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幽明の番人  作者: 寺島という概念
『信仰』の御化
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d-1_むしん

 賑やかな、若き二人が過ぎ去った後の家屋。

 スオは、しっとりとした静けさが戻ってきたのを感じ、冷め切った茶を一気に喉に流し込んだ。

 サクラスは相変わらず外で手を振って二人の見送りをしている。

 お見送りで喜ぶ年齢でもないだろうに、いつまでもそうして玄関先に立って手を振っているのは、彼女なりの優しさなのだろうか。それとも気まぐれか。

 スオは、向かいに座るオトシネに目配せをして、茶器の片付けを始めた。

 手分けをして即座に片付けを済ませたスオは、外のサクラスに声をかける。

「おい、サクラス。休憩は終わりだ。仕事の時間だぞ」

「ああ、『神』よ。何故、私からいとまを奪いたもうたのか」

 いかにもな口調を作り、いかにもな挙動で『神』に祈る様な姿勢をとるサクラスだったが、スオはそれを冷めた目で見下ろした。

 サクラスが『神』を信じていないことを二人の前で隠すつもりはもはや微塵もないらしく、言動の端々に冷笑的な響きが混ざっていた。

「どの口が『神』を語るか」

「この口です」

 詰まらなそうに姿勢を解いたサクラスは嘆息混じりに呟いた。

「まあ、いい休憩にはなったよ」

「久しぶりに会った感想は?」

「制服姿は割と様になっていたね。あと、元気そうでよかった。友達も出来てたし」

 スオもサクラスに同感だった。まず第一の懸念材料だった学校への溶け込みは、上手く出来ているらしい。

「最初はどうなるかと思っていたが、どうにかなるものだな」

 サクラスがナギを連れてきた時は、初めて出会った場所も相まって、異質な雰囲気を感じたものである。なにせ、ほとんど肌着の様な格好で武装もせず、身一つで「禁域」にいたのだというのだ。これを異様にを感じずして、他の誰に異様さを覚えろと言うのか。

 ナギが一般社会に上手く適応できているという事実は、言葉にし難い安堵感の様なものがある。

「ほらほら、早速話が逸れてますよ。仕事でしょう?」

 いつの間にかオトシネが、さっきまで茶器があった机の上に書類を広げていた。

 それらは、彼らが当面の問題として対応中の『御化』についての書類、そしてこの付近の地図である。

「今回の『御化』、かなり慎重に動いてるね」

 切り替えたのか、流れるように動いたサクラスは、机を覗き込んだ。

「それとも、単純に規模が小さくて発覚が遅れただけ?」

「半分は後者だろうが、おそらく規模は小さくない。単純に、やる事が目立たない奴だったんだろう」

 スオは事前に仕入れた情報を加味して、その御化がそれなりの規模を誇る『御化』であることを予測していた。

「とすると、なぜいきなり人的被害が生じる様なものになったのかが問題ですな」

 オトシネが何やら荷物を漁りながらそう言った。背中越しな上に、物を漁るごちゃごちゃとした音と混ざって少し聞き辛い。

「ああ。と言うか、何をやってる?」

「気にせんでください、大したことじゃないんで。それと、私は話半分で聞きますんで気にしないでください」

「そうかい」

 サクラスは後ろで結えた髪をともてあそびつつ、ぼんやりと言った。

「『白面』かな」

「可能性は高い。どうする?」

「………まあ、本来の仕事にだけ意識を向けましょうか」

「それが良い。………とすると、仮にだが、あの二人が仮に巻き込まれた場合はどうする」

 スオは少し予感がして、一応サクラスに確認をとった。

「………仮にそうなったとしても、余計な手出しはしません。この件は管轄主に任せます。私たちは本来の仕事をこなしましょう。ということで」

 意外にも、サクラスは放任的だった。職務としては正しい判断だが、彼女の判断としては少しばかり意外性が強い。

 スオとしては、ただでさえ微妙な立場にいるのに、これ以上余計な不況を買いたくは無い。ちょっと調べただけでも多少の事が分かるくらいなのだから、よほど無能でも無い限り、余計な手出しをする事はしたく無い。と言う理由があるが、サクラスはあまりそういう事は気にしない性格だ。

「それには賛成だが、どうした?お前らしくもないな」

「ん?いい頃合いかなって」

 サクラスは何を考えているのか分からない微かな笑みを浮かべる。

 その微笑みは優しげだが、整いすぎていて作り物のような印象しか感じられなかった。

 仄暗い穴を覆い隠す蓋の様にも見えるそれは、その深さは計り知れずとも、そこに何かしらの秘密が眠っているのだと言う事を帰納的きのうてきに感じさせるのだ。

「そろそろ実践経験も必要だということかい」

 隠される秘密は、どれほどのものなのだろうか。気になりはすれど、それをあえて掘り出す気を、スオは持たない。ただそこにあることを認め、その上でそれに土をかけるのだ。

 それっぽく着色した、虚飾の土塊つちくれだ。

「そんなとこ」

 サクラスもそれに気がついているのだろうか、はたまた丁度いいからそれに乗っているだけなのか、彼女は彼の言をそのまま受け入れて、我が物とする。

 秘密を秘密のまま共有する。この二人はそうした関係性のもとに成り立っていた。

「おっし、できた!」

 背後からオトシネの声が聞こえてきて、スオは首を巡らせた。

 そして背後にあるものを見て、サクラスに視線を戻す。

「どうして止めなかった?」

「え?面白そうだったから」

 スオの背後にあったのは、オトシネによって積み上げられた巨大な『仕事道具』であった。

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