a-22_サクラス-2
ごん。
「あ、ごめん。………いや、違うわね。私を置いて行った罰と思いなさい」
勢いのまま尻餅をつくナギに、一瞬だけ申し訳なさそうな表情をするスーだったが、すぐに思い直したかのように同情の表情は消え去った。
「あはは、ごめんごめん」
逆にスーに謝りつつ、ジンジンと痛む額を抑えながらナギは立ち上がった。
その一部始終を見ていたであろう居間の三人は、各々(おのおの)に笑いを堪えているのが肩越しに見えた。
少しくらいは心配してもいいではないか?とは思うが、彼らはナギの頑丈を知っている。
あの程度で怪我をするようなら、今頃ナギはこうしてここにいない。
だから彼らからすれば、先の一連の流れは、笑いの種にはなれど心配するだけ無駄なものだった。
「あー、おもしろ。それで、彼女は?」
一頻り笑った後、半笑いを残したままのスオが代表してナギに訊ねた。
「スーと言います。イールさんとは神衛隊学校で同級生をさせてもらっています」
ナギが口を開くよりも早く、スーがスオの質問に応えた。
なんというか、硬い挨拶である。
彼女らしいと言えばそうなのだが、ナギからすれば彼らに対してここまで固く接する方が違和感がある。
「スーさん?しっかりしてるなぁ」
対して、スオからの印象は良かったようで「ナギの友人とは思えないな」などと失礼なことを言っている。
「スー………もしかして、北部の出身?」
サクラスは名前から彼女の出身を言い当てた。
スーがそれに対して相槌を打つ。
「やっぱり。知人と似た雰囲気だったから。よろしくね、スー」
スーはサクラスらと順番に握指をして回った。
しかし、その目は友好的なものというよりも、疑問で満ち満ちたものであった。
「皆さんは『神衛隊員』なのですか?」
全員と指を合わせた後、スーは疑問を口にした。
「そうだよ?」
即座にサクラスが首肯するが、ナギはその答えに違和感を覚えた。
「………?オトシネさんは違いますよね」
実際、サクラスとスオは神衛隊の制服を着ているが、オトシネは制服を着ていなかった。
それは彼が正確には神衛隊の隊員ではないことを示している。
「ややこしいから、今はそういうことにしておけ。別に間違ってもない」
ナギの呟きは、隣のスオにいかにも面倒臭そうに押し殺された。
ナギは納得とまではいかないまでも、話を円滑に進めるための配慮が分からない訳ではないので、それ以降は余計なことを言わず、口を閉ざした。
「なんか、独特な雰囲気ですね。ナギの恩人なだけあるかも」
スーはふっと、微笑した。
別に馬鹿にしている風ではなかったが、ちょっとばかり心外である。
学校ではあんなに目立ちすぎないように気をつけているのに、それでも独特だと思われているということだ。
(そんなに私、変かな?)
ナギの胸中に浮かび上がったその思いは、次の瞬間には水泡のように弾けた。
スーがサクラス達に質問を投げかけたのである。
「どこの徒の所属なんですか?」
ナギもそれを知らないかった。
今となっては、ナギでも彼らがなんの腕章もつけていないことの異常性を理解している。
腕章はどこの徒に所属しているのかを示す指標であるのと共に、その印を付けた者が正式な神衛隊の隊員であることを示すものである。
神衛隊が活動を行う際、各徒はその活動を記録、管理しており、腕章はその判断基準の最たる物のうちの一つだ。
各徒によって色が統一されており、一見同じようにも見える腕章にはその徒の内の役割によって紋章や文字が刺繍されている。
そして、それらを対人が必要となる活動の際にはまず、腕章と刺繍された紋様を提示してから活動を行う決まりになっている。
つまり、神衛隊として活動するならば、腕章を付けてその活動の正当性を示さなければならないのだ。
だが、彼らは紋章は疎か腕章すら付けていない。
それはつまり、彼らが「本当に神衛隊なのか」ということすら疑わしいという事になる。
「あぁ、腕章ないもんね。ごめんごめん」
サクラスは腕章を腰の麻で編まれた巾着から取り出した。
差し出された腕章のその地は眩いまでの黄色で、寮で今も部屋鍵の管理を行なっているであろうクァルシンの物と同じだった。
ただ、彼女の腕章には黒糸で「成鳥」が描かれていたが、サクラスのそれには銀糸で何か、木の枝のようなものが描かれている。
「銀糸で『止まり木』………」
スーは唸るように呟いた。
ナギは詳しくは知らないので、それが何を示すのかが分からなかったが、スーは知っているようで、訊き返す事もなく腕章をサクラスへと返した。
「普段、邪魔だから外してるんだよね。今みたいに見せれば一応、問題になることはないし」
「それは微妙に規則違反な気もしますが………」
「大丈夫だって。今までも大丈夫だったし」
サクラスはそう言って片目をつむる。
スオもオトシネも別にそれについて何も言わないので、きっとそうなのだろう。
そんなこんなで、奇しくもその場に集まった五人はたわいのない歓談を繰り広げた。
すぷらたのちい




