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幽明の番人  作者: 寺島という概念
『信仰』の御化
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 小部屋のように奥まった空間に灯った薄明かり。

 その灯りが照らし出したものは、彼にとっての罪の証。

 故に、それは彼にのみ意味をなすものだった。

 例えそれがうごめき、血を吸い、命を奪ったとしても、彼以外にとってそれは、そういった存在であるというだけの話である。

 それが『御化』であり、『敵』であり、『神の力』によって討ち倒されるべき存在だと言う以上の意味は持たない。

 その長く伸びた蔦は焼かれ、ちぎられ、刻まれて、最後にはその中核たる器官を破壊され、いずれ終わりを迎えるのだ。

 その結果はおそらくくつがえることはないだろう。

 『神の力』。『神衛隊デフラードス』はこの程度・・・・の『災害』を取り逃がすほど、甘くはない。

 そのことをシンは重々承知していた。

 見て、聞いて、体感した物事が、彼のこれまでを否定し、構築し直してきたのだ。

 若いシンにはそれに容易に対応するだけの用意があった、あってしまった。

 故に、彼は無意識のうちにそれから目を逸らしてきた。

 酷く歪な天秤に乗せられた彼の自我は、その均衡を保つべく用意された流動的な価値観に翻弄ほんろうされ、酷く揺さぶられる。

 その揺れが直感となって彼の心の表層を漂い、これから訪れるであろう結末を時折、彼に考えさせるのだ。

 彼はいつの間に流れていた、頬に伝う涙を拭うこともせず、ふらふらと吸い寄せられるように、その根本へと歩み寄った。

 途中、声をかけられたような気もしたが、止めどない思考がその理解を拒み、彼の頭蓋ずがいから弾き出した。

 シンは両手を伸ばし、二つの根塊こんかいに手を添えた。

 生きているのだろうか、それは脈打つように振動している。


 彼は知っていた。

 両親が化した存在が『神』などではないということに。

 彼は知っていた。

 彼らが化した存在が、他人の命を奪うこと。

 彼は知っていた。

 それらの事態を引き止めるためのすべ。神衛隊という『神の力』の存在を。

 そして彼は知っていた。


 その方法は、両親を救う手段ではあり得ないと言うこと。


「………生きているの?」

 彼の呼びかけは届いているのだろうか。

 脈動は変わらず続いている。

 そのどこにも、意図のようなものは感じられなかった。

「シンくん!」

 割れるような聞き覚えのある声が思考に割り込み、彼は項垂うなだれるように伏せていた顔をゆっくりともたげた。

 そこには見知った二人と見知らぬ一人。

 腕につけた緑地に黒の成鳥の腕章から見て、教導生なのが分かる。

 シンは光が、その教導生の生み出したものだったのだと理解する。

「ああ、イールさんとローペーさん。それに存じませんが………先輩、ですね?」

 シンはどうしてこの三人がここにいるのか、その理由に思い至り、嘆息する。

 なぜそこに二人がいるのかは分からないが、わざわざこんな薄気味の悪いところに来るということは、そういうことなのだろう。

「リンよ。………あなたがくだんさらわれた同級生ってわけね」

 リンと名乗った教導生の無遠慮な視線を受け、シンはそれを見返すが、その時には既に彼女は視線を根塊に戻していた。

 その眼に宿った力を彼は見た。

 彼女はおそらく、ここにある根塊を殺し切るだけの力を持つ。

 シンの直感は当たる。

 それは彼の意識的な論理思考が邪魔をして、普段はうまく機能しない。

 だが今の彼はわざわざ意識的に思考を展開するほどの気力を持たず、またその意義ももたない。

 シンはふところに手を伸ばす。

 手に当たる小銭入れの感覚があることに軽い安堵を覚え、その口を開き、小銭に挟まったそれを取り出した。

 シンはそれを指で摘んだまま、少しかかげた。

 それはもはや乾き切った『神の木の実』だ。

 しなびて黒ずんでいるが、その禍々(まがまが)しいまでの見た目は健在で、見ただけで吐き気をもよおす。『神の木の実』が聞いて呆れるような見た目だ。

(………そもそも『神の木の実』なんかではなかったんだろうけど)

「何それ?」

 ナギがシンの行動に気づき、すぐさま訊いた。

 相変わらず何にでも首を突っ込むのだなと、シンは軽蔑半分、感心半分で苦笑する。

「これは。『神の木の実』。なんでも願いを叶えてくれるらしい」

 シンは木の実を掲げたまま、ナギの方を見もせずに答えた。

「『神の木の実』って言った!?」

 リンがそれを聞いて血相を変えたように叫ぶが、シンはそれを聞こえなかった振りをする。

 振りをするのは慣れたものだ。

 代わりにナギとスーに首だけ向け、彼は語りかけた。

「………僕、本当は『神』なんて信じてないんだ。あの時は心にもないことを言って、ごめん」

 そしてシンは『神の木の実』を口の中に放り込んだ。


 彼は彼らが迎えるであろう結末を知っていた。

 しかし彼は知らなかった。

 過去は戻らず、また過去は不変ではないことを。

 現在が一処ひとところに留まらず、未来へと一過的にやってきて移ろうように。過去の出来事でさえ、自身の認識によって変質していることを。

 どう足掻いても、それは手に入らないのだということに気がつけなかった。

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