a-28_活路を征く_3
完全に閉じ込められた。
切り裂かれた蔦の放つ青臭い臭気が充満し、息を詰まらせる。
暗闇で、リンがどうしているのかは判らない。
ナギはそれでも迷わず、直進を続けた。
まだ蔦の壁は浅い。そんな直感があった。
そして、その直感は正しい。
御化が伸ばした蔦は無限にも思えるほどではあったが、実際には無限などではあり得ず、根塊を守るために重点的にそれらを展開していた。
つまり、来るものは拒むが、去るものを徹底的に追い詰めるような余地はなかったのだ。
ナギは走った。いつ、ぶつかるかは分からないが、それでも止まる気はなかった。
突如、視界に雷を思わせる光の筋が走った。
蔦の檻、その隙間を埋める光だ。
それは熱を伴って、ナギの頬を撫ぜて流れた。
そして、その光が壁の位置を知らせてくれた。
ナギは体当たりのために一際強く足を踏み込み、衝撃に備えて目をつむった。
「おりゃぁあ!」
しかし、ナギの気合いとは裏腹に、一向に衝撃は訪れない。
代わりに目を閉じていてもパッと開けたように視界が明るくなったのが分かり、ナギは目を開けた。
勢い余って地面を転がり、受け身をとったナギは、辺りが焦げ臭いことに気が付く。
背後を見やると、蔦が穴のように綺麗に切り取られている。
加えて、その周囲に表面が黒く焦げ、苦しむかのようにのたうつ蔦が見えた。
前者はリンの手によるものだろう。
ナギより先に蔦の壁を切り裂いたのだ。
後者は外からのもの、つまり、スーの手によるものに違いない。
スーが蔦の壁の表層を焼いたことで蔦が集まる速度が遅くなり、壁が緩くなる。
そしてそこに、リンの『神授の器』が切り込んだ。
それらが二つの要素があったからこそ、ナギとリンの二人は包囲から抜けられたのだ。
神がかり的な連携。
全く偶然の産物ではあるとはいえ、ここまで彼女達の動きはよく統率の取れたものだった。
リンが道を切り開き、ナギがリンの行動を補佐し、スーが二人の退路を確保する。
それは、並の『御化』が相手であれば容易に打ち果たすことができる程のもので、逆説的に、この『蔦の御化』が凡庸ではないことを物語っている。
リンは包囲から抜け出したことには安堵しつつも、焦りを隠せない様子だった。
「流石に………これは………手に追えない。再生が、早すぎる………」
息も絶え絶えといった様子のリンは、誰に向けたものでもない独白をこぼす。
彼女は頬を伝う汗を手の甲で拭いつつも、御化から目を離さなかった。
その間にもやってくる蔦の触手を何本か払いのけながら、ナギはスーに目線をやる。
スーはそれに気づき、頷くと目を閉じた。
「焼けろ!」
その瞬間、空気が膨張し空気の流れを頬に感じた。
その風は、蔦の内で感じたものと同様のもの。
余波として生み出されたその微風は、スーの性質を表すかのように柔和的で暖かい。
しかし、それは破壊的な炎熱を伴う『御技』である。
目の前で、迫り来る蔦が一瞬だけ燃え上がった。表層を焼き焦がした蔦の触手は怯んだように根塊に引っ込んでいく。
ナギは改めてその威力を目の当たりにし、唸る。
自分のそれとは遥かに違う次元の『火起こし』、それはこの難所を切り抜ける助けになるに違いない。
ナギの瞠目を余所に、スーは次々に蔦を焼いていく。
反省を活かし、うまく調整しているのであろう。先のように広く延焼することはない。
それがさらにスーを心強い存在にしていた。
ナギはナギで、自分の間合いに入った蔦を片端から叩き落とし、抑え込み、焼き焦がす。
しかしそのうちに二人だけでは捌ききれなくなってきた。
気づけばスーの背後に触手が迫っている。
「スー!」
ナギの呼びかけで彼女は振り返り、跳び退こうとするが、遅い。
触手が彼女の腕に絡む。
しかし、その触手は急に力を失って地面に落ちた。
リンが触手を神授の器にて切り裂いたのだ。
「ありがとう二人とも、でも、気をつけて。『火起こし』は決して燃費がいい技ではないから」
まだ荒い呼気を漏らすリンではあったが、二人が時間を稼ぐうちに多少は回復したようで、二人に対する謝辞と忠言を付した。
そしてそれは彼女の言う通りで、次第にスーが炎熱を放つまでに間隔が空くようになっていた。
その上、状況はどんどん悪くなっていく。
もはや止めどない流れと化した蔦の奔流は、見る間に三人のいる小部屋を埋めていく。
今や蔦に覆われていないのは三人が背にする壁際と、三人が抵抗してできた隙間、それだけだった。
サムイ。ユキキライ。




