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b-1_濁雨
プリマスの商店街は夜でも明るく、連日のように酒場ではめを外す若者の賑やかしの声や、飲んだくれの中年親父の下手な民謡が聞こえてくる。
常に人が集まり静まることのない、賑やかな街だ。
しかしその日は、そんな街であっても呼子鳥が鳴いているのが聞こえるほど静かであった。
空は今にも降り出しそうな曇天。気分も沈むような薄暗さ。
運河は鈍色。空の曇を溶かして混ぜ合わせたかのような不気味な色だ。
しばらくして、そんな都市に雨が降り始めた。
部屋の中から暖色の光が漏れている。
その硝子窓から、商人の息子が外を眺め、水玉を指でなぞる。吐く息で窓は白く濁った。
その日の雨は、別段ひどい雨でもなかった。
しかし、ひたすらに降り続ける雨で、空気にも、地面にも染み込むような嫌な雨だ。
ぞるぞる。
降りしきる雨の中、誰もいない夜の商店街に、何かを引きずるような音が聞こえる。
一つではないが同じような音が断続的に。
それはどこから聞こえてくるのか?
地上ではない。
暗がりの中に、その音の主人は見つからなかった。
空でもない。
空で何かを引きずることはできない。
地下。
何者かが街の地下を這いずっている。
ゆっくりと、しかし確かにどこかを目指して。
だが、それを知る由は誰にもない。
それが「起きる」時まで。




