a-27_罪の所在_1
ひたりと頬に冷たいものが当たり、ナギは瞼を開けた。
しかし、瞼を開けてなおも瞳に映るものが何一つなく、ナギは一瞬、自分が目の開き方を忘れたのかと思った。
(違う)
瞼の上を指でそっと触れながら、ナギはそこが暗闇の中なのだと理解した。
いつの間にか身体中に巻き付いていた蔦は無くなっており、押し込まれるように一緒にいたスーの呼気は滴る静寂の中ではよく聞こえ、ナギは級友の無事を確認する。。
大体の位置を特定して、ナギはそこに這い進み、彼女の身体を軽く揺さぶった。
(おぉ、なんか、柔らか)
「スー、起きて」
ナギはスーの呼吸が一瞬つまり、目を覚ましたことを聞き取った。
そのまま少し引いて待つと、衣擦れの音と共に、彼女が身を起こしたのが分かった。
「………暗い。地下ね」
スーはそれ切りで、しばらく考え込むように黙ってしまった。
ナギはそれを敢えて遮ることもせず、自分が今いる場所について思いを馳せた。
(地下、とは思うけど、水も通っているし、案外地表には近い気もするな。下水道の類だとは思うけど、場所については検討もつかない)
取り止めのない思考が頭を過ぎっては去っていく。
「………ねぇ」
静寂を破ったのはスーだった。
どこか躊躇いがちなか細い声で、ナギは最初聞き違いかと思った。
それが違うと分かったのは単純に、スーが次の言葉を繋げたからだ。
「あの火、どれくらい残ると思う?」
ナギはそれを聞いて、先ほどのあの炎熱を思い出し、軽く唸った。
「………あー、燃えるものがなくなるまで?」
ナギは、あの商店街でどのくらい可燃性のものがあるだろうかと考えつつ、曖昧に答える。
彼女には、火事の炎がどのくらい燃え続け、どのくらい燃え広がるのかという知識はなかった。
「………それじゃあ、仮に全部が燃えたとしたら。私は、商店街を壊滅させた放火魔ってわけね」
暗闇の中ででも、スーが青い顔をしているのが目に見えるように思い、ナギは胸元の石を弄んだ。
(確かに火を放ったことに違いはないけど………)
「人はほとんど逃げていたみたいだし、そんなに気にしなくてもいいのでは?」
ナギは心からそう思い、口にした。
その言葉の波が通りすぎた後、しばらくの間、二人の間には長い沈黙が訪れた。
ナギの頭を掠めるように、三回ほど水滴が落ちたのが聞こえた。そしてその水滴が弾けた飛沫が、彼女の手の甲を少しずつ濡らしていく。
「それ、本気で言ってる?あなたは御技を使っていないから、そんな風に言えるかもしれないけど………っ」
絞り出すように、スーが捲し立てる。
そこには、泣き出しそうなほどの不安と、恐怖、そしてどこまでも楽天的なナギに対する怒りが混ぜこぜにされていた。
言葉に詰まったスーが次に言葉を発するよりも早く、ナギは口を開いた。
「『御技』を使ったことを後悔しているのなら、そうさせた私も悪いし。
第一、あの状況じゃ、何かしらの手立てを打たなきゃいけなかった訳だし。
結果としてはこうなった訳だけど、今のところ分かっているのは、商店街がちょっと火事になっちゃっただけ。
もしかしたら、そんなに燃え広がらないかもしれない。どうせ『あいつ』がめちゃくちゃにしてたんだし、些事だよ些事」
ナギは軽い口調を崩さず、スーの危惧しているであろうことを一つ一つ潰していく。
スーはゆっくりと語るナギの言葉に静かに耳を傾けていたが、鼻を啜る小さな音を立てた後、反論するように言葉を紡ぐ。
「でも、もし、私が………知っていたら、ああはならなかった」
「私は、もしもは考えない。無駄に思えるから。
それに………あれ?ちょっと待って。何か聞こえない?」
「………なに?」
ナギは微かに一定の感覚でな鳴る音を聞いた。
それはまだ遠いが、明らかに足音だ。
「誰か、歩いてる?」
「この暗闇を歩ける人がいるってことね。脱出の手立てを持っているかも………」
スーは少し鼻声だったが、多少は気を持ち直したらしく、少しだけ前向きな言葉を囁いた。
それでも囁き声をやめられないのは、その足音の主人がどのような人物なのかが分からないからだ。
確かなのは、鏡面のように凪いだ水面に一石を投じる存在であること。
二人は息を潜め、その足音に注意深く耳を傾けた。
ふいー難産難産




