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幽明の番人  作者: 寺島という概念
『信仰』の御化
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a-3_頑固-1

 やはり今日は天気がいい。

 ナギは新鮮な気持ちでプリスマの街道を往く。

 なめらかな石材で舗装された道は畦道を走るのに比べて、平で硬く、あまりに綺麗で、障害が取り除かれている。

 側道には水を通すための溝が引かれ、それらの脇にたたずむ点火式の街灯は街全体を照らすために、等間隔で並べられている。

 驚くべきことに、それが街全体に張り巡らされるように敷かれているのだ。

 煩雑とした土の道を恋しくさえ思えてくるほど、見事な舗装道だ。

 これも整備士たちの日々の精進の賜物だろう。

 流石に街中で全力疾走する訳にもいかず、ナギは走る速度を落とした。

 ただし、急いでいるので走るのは止めない。

 なんだかんだ朝も早めで、人通りも少ないので問題はないだろう。

 速度を落とした結果、ナギには周囲を見渡す余裕ができ、自然といろいろな情報が視界に入り込む。

  燃えかすの放つ煙の匂いが軽く鼻をかすめたので脇を見れば、燃え残った灯の残滓を消して回る点灯方てんとうがたの老夫が仕事をしているのが目に入った。

 ナギは彼の持つ梯子が石畳を叩く音が建物に反響して、静かな街道に響き渡っているのを背中に感じた。

 寝坊でもしたのだろう、かなり慌ただしい。

 この街の石と煉瓦、それに木材、漆喰で造られた建物はどれも整然として佇んでいる。

 いっそ質素とも言ってもいい程だが、そんな、建物の影から覗く生垣は青く茂り、風に揺られて光を照り返す。四季によって色を変えるそれらの草木は、街に鮮やかな色彩を与えてくれた。

 この整えられた景色は、この都市が場当たり的に作られたのではないことを物語っていた。

 国の心臓部である「プリスマ」は「御化おばけ」から手厚く守られるために、計画的に開拓が進められた開拓都市だ。

 防衛のかなめである『神』を守るように扇状に広げられたこの都市の住宅街は、ある種の緩衝材かんしょうざいのような役割を果たしているらしい。

 ナギはその話と共に、この話を聞かせてくれた師の皮肉めいた顔を思い出す。

 その時は特に皮肉風味増し増しだったのを覚えている。

 程度の差こそあれ、彼は何故かいつもそんな顔をしている。

 優しいのだからもっと優しい顔をしていればいいのにと、顔を付き合わせる度に思ったものだ。

 もっともそれは、そこから始まる彼の教導に対する現実逃避気味の感想だったかも知れない。

 ナギは勉強ができない訳ではなかったが、他の物事を覚えることに比べると社会的な物事を覚えることに若干の苦手意識があった。

 これから向かう先に待っている人物は、その優しい皮肉屋その人である。

 ナギは、心持ち走る速度を上げた。

 彼は遅刻に厳しいのだ。

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