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幽明の番人  作者: 寺島という概念
『信仰』の御化
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a-28_活路を征く_4

 逃げ場はもとより存在しなかった。

 この仄暗く、狭い空間に、その存在はあまりにも巨大で、規格外だった。

 そもそもたった三人で挑むような存在ではないのだ。

 それでも幸運と呼べるような事柄があるとすれば、この御化は攻撃性が薄いこと。

 その触腕は絡め取り、拘束し、人を攫うが、これまでのところ直接的な危害が加えられたことはない。

 彼女達三人はややもすれば地を埋めるその巨大な御化に「結果として殺される」のであって、殺すという明確な意思と行動を伴うものではない。

 かと言って、それは彼女らを認識していない訳ではなく、何を手がかりにしてか、触手を伸ばし、迫り来るのだ。

 そこには「意思」があり、明確な「目的を持った行動」である。

 なぜ敵意がないのに関わらず、人を襲うのか。

 そしてなぜ、ここにきて御化は急に膨張を始めたのか。

(分からないわね)

 リンは節々の痛む身体に鞭打って無理やりに行動を続ける。

 今、彼女の肩には自分自身だけではなく、まだまだ何も知らない、しかしこれから成長を続けるであろう後輩二人の命をも掛かっていた。

 中途半端に諦めることは、二人のためにも、自分の矜持きょうじとしても許せなかった。

 その「意地」だけが彼女を突き動かしていた。文字通り、限界を超えて。

 尤も、それが可能となるのは、彼女の意思だけによるものではない。

 リンの身体能力は別段、低くもないが高いとは言えず、それでもここまで戦えたのはひとえに「加速」の御技に起因する。

 自分がこれからなぞる動作の動線、その一部を文字通り「加速」させる。

 速さが増すということは単純に力が増すこと同義だ。

 故に筋力に寄らず、普段は持てないような重い物を運ぶことも理論上はできる。

 そして彼女はこれを使い、身体能力の底上げを行うことで、蔦の触手に対抗してきた。

 しかしこれは諸刃もろはの剣である。

 出力を上げれば上げるだけ負荷が増えるのはある種当然のことと言えるが、その上昇幅が「火起こし」などの比ではないのだ。

 故に「加速」は出力を抑えるか、ごく短い間に絞って使うことしかできない。

 これを破れば、御技としての精度が著しく落ちるばかりか、身体にも多大な負担がかかる。

 上手く「技」とならなかった動作分の余剰分を実際の身体で支払うことになるからだ。

 集中力を要するため、他の技を使う余裕もない。

 息が上がり、身体が空気を求める。

 もう考えることも難しく、立ていることすらも辛くなってきた。

 もう何本の蔦を切り落としただろうか。

 リンは背後の二人を思いやる。

 二人もよく戦ってはくれているが、やはりまだまだ技術が足りていない。

 リンが動くことを辞めてしまったら、寸刻も持つまい。

 せめて、二人のために道を切り開かなければ。

(私が止まってしまう前に)

 リンは迫ってきた蔦を切り落としたが、その際につまずき、大きく半身が揺らいだ。

 彼女の意思とは関係なく、身体は動くことを諦めようとしている。

「まだ、止まれない………!」

 リンは「加速」を体勢の維持に用い、何とか踏みとどまった。

 それは単なる苦し紛れ、起死回生とはいかない。

 活路には程遠い。

 だが、彼女の積み上げてきたその抵抗は、思わぬ形で結実した。

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