b-3_捜索-1
「これ、どう思う?」
神衛隊の制服を見に纏ったその二人は「警察隊」によって人払いがなされているその区画に立ち入り、現場の検証を行なっていた。
緑の腕章に黒い成鳥の紋章を携えた二人はまだ正式な調査隊員ではなかったが、優秀な生徒である事と、近頃急激に増えた御化被害の対処に神衛隊自体の人手が裂かれていたこともあり、半特例的に捜査に動員されていた。
とは言え、別に珍しい事でもなく、彼らとしても慣れつつある事だった。
「間違いなく『御化』の仕業だろうね。問題はこの場所、かな………」
リノバとリンの二人は改めて今回の被害者を見下ろす。
千蔦木のような構造物が地面からせり上がり、その男は直立したまま、その構造物に絞られるように絞め殺されている。
『神』を祀る礼拝堂の目前で行われたその行為は、到底許されることではない。
これは民衆に『神の力』に対する疑いの種をばら撒いたようなものだ。
なにせ、起こった場所が悪すぎる。
「とは言え、本当の意味で『神』の力が及ぶのは”あそこ”くらいのものよ」
リンの言葉に、リノバは腕を組んで顎を撫ぜた。
神衛隊として学を積んだものならば、礼拝堂が象徴としての意味しか持たないことは割と常識なのだが、一般市民からしたらそんなことは知る由もない。
そこから『神』への不信へとつながる可能性は想像に難くなかった。
「でも、こう言ったらなんだけど、彼の死に方は別に不自然ではないよね。彼は所謂、「異教徒」。そして死因はなんと神樹『千蔦木』による絞殺………とね。出来すぎているとも言えるかもしれないけど」
この国に置いて、『神』を信仰することに抵抗を持つ者はほとんどいないが、稀に変人、奇人の類として、『神』ではないものを信じる者も確かに存在していた。
彼らは社会における一切の恩恵を受けない代わりに自由な生活が保障される。
とは言え、それで経済的な自由が得られるかと言えばそんなことはなく、彼らはほとんど物乞い同然の生活を送ることになるのが現実だ。
それでも一定数の「異教徒」が生じるのは、人間の面白いところかもしれない。
彼らを見分けるのは容易で、刺青が顔に大きく刻まれているのを見れば良い。それ以外で「異教徒」を名乗り、好き放題する者は犯罪者として捉えられ、無理矢理に顔に刺青を刻むのだと聞いたことがある。
だから、今回の被害者も「異教徒」であることは一目で分かった。
「『神』の怒りに触れたことにするの?そんなに上手くいくかしら?」
「分かりにくい不都合な真実より、分かりやすい都合の良い嘘さ。まあ、憶測にすぎないんだけど。それに、これは僕らが気にすることではないね」
二人の周りは一般人がいることはないが、もう一人だけ、彼らの立ち合いとして立っている男がいた。
二人から少し離れた位置に立つその男は神衛隊のそれとは違う厚手の服装をしている。
藍を基調としたそれは、対人を想定した組織の制服だ。
つまりは「警察隊」と呼ばれる組織の制服である。
「こらこら、二人とも。私だからいいものの、他の担当だったら今のは相当まずい発言だよ」
ズボラに無精髭を伸ばした気の良いおじさん、と言った風態の彼の名は「オブリス・ペトラ」。
対御化を専門とするのが神衛隊なら、対人間を専門とする警察隊、それらの橋渡しを担当するのが彼の所属する部隊だ。
中でも彼は熟練の橋渡し役であり、神衛隊から警察隊に流れた珍しい人材でもあった。
それゆえに神衛隊の内情にも明るく、橋渡し役としてはこれ以上ないほど適材だった。
「あなただから、ですよ。流石に僕らも、誰にどこまで聞かれていいか位は気をつけてます」
リノバの言葉にペトラは「まあ、そうだろうがねぇ」と苦笑いをする。
「それより、警察隊の意見としてはどうですか?これは………まあ、御化の仕業と見て間違いないと思いますが。それを覆すような人的犯罪を示唆するような手がかりとかは?」
リンが半ば知りつつもその問いを投げる時、大抵の場合次の質問が控えている。
それを知るリノバは聞き込みはリンに任せて、会話から一旦抜け出した。
改めて被害者の様子を観察をするためだ。
膝をついて近くからその様子を観察すると、遠くから見たのとはまた違った印象になることがある。
今回もその例に漏れず、一見すると蔦のように見える地面から伸びたそれが、目を凝らして見るとそれがもっと無機質なものであると分かる。
具体的には土や、石畳などを変形させているのだ。
少なくとも一般人には、これだけの仕業は再現できないだろう。
明らかに人智を超えた技術によってなされたその有様は、御化によるものと判断するに十分な材料となり得た。
そして、この事件を引き起こした御化の能力も多少は予測ができる。
(………縛る力、絡める力かな?うーん、どれもピンとこないな)
「ちょっと、リノバ?」
一人、夢想していたリノバに対して声がかけられ、彼は我に帰った。
どうやら二人の話は終わったらしい。
「ごめんごめん、ちょっと気になって………」
リノバは膝についた土を払って立ち上がり、リンに尋ねた。
「………それで、何か分かった?」




