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幽明の番人  作者: 寺島という概念
『信仰』の御化
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「おお、シン!」

  歓喜に満ちた父親の声でシンは我に返った。

「父さん、珍しいね。今日はお祈りに行かないの?それに、母さん、随分と体調が良さそうだけど………何か、あったの?」

 訊きながらも首を巡らすと、母の枕元にあるそれが目に入り、シンは言葉に詰まった。

 なんとなく、嫌な予感を覚えた彼は、それを否定して欲しくて、父に目線を逸らした。

「これも『神』のお導きだ。見ろ、この神秘の結晶を」

 普段の様子からは想像もできないような異様な調子で、父はそれを掲げた。

 シンの逃避も虚しく、それが彼の視界に突きつけられた。

 それらの粒は相変わらず不気味な脈線を這わせた不気味な見た目で、父が喜んで見せるようなものにはとても見えなかった。

「それ、どうしたの」

 せっかくの二人の機嫌を削ぐまいという意思に反して、彼の声は自然と低まり、唸り声のようになった。今直ぐに逃げたい気持ちが湧いてきて、脚が自然に背後に動く。

「これは、『神』の木の実だ」

 父は熱狂的な潤んだ目で、そう言った。

「は、何?『神』の木の実?」

「そうだ、『神』が我々に贈ってくださった。極上の果実だ」

 どうしてそんなことが分かるのだ。

 シンは自分の父の正気を疑いたくなったが、父の横で頷く母の姿が、父一人の妄言ではないことを示していた。

 あるいは、父も母もどちらも気が触れているのだろうか。

 しかし、彼はそれを否定する。

 前日まで母にも父にもはそんな前兆はなかった。だとすれば、狂ってしまったのは自分自身だろうか。

「なんで、そう、分かるの」

 どうにも自分自身の正気を疑えず、シンは恐る恐る訊ねた。

 その質問が決定的な何かを変えてしまうのではないかと思った。

「見れば分かるだろう?こんなにも母さんは元気になった」

 つまり、食べさせたということか。

「そんな不気味なもの、よく食べさせる気になれたね」

 まともな精神なら、あんな気持ちの悪いものを病人に食べさせる気になるはずがない。

「不気味?何を言っているんだ?こんなにも神々しいじゃないか」

 本気で驚愕したような顔で言われ、シンはいよいよ混乱した。

 父も母も彼が思うほどその木の実を気味の悪いものとしては捉えていないようだった。

 一体何が起こっているというのだ。これは夢だと言われた方がまだ現実味がある。

 彼は、頭を抱えたくなるのを抑えて、代わりに二人から目を逸らした。

 それをどう捉えたのか、父は優しげに語りかけてくる。

「………お前も疲れているんだろう。すまないな、お前だけに母さんの看病を押し付けるような形になってしまって」

 確かにそれはその通りだと思った。しかし、不思議と今の彼の心には全く響かない。

 だが代わりに、強い倦怠感がシンの身体を襲い、彼はよろりと父と母に背中を向けた。

「そう、いや、いいよ。それに、今はもう母さんも元気になったんだし」

「シン?どうしたの?」

 彼の母が、部屋を去ろうとする彼の背中に、心配そうな声を投げた。

「ちょっと、安心したら疲れたみたいだ。少し寝るよ」

 シンは無理やりに笑顔を作って二人を誤魔化して、足早に部屋を立ち去った。

 背後から寝台が軋む音が聞こえ、母が立ちあがろうとしたのだと分かった。

 しかし彼は足を止めず、自分の部屋へと引き返した。

 今はこれ以上、何かを話したい気持ちが湧かなかった。

 二人が何か、得体の知れないものになってしまったような気がした。

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