a-27_罪の所在_2
主人公ナギについての簡潔なプロフィールと、イメージイラストの方をTwitterの方で投稿しました。
興味があれば覗いていってください。
@terajima_san
まだまだ未熟ですが、色々修練していく所存です。
よろしくお願いします。
ナギとスーは息を潜めたのはいいが、自分たちがどんな空間に身を置いているのかが分からない以上、せいぜいできたことは、身を伏せておくことだけだった。
頬に固く、ひんやりとした地面が触れる。
結露した水滴が定期的に滴ることで、ほんのりと湿っているようだ。
足音は次第に大きくなっていくにつき、その主人はこちらに近寄ってきているのだということが分かる。
反響で把握しずらいところはあるが、おそらくこちらだろうと分かる方向に視線を向けると、ぼんやりと浮かび上がるような光の玉が揺れているのが見えた。
足音に合わせて左右に揺れることから、それが手持ちの灯りなのだということが分かる。
だが、あの昼光の白光は火のそれではない。
ナギはその灯りに見覚えがあった。
(御技の光だ)
ともすれば、この足音の持ち主は神衛隊員である可能性が高いということだ。
(助けが来た?こんなに早く?………あり得ない話でもないけど)
光と足音はどんどん近付いてくる。
スーの呼気が少し浅くなり、乱れているのが分かった。
二人は顔を伏せ、目を閉じた。
死んだふり、というわけでもないのだろうが、なんとなくそうしていた。
瞑った瞼の上からでも光が近づいてきているのが分かる。
ナギはすぐに起き上がれるようにと、うつ伏せの腕に少しずつ力を込めていった。
「………まじか」
しかし、それらの備えは杞憂で終わった。
頭上から聞こえてきたその声に、ナギは聞き覚えがあった。
大人らしいがかすかに少女の面影の残るその声は、言葉通りの驚愕で彩られていた。
「イールさん?意識はある?」
名を呼ばれ、ナギは顔を上げた。
そして灯りで照らされた人物の顔を見て、ナギは自分の推測を確信に変えた。
「リン先輩じゃないですか!もしかして助けに?」
リンはそれに対して罰が悪そうに苦笑いした。
「そうだったら格好いいのだけれど………、生憎私もここから出る方法を知りたい側の人間でね」
二人の様子から危険はないと察したスーも身体を起こし、少し頬についた泥を擦って落としていた。あるいはそれは涙の跡だったのかもしれない。
「友達?」
リンは確認するように灯りを微かにスーへと向けたが、すぐに戻した。
「はじめまして、スーといいます」
そういえばスーとリンは初対面だったなと、ナギは今更に思い出した。
「初めまして。私はクレオ・リン。教導生だけれど、イールさんみたいに気軽にリンと呼んでね」
リンはそう言って、スーと人差指を合わせて挨拶をした。
そして挨拶も手短に、リンは緩めていた表情を引き締め直した。
「少し、歩きましょうか。早いところ何かしらの手がかりが欲しいの」
二人は促されるままにそれに従った。
「ところで、あなた達はどうしてこんなところに?」
「それが………」
リンの持つ不思議な灯りを頼りに歩きつつ、ナギは手短にリンの質問に答えた。
御化が商店街に突然現れたこと。シンという同級生が攫われてしまったこと。それを助けようと奮戦したが、上手くいかなかったこと。
そして、その御化の触手に絡め取られ、気づいたらここにいたこと。
「………商店街の人たちを片っ端から攫っていた訳ではないわよね?見回った限り、私たち以外に人はいなかった」
リンはしばらくの黙考の末、そう訊ねた。
安定したリンの灯りが、彼女の微かな動きに合わせてゆらゆらと揺れる。
それは、平静を装っているとはいえ、掴みどころのない今の状況をなんとか把握しようとするリンの落ち着かない心中を表しているようだった。
「………確かに、攫われたのを見たのはシン………同級生の男子だけですね」
「とすると、何か条件が………何か心当たりは?」
「あの時は………『火起こし』を使いました」
少し間を空けてから、スーが答えたが、彼女は当時の様子を思い返し、少し顔を歪める。
「思い切ったわね。………とすると『御技』が原因かしら?」
リンには暗がりのスーの表情には目が向かなかったのか、あるいは単にやむを得ない状況であることを理解しているからか、スーが許可なく御技を使用したこと自体については言及せず、淡々と状況を整理していく。
「少なくとも私たちは、シンくんが『御技』を使ったかどうかは分からないですね」
「そう………、でも私が攫われた時にはこうして、『灯し』の御技を使っていたわ」
リンは言下に手元の灯りをもたげて軽くゆすった。
その光は決して強力なものではなかったが、この暗闇の中を歩く上では心強い。
「あまり、御化に法則性を求めちゃいけないのだけれど………私が思うに、御化にもある種の理論というか、習慣?があって、それに基づいて動いている。だから………」
不意に先頭を歩くリンが灯りを高く掲げ、奥の空間を照らした。
「これは?」
立ち止まったリンの背後から、スーが覗き込む。
ナギもそれに続いて正面のリンが照らすものを見た。
しかし、それは一見するとただの石壁にしか見えず、リンが何を示唆しているのかが分からない。
「上の方を見て」
リンの言葉を受け、二人は首を逸らせた。
上方は『灯し』の光も薄く、見づらい。
しかし、それはそんな薄暗がりの中でもはっきりと確認できた。
「これは………」
スーが苦々しげなうめき声を発した。
「御化の蔦………」
それは蔦状の何か、つまり御化の触手の一部であることはナギにも分かった。
それが大体建物の二階分くらいの高さの位置に、何本も走っている。
それはどこか蜘蛛の巣を思わせた。
「やっぱり、そうなのね。私は実物を見たことがなかったから確証を持てなかったけど」
「穴?を覆っているように見えますね。出入り口?」
スーがぽそりと呟くように言った。
「私もそう思う」
リンはそれに即座に首肯した。
「ただ、それ以上は何も分からない。さっきまで他のところも見てきたけど、今のところ、ここにしかあれはないのよね。あそこがここの脱出の鍵なのは確かだけど………」
リンがお手上げといった風に嘆息したところで、ナギはあることを思いついた。
「あれ、動いてるところ、見たことあります?」
「あれ?あの蔦のこと?動くのは知っているけど、さっきも言ったけど直接動いているところは見てないわ」
「あのくらいの高さならなんとか届くと思うので、もし動いたら知らせてもらえます?」
「は?」
ナギは助走のために数歩後ろに下った。
「壁が見えるようにそこから動かないでくださいね!」
「いや、ちょっと!」
静止の声を上げたリンの顔を尻目に、ナギは壁に向かって思い切り駆け出した。




