d-2_夜霧、霞む天降星
「ん、そっち、どうなった?」
初秋の夜風。
冷たい。
その中に混じった土塊と青臭い香り。
サクラスはそれに状況の変化を感じとり、遠隔地に居る自分の相方に問いかけた。
『マギスが指揮で御化の討伐が行われたようだ。
リノバが突貫、それでも手こずっていたようだったんだが………』
「マギス君が加勢して形成が変わった?」
『いや、あいつは出てない。たまに、まずい状況の隊員を助ける動きはあったが、それくらいだ。
一応、責任者だろうし、補助にまわっているんだろう。
消去法だが………、下で何かあったのだろうな』
サクラスは、スオが言わんとしていることを察し、一人ごち微笑を浮かべる。
「ナギちゃん、達かな?がやったんだと思う?」
『………まさか本当に、巻き込まれているとは思わなんだ。ひやひやしたぞ』
「まあ、結果よし。もう安心なんでしょ?お疲れ、もう帰って休んでいいよ」
『そうもいかない。すぐ行く。待ってろ」
スオがサクラスの提案を跳ね除け、会話を打ち切ったのを感じた。
サクラスは冷たい空気を肺いっぱいに吸い込み、身体のうちに籠った熱を少し吐き出す。
少し伸びをしつつ、大橋の際に移動して、川面を見下ろす。
川面には月影。
それは水の流れに揺られ、形を変えていく。
その形は常にどこかが異なっていて、一瞬でも同じではない。
それでも、それは月影なのだから、不思議なものだ。
「あなたもそう思うでしょう?」
他には誰もいない橋の中腹で、サクラスは独白する。
否。それは確かに他者に向けられたものだ。
橋の街灯、その光で照らされて、ぬるりと白い巨体が黒から吐き出された。
「あなた、本当にしつこいわ」
サクラスは腕を振り、神の刃をその手に降ろす。
黒影の周りを銀色の光が流星のように軌道を描く。
カ、ギャリッ。
『白面の御化』はエナメル質な黒い鋭爪を大橋の石畳に打ち付ける。
その音には苛立ちを含み、あたかも「お前がな」とでも言いたげだ。
「まさか、『御化』の感情を読み取れる日が来るなんてね。これからも長い付き合いになりそうだし、仲良くしよ」
そして、サクラスの身体は『加速』して、霞み消えた。




