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帰路。
斜陽の赤が目に染みて、ナギは目を細めた。
目下に広がるのは、一面の稲畑。赤い光の元でそれらは金色の光を放ち、輝いている。
金色の種と、誰かが言っていたのを聞いたことがある。この光景を見るとあながちそれも間違いではないのだと、ナギは感心した。
人が食い繋ぐための技術を詰め合わせたこの麦畑は、それらの価値も含めて黄金の煌めきにふさわしい。
「彼女達は何者なの?」
密かに感銘に浸っていたナギに対して、友人から疑問が投げかけられた。
ナギの家から出発して、しばらくしてからのことだ。
「何者って?私を拾ってくれた『神衛隊員』、と言うことではなく?」
ナギはスーの問うていることの真意が掴みきれず、訊き返した。
「あの腕章———」
スーの言葉で、ナギはサクラスが取り出した黄色の腕章が頭に浮かんだ。
銀糸で何か、木の枝のようなものが描かれていたような気がする。
「黄色の腕章だったね。黄色って事は三の徒って事でしょ?サクラスさんの所属なんて初めて知った。ところで、あの紋章はどういう意味なの?」
「やっぱり、その程度しか知らなかったのね」
ナギの気楽な返答に、スーはある程度予想はしていたかのような、これ見よがしなため息をついた。
「銀糸は金糸の下の階級である事を示す色よ。加えてあの紋様———『止まり木』はその銀糸の中でも統率者を意味する印」
「えっと?」
「つまりは、相当なお偉いさんって事」
流石にそれはナギでも分かる。分からないのは、スーはそこまで分かっていながら、なぜサクラス達を何者かなどと問うのか、と言う事だ。
「逆に、それ以上に何が知りたいの?」
スーは少しだけ間を置いて、麦畑を見て歩いていた。
しかし、彼女の目は風にそよぐ麦穂を見ていると言うよりは、そこには映らない何か別のものを見ているような、某葉としたものだった。
「私、神衛隊の偉い人たちについて、いろいろ調べた事はあったの。だけど、サクラスなんて名前は見た事ないわ。確かに『三の徒』は私も重きを置いていなかったから見落としている可能性も捨てきれないのだけれど。流石に銀糸の『止まり木』ほどの人の名前を見落としているとは思えない」
スーの表情には明らかに「理由は聞くな」と書いてあるようで、ナギは「なんのために調べていたの」とは問わなかった。
シンの時の失敗を活かしたのだ。
あんまり不用意に踏みこみすぎると、都合がよろしくない。
それに、今は他に興味が惹かれる事象があった。
「………って事は、あの腕章が偽物、って事?」
ナギはあの精巧な作りの銀糸の紋様と、きめ細かく職人の技が光る、向日葵の色を吸い込んだかのような鮮やかな腕章を思い出して、眉を顰める。
あれが贋作の類にはとても思えない。
「そうは言わないけど………もしかしたら『サクラス』って言うのが偽名なのかも………」
「少なくとも、そう言う話は聞いた事はないなぁ。サクラスさんはサクラスさんだし、スオさんにオトシネさんもサクラスって呼んでたし」
ナギは自分が知る限り、サクラスがその名以外で呼ばれているところを聞いたことがなかった。普通に考えれば苗字なんかで呼ばれることもあるのだろうが、不思議とそれすらなかったのだ。
「まぁ、知らないならそれでいいわ。それだけ徹底的に隠されているのか、もとからそんな秘密なんてないって事だものね」
スーはこれ以上考えても無駄ね、と頭を振った。
ナギはその様子を尻目に、サクラスの秘密について考えた。
彼女は、ナギにも知らないことが多い人だ。それはスオやオトシネにも言えることで、一緒に暮らしていた時にもそんな秘密の片鱗すら見せなかった。
それは、ナギがまだ何も知らなかったから、と言うこともあっただろう。
しかし、それ以上に、ナギにとっては些細なことなのかもしれない。
サクラスが何者であろうと、彼女が自分の命の恩人で、目標となる人物なのだから。




