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幽明の番人  作者: 寺島という概念
『信仰』の御化
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a-19_欲望の地

 ナギとスーは雨上がりの曇り空の下、丁寧に舗装された石畳の道を共に歩いていた。

 昨日雨が降り始めた時にはどうしたものかと思ったが、とりあえずは止んでいて一安心と言ったところだ。

 石畳が湿って雨の匂いがあたりに充満しているが、それを吹き飛ばすような活気がそこにはあった。

 少し辺りを見渡せば色とりどりに並んだ商品の数々が、宝石箱のようにキラキラと煌めいていた。

 そしてそれらが放つ、柑橘類の良い香り、葉野菜の青臭い香り、燻した肉の火を感じる香りなど、さまざまな匂いが雨の残り香を上書きしていく。

 初めてではないとは言え、普段は住宅街で農耕地で働いていたナギには、それだけで楽しめるものだった。

「ね。すごいでしょ?」

 ナギは隣を歩くスーに問いかける。今日のナギは一応スーの案内役だ。

「確かに、北部ソンテルマとはまた別の光景ね」

 二人は、両手いっぱいに商品を抱え込んでよろける男を避け、露店の呼び込みを断り、獣車の横をすれ違い、人混みの中を進んでいった。

「ソンテルマはどんな感じなの?」

「そうね………もっと暑苦しいわ。それといそ臭い。むさい男衆がとってきた魚介がたくさん並んでるのよ。………まあ、でも、威勢の良さだけは負けていないかも」

 スーはスーで楽しんでいるらしく、時折立ち止まり露店の中を覗き込んでいる。

(こんなスーの姿を見たのは初めてかもしれない)

 ナギはスーにはバレないように、密かに頬を吊り上げた。

 謎の優越感を心の片隅に、ナギとスーは気ままに歩く。


 二人は今、神衛隊学校から少し離れた商店街にやってきていた。

 神衛隊学校が位置するのは、住宅街が存在する区画からイニティアム大橋を挟んだ場所だ。

 そしてこの区画は住宅街とは違った活気で溢れている。

 首都プリマスの商いの中心地としての賑わいだ。

 『神』のお膝元であるこの地では、それらの営みが盛り上がれば盛り上がるほど良いとされ、いつでも祭りのような様相を呈していた。

 それゆえに学生にも人気のある場所で、学校から近いこともあり、ナギやスーの他の学生の姿もちらほら見かけことができた。

「ところでさ」

 露店で揚げ鳥を手に入れた二人は、もごもごと口を動かしつつ取り止めもなく商店街を歩いている。

「………なに?」

「いや、あそこにいるのシンじゃない?」

 ナギがそう言って指をさすと、露骨に顔をしかめたスーがその先を目線で追った。

 そこには確かに、なにやら店の手伝いをしているシンの姿があった。

「………そうね、でも今はどうでもよくない?」

「働いてるみたいだけど、どうしてだろうね?」

 神衛隊は一応、学生のうちでも生活費くらいの収入が入ることになっている。

 大抵が食費で消えるくらいのぎりぎりのものだが、それでも衣食住が与えられている神衛隊の学生はかなりの高待遇であると言える。

 それが必要に応じて「命」を捧げる対価なのかもしれないが、他の人たちの寄付(税金)からまかなわれているその金銭を自由に使うことは気が咎めるというものだ。

 それゆえに、自分が遊ぶ金銭を欲して短期職に着く者もいるが、その特徴に彼の人物像は当てはまらない。

 彼は生真面目な『神』の信徒であり、むしろ禁欲的な生活を送っているように思える。

 『神』は別に禁欲的に暮らすべき、などという明確な言葉を残していなかった筈で、ナギとしてはひたすら彼には感心する他なかった。

「さぁ?聞いてみれば?」

 それはあからさまに皮肉であり、スーがそれを本心から言ったのではないのは明らかだったのだが、ナギはあえて空気を読むことはしなかった。

「そうだね、行ってくる!」

「え?ほんとに行くの?ちょっと!今度は助けないわよ!」

 駆け出したナギの背中に、そんな言葉が浴びせられるが、別にそんなに危険なことをする訳ではない。

 それに仮に面倒なことになっても、結局彼女は助けてくれるだろうなと、ナギはなんとなく思っていた。

 それがナギの持つスーの人物像だ。

「こんにちわ。シンくん。何してるの?」

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