b-7_悪路にて-1
地下水道。
イニティアムには巨大な水道設備が張り巡らされている。
それらは全て『神』の元を通り、浄化がなされ、生活用水として住民のもとへと届けられている。
そして用水道があるならば下水道もあって然るべきだろう。
その下水道に、リンとリノバの二人はやってきていた。
そこはある種の忌み地である。
人々の澱みが溜まる場所とされる。そして実際に、病原菌の温床となっている事は確かであろう。
儀式的な意味においても、疫学的な意味においてもまさに、忌避されて然るべき意味を持った場所だ。
本来ならば、神衛隊員であってもその場所に足を踏み入れる事は滅多にない。
時に整備の担当となったものが訪れるくらいのものだ。
ほとんど光の通らない闇。この世の呪いを押し込んだ様なその場所を灯を片手に二人は進んでいく。
足元を照らさなければ汚水に足を浸すことになりかねない。
「想像の何倍も酷いところ………」
リンの鼻の詰まった様なくぐもった声と二人の足音が、狭い下水道の中で反響する。
暗がりで寒いものと思っていたが、意外にも温度は低くない。が、それがまた良くない。
むしろ生ぬるいようなねっとりとした空気と、匂いが相待って最悪だ。
(喋る気さえ起きないな)
二人は呼吸すらままならない状態で、それでも尚、進まなければならない理由があった。
「下水道………?それも事件のあった場所からは離れているな」
リノバはリンの指した場所の記憶を探り、何か特徴的なものがあっただろうかと考えを巡らせた。
そのうちに、リンは地図を半円を描く様になぞってみせた。
「確かに離れているけど、こう見れば?」
「御化に法則性を求めてはいけない………けど。まあ、半径内に収まっている様にも見える」
「確かに法則性に縛られても良くはないし、御化に本当の意味での法則性を見出す事はできないのかもしれないけど、見かけ上での法則性は確かにあるはずよ」
リンはそう言って一点を指差した。
「特に、今回は物理的な制約もある」
「合流地点?」
「そう、少なくともこの地点を経由しなければ、事件性のある場所全てを下水道だけで巡る事はできないわ」
そうして二人はこの場にやってきた。
蓋を開けてみれば予想以上の深淵が広がっていたと言うべきか。
それでも一応、一番移動距離が短い場所を選んだのだのだが、どうにも気が遠くなる思いがした。
何より、先の見通せないこの暗さが、気疲れを加速させる要因だった。手元の光源の光量などたかが知れていて、せいぜい目の前の段差を探る程度のことしかできない。
そんな中で、『御化』がいる可能性が高い場所に向かっているのだ。気が滅入るのも当然と言うものだ。
それは裸足で険しい岩場を歩くのに等しい。ほぼ確実に鋭い岩角で怪我をする。
だが、二人にはある種の自負もあった。
こんな状況でも、二人ならば乗り越えられるであろうという、淡い期待にも似た自信だ。
そしてそれは、二人の心の支柱となって、二人を突き動かしていた。
自分達の勇気が、人々の助けになると信じて。




