a-27_罪の所在_3
そして呆れ顔のスーと驚愕顔のリンの横を通り過ぎ、壁の直前で跳躍する。
自分の身長くらいの位置の壁に右足を当て、滑る前に壁を蹴り、さらに伸び上がるように垂直に上方へと身体を引き上げる。
滑りやすい壁なら無理だったが、ここの壁は幸いにも湿っていて、さらにはざらざらとした石質の壁だった。
「よし!」
手を伸ばして壁に開いた穴の縁に手を引っ掛けて、ナギは身体を引き上げた。
その際に蔦に身体が触れたが、それらが動き出すような気配は全くなかった。
下でナギの様子を注意深く見守っていたリンは、ひとまずは安堵の息を漏らしたが、いつ動くともしれないそれに対して油断なく視線を向けた。
穴の淵に腰を下ろしたナギは、身体に力んだ力を息として吐いて抜き、下の二人に声をかけた。
「問題ないみたいですね」
実際に中に入ってみると、なかなか大きな横穴だ。
穴の奥には当然ながら灯りはなく、見通せない。ただ、ここは無理やりに空けた穴という訳ではないようで、明らかに人の手が加えられた跡が残っていた。
「なんていうか、無茶するのね………何か見える?」
「暗くて何も」
「『灯し』………はまだ使えないわよね」
「そうですね」
リンはちらと隣のスーを見やった。
「同じこと、できそう?」
「………できませんね」
「そうよね………」
リンは外套の下に忍ばせるようにして担いでいた小袋から綱を取り出し、ナギへと放り投げた。
急に飛んできたそれをナギはなんとか捕まえると、リンが付け加えるように言った。
「イールさん、スーさんを引き上げて貰ってもいい?」
ナギが綱を垂らしてみると、地面までは余裕で届くくらいの長さがあった。
それを確認して頷くが、ここからでは見えずらいことを思い出し、声を出した。
「いいですよ」
スーはしがみつくようにして紐にとりつくのを確認して、ナギは綱を思い切り引っぱった。
そのまま勢いよく穴の奥へと進んでいく。
引っ張っている間、穴の縁で思い切り綱が擦れる音がしたが、突然ちぎれるなんて危機は起こらなかった。
「と、ととっ」
下から断続的に足をつく音と、スーの躓いたような声が聞こえてきた。
壁を登り切った頃には、ナギもスーもお互いに息も絶え絶えといった様子であった。
ナギも流石に疲れを感じ、その場に座り込む。
あとはリンも引き上げなくてはならない。
ナギは良しと気合いを入れて立ち上がり、穴の縁へと向かう。
その時、「ふわっ」というような擬音が相応しいような緩い弧を描いて、一筋の光が穴に飛び込んできた。
ナギは光虫でも飛んでるのかな、などとぼんやり考え、今までそんな虫はこの暗闇にいなかったことを思い出し、それが灯りを持ったリンであることに気がついた。
そもそも今の季節、光虫が舞うことはない。
「そこまで高くなくて良かった」
リンはなんでもないことのように呟いたが、今のは明らかに人間の範疇を超えた動きだった。
御技には違いないのだろうが、いざ目の前で知らない御技を見せられると、それは荒唐無稽の実現であると実感する。
「今のは?」
スーがリンに対して訊ねた。
「『加速』の御技。難しいのよ。私にはあれくらいが限界かな」
リンは話しつつもその手に持った灯りで穴を照らした。
闇が祓われたその場は、先ほどまでと光景は大きく変わらないが、奥の方に細い蔦が何本も伸びていた。
それは、どこかに誘っているようにも、あるいは単に、何者も寄せ付けないために張り巡らされているようにも見えた。
「逃す気がないのなら、動くのが道理でしょうに………こっちは出口ではないとか?」
リンの独白で、ナギもスーも周りの蔦に気がつき、警戒を強める。
しかし、リンの言ったように、それらが動きだすような気配は全くなかった。
まるで、ただの蔦のようだ。
「まあ、なんにせよ。イールさんのおかげで思い切りがついたわ。少し休んだら、このまま少し進んでみましょう」
ナギの息が整うまでしばらく三人で座って軽く話をしたあと、蔦に導かれるように穴の奥まで進んでいった。
長い道を進んでいくにつれ、蔦は太く、密度も増していく。
そして穴の奥からは光が漏れ出ていた。
出口かも知れないという期待もあったが、三人はどこか違うように感じていた。
葉が散見されるようになった頃、三人は大きな空間にたどり着いた。そこは明るく、昼間のようであったが、違う。
その先で見たものに、三人は言い知れぬ何かを感じた。
言うなればそれは『罪の在処』だった。




