表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽明の番人  作者: 寺島という概念
『信仰』の御化
64/77

c-5_明順応_5

 それは一人の同級生の言葉から始まった。

「それ、疲れない?」

「なにが?」

「そうやって、ことあるごとに『神』にお祈りするの」

 食卓を共にしてしばらくしてから放たれた彼女のその言葉は、石で殴られたような衝撃をともなって、シンの耳に鳴り響いた。耳朶じだを打ったその音の衝撃は、そのまま頭の芯まで振るわせたようにしびれさせる。

 あの日と同じような冷や汗が薄くにじんだ。

 なぜそこまでの威力を持っているのか、それは彼自身には分からなかった。

 だがその瞬間に、今まで食べていた食事の味など完全に忘れるほどの理由が確かに彼の中にあったのだ。

 彼は自分でも分からないうちに、何かを言い訳するために必死で頭を巡らせた。

 自分が食器を持ったままであることを思い出し、時間稼ぎも兼ねてゆっくりとそれらを、ところどころ欠けが目立つとは言え綺麗に磨かれた白木の机の上に、置いた。

 彼女はなぜそれを問うたのだろうか。

 確かに、彼女は記憶喪失であるという話は聞いているが、それは別に彼女の過去を語るものであって、今の彼女が逐次ちくじ記憶を失っていくとか、そういう訳ではない。

 つまり、彼女はまとも・・・だった。少なくともシンの目からはそう映る。

 彼女はおそらく『神』を本当の意味で信じているに違いない。

 そんな彼女がシンの態度を見咎みとがめたのだ。

 シンは混乱する頭で、しかし何か言わずにはいられずに、息を吸い込んだ。

 そして出てきた言葉は、これまで自分が思ってもなかったような言葉の群れ。

 しかし、そのどれもがどことなく筋が通っているように感じられ、シンは自分の口が別の誰かのものに付け替えられたのではないかとさえ感じた。

 シンは夢中で話した。その時のナギの様子にも気がつかないほどに。

 そして話し終えた頃には、顔は上気し、喉はカラカラになっていた。

 気づけば食事は冷めてしまっていたし、ナギと隣のスーは食事を全て食べ終えていた。

 そしてシンが話し終えるのを待っていたかのように、いや、実際待っていたのだろう。

「なるほどぉ。じゃあ、まあ、私もお祈りくらいはしておこうかな。教えてくれてありがとね」

 すぐさま皮肉気味に言って、席を立った。

 あの様子だと、シンの話に納得していないことは確かだった。

「いや、待って、その口調は、まだ完全に理解できていない口調だ。遠慮はしなくていいから一緒に祈ろう!そうすればきっと、君の記憶も『神』がなんとかしてくれるはずさ」

(僕はこんなに『神』を信じているんだ、勘違いしないでくれ!)

 そんなおいすがるようなシンの目の前に、今まで黙視を貫いていたスーの姿が伸び上がった。

 何か、と考える間もなく、机が盛大に揺れ、その上の食器がガシャリと盛大な音を立てた。

 そして、混乱するシンに向けて彼女は言い放った。


「………あなたが、『神』をどれだけ信じようと、それはあなたの勝手だけど。それを無理やり他人に押し付けるのは感心しないわ」


 シンはそれを聞いて、へたり込むように椅子に座り込んだ。

 何かがズレていた。

 何がおかしい?

 シンは頭の整理が追いつかず、ただぼんやりと去っていく二人の背中を見つめていた。

「それでも!」

 呼び止めるような言葉が口をついてでるが、言うべきことが見つからず、そこに言葉が続くことはなかった。

 そんなシンに、冷ややかなスーの視線が痛く刺さった。

「それでも………」

(僕は『神』を信じる他ないんだ)


 彼は『神』のことなど、信じてはいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ