあな。………さて、もういいだろう。行ってこい。検討を祈るよ」
スオはナギの背中をトンと押した。
虚をつかれてナギは踏鞴を踏み、その拍子に足が一歩分、門の向こう側へと踏み出した。
振り返ると、スオはいつもの皮肉気味な笑みを口元に浮かべて軽く手を振った。
なんとも手荒い激励。
しかし、そこに確かにスオの心遣いを感じ、ナギは一人微笑んだ。
「行ってきます!」
そうしてナギは、スオに背を向けて勢いよく歩き始める。
そこに広がる道に胸を躍らせて。