a-22_サクラス-1
ナギが久々の自宅に近づいた辺りで、家の前に見慣れた獣車が止まっているのが見えた。
その車は「オトシネ」のよく使っている運送用の獣車で間違いないだろう。
そして、オトシネが来ているということは、彼女が来ている可能性も高いということだ。
ナギは大急ぎで小口まで駆け寄り、確認もそこそこに扉を押し開けた。
鍵はかかっておらず、扉はすんなりと開く。
「サクラスさん!」
間髪を容れずに放たれたナギの叫び声は、間違いなく家中に響き渡った。
家の近くの林で野犬が吠える声が微かに聞こえた。
「そんなに大声出さなくても聞こえるって」「相変わらず騒々しい」「元気でいいじゃねぇですか」
サクラスはスオとオトシネとの三人で卓を囲んでお茶を飲んでいた。
堅苦しい話をしていた訳ではないようで、三人の表情は(比較的)柔らかい。
「良かったー!イゾォルさんに聞いて急いで来たんですよ」
ナギはスオとオトシネにも軽く会釈をして彼らの輪の中に加わる。
「なんとなく、もうしばらく、ここにいれば来ると思っていたわ」
「女の勘というものは馬鹿にはできませんな、スオどの」
「全くだ。偶然っていうのはあるものだな、ナギ。『神』にでも感謝するといい」
彼の口から『神』が出るとは思わなかった。が、よくよく考えてみれば、それはいつもの皮肉なのだろう。
彼が本心から『神』への感謝を説くとは思えない。
「つまり、偶然ではない、ってことですか?」
ナギはスオを見返した。彼は明らかに演技と分かるような大仰な態度で「どうしてそうなる?」などと戯けて見せるが、最初から隠す気などないのだろう。
あるいは久しぶりの休暇で気分が上がっているのかもしれない。
「………秘・密」
代わりに言葉を引き継いだサクラスが悪戯っぽく笑う。
普段は大人びた雰囲気をしているのに、こういった時には見惚れるほど可愛らしい動作をする。
「えー………」
ナギは久しぶりの憧れ人との再会に、話したいことが多くあったが、彼らの雰囲気から、そう長くは時間を作るつもりはないのだろうと察する。
せいぜい、このお茶休憩が終わるくらいが期限だろう。
だから、ナギは自分の話したいことの優先順位をつけなければならなかった。
学校のこと、友人のこと、自分の御技のこと………。
「あ!そうだ、スー!」
ナギはすっかり頭から抜け落ちていた友人のことを思い出し、扉口まで走った。
「うるさい上に、忙しないときた」
後ろからそんな言葉が聞こえたような聞こえなかったような、とにかくナギは扉の前に立った。
そして、手を伸ばしたところで、急に開いた扉に盛大に頭をぶつけた。




