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幽明の番人  作者: 寺島という概念
『信仰』の御化
28/77

b-2_這い寄る影

 少し街外れの居住区。

 そこは商人のうちでも成功を収めた人間か、逆に何も持たない怖い者知らずの物乞い、あるいは病棟に寝泊まりをすることを強いられた者しかいない、比較的に静かな地域だ。

 有数の病棟が存在するために治安維持にも力が入っており、治安の良いイニティウムの中でも格段に治安が良い場所と言えた。

 

 にも関わらず、事件は起こった。


 最初の被害者はそこそこ名のある商人の家から生じた。

 その家の婦人があられもない姿で発見されたのである。

 夫である商人の男は悲嘆に暮れた。

 同時に、こんな目に合わせた者を同じような目に合わせてやろうと息巻いた。

 と言うのも、この男は愛妻家でしられた男ではあったが、同時になかなかに悪どい男でもあった。故に、彼に対して恨みを持つ者も少なくはなかったのだ。

 彼の妻の死因が、手の込んだものではなく、縄上の物による絞殺こうさつだったことから、彼は身近な人間が犯人なのではないかと疑心暗鬼に陥った。

 結果としてほとんどの使用人を突然のように屋敷から追い出し、彼は彼の妻が残した子供と数少ない本当に信用できる使用人のみを残して屋敷に閉じこもった。

 少なくとも、犯人が判明するまでは、彼が屋敷を出るつもりはなかった。

 しかし、彼はそこまでしていても『神』に祈ることはなかった。

 彼は自分自身の力で、犯人を見つけ出すことができると信じていたのだ。


 追い出された使用人たちはその時の彼の様子を暴風に喩え恐れ、また働き口を失った自分の不幸を嘆いた。

 そして、理不尽に仕事を奪われたその恨みの対象は、その原因を作った者へと向かう。


 ああ、『神』よ。どうか、どうか、我々をこんな目に合わせた者に、天罰を。


 その祈りが『神』に通じたのかなんなのか、いずれにせよ、商人はさらなる不幸に見舞われた。

 妻に引き続いて、息子の一人が屋敷の庭先で締め殺されていたのだ。

 その状況は妻のものとほとんど同じで、男はついに狂乱した。

 狂ったように家中のものをひっくり返し、凶器になりうるものを片端から捨てていった。

 それでも気が済まなかったのか、彼は屋敷を焼こうとさえしたのだが、残された使用人たちは暴れる彼を必死に抑えこんだ。

 その様子を見ていた残された二人の子供もまた、次第に父の狂気に引きずられるように狂い始めた。

 一人は部屋に閉じ籠り、少しの物音でも肩を揺らすようになり、部屋から完全に出ることがなくなった。

 もう一人は比較的正気を保っていたが、周囲の人間を完全に疑ってかかるようになり、実の父でさえも信用しなかった。

 幸福な家庭と呼べた一家は一瞬にして地獄のような場所に変わった。

 しかし、それを引き起こした犯人は一向にその影を白日にさらすことはなかった。

 このまま、その事件は闇の中に消えていくものだと思われた。

 しかし、事態は急転した。


 ある雨の日の後、その家からいくらも離れていないような場所で、新たな被害者が見つかったのだ。

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