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幽明の番人  作者: 寺島という概念
『信仰』の御化
23/77

a-16_祈りと熱と

 夕飯の時間になり、ナギとスーの二人は食堂へと向かった。

 食堂の食事は、毎日通っていると流石に同じような内容が続くような印象が出てきた。

 流石に初日のような食事が毎日用意されている訳ではないようだ。

 とは言え、自分が作らなくても良いところや、安定して栄養価が高い食事を摂れることを考えればいいこと尽くめだ。

 ナギはいつものようにたっぷりとよそわれた根菜と塩漬けの肉を口に運んでいく。

 スオには身体づくりには食べることが必要不可欠であると、口酸っぱく言われたものだ。

 たまにスーと会話をしながらも、ほとんど無心で食べ続けていたナギであったが、後ろから声をかけられて、その手を一旦止めた。

「イールさん、ローペー(スー)さん、こんばんわ。同席しても?空き席が少なくて………」

 それは、初日で同級生に強い印象を残した男子生徒。『レン・シン』だった。

「大丈夫だよ。別に」

「感謝を」

 彼は大仰おおぎょうに謝辞を口にし、ナギの隣の空席に腰を下ろし、食事を始めた。

 彼は食事をするにあたっても、その前の感謝の儀式を丁寧に行っており、ナギはその姿に改めて感心する。

「それ、疲れない?」

 ナギは、彼が食事を初めて少しした時に、そう聞いてみた。

「何が?」

「そうやって、ことあるごとに『神』にお祈りするの」

 彼は一瞬、何を馬鹿なことを、とでも言いたげな顔をしたが、ナギが記憶を失った人間であることは教室中では割と知らない人もいないくらいにはなっていたし、そんな自分が疑問を持つのはおかしなことではないと思ったのだろう、丁寧に食器を置いて力説を始めた。

(あちゃぁ、失敗したかな?)

 彼は少し思い込みが激しいきらいがあるようで、ナギが『神』のことを信じていないように感じたらしい。

 それは、あながち間違いでもないが、正解でもない。ナギは今や別に『神』を信じていない・・・・・・訳ではない。

 ナギは助けを求めるべくスーを見るが、彼女は全く興味がなさそうに天井付近の壁を見て放心していた。

 これでは助けは期待できない。

「………ということで、『神』にお祈りをするのは疲れる、疲れない以前の問題なのです」

 やっとのことで話を終えたシン。

 それとほとんど同じような時機じきにスーがその小さな手で大きな欠伸を隠したのをナギは見た。

 しかし、それはシンの視界には入っていない。

(あれは絶対わざとだな)

 遠慮がちに見えて、なかなかに主張が激しい彼女を一旦は視線から追いやり、ナギは彼に意識を向けた。

 彼の言っていることは別に納得できないことではない。

 『神』は力を与え、我々人間を守ってくださる。だからこそ、感謝の心を忘れないようにしよう。

 早い話がそう言うことである。

 ただ、ナギが言いたいのは「なぜ祈るのか」ではなく、その頻度の問題なのだ。

 彼のそれは、今まで観察してきた他の生徒たちのそれをはるかに上回る熱量だ。

 だが、この調子ではナギの求める回答が得られるまでに十年はかかるだろう。

「なるほどぉ。じゃあ、まあ、私もお祈りくらいはしておこうかな。教えてくれてありがとね」

 余計な刺激をしないように適当な相槌を打ちつつ、ナギは話を打ち切るべく席を立った。

 スーもそれに続く。

「いや、待って、その口調は、まだ完全に理解できていない口調だ。遠慮はしなくていいから一緒に祈ろう!そうすればきっと、君の記憶も『神』がなんとかしてくれるはずさ」

 これは厄介なことになった。

 ナギはことを荒立てずにこの場を乗り切る方法を模索したが、なかなかいい案が思い浮かばない。

(逃げる?また彼と会う可能性がある限り、同じ問題に突き当たる可能性が高いか。じゃあ、思い切って断ってみる?同じかな?)

 ナギが渋い顔をして立ち止まったのをスーはどう思ったのか。

 彼の前に近づき、机をダンと叩いた。

 食器が軽く揺れ、談笑で満ちていたその周囲が一瞬だけ静かになる。

 が、すぐに喧騒は戻ってきた。その頃を見計らって、スーは口を開く。

「………あなたが、『神』をどれだけ信じようと、それはあなたの勝手だけど。それを無理やり他人に押し付けるのは感心しないわ」

 静かに、しかし確実に怒気を孕んだその言葉にさしものシンも怯んだ。

 先ほどまでの勢いがなんだったのかと思うほどに静かになった彼に背を向け、スーはナギの手を引く。

「それでも!」

 去り際に、少し立ち直ったシンがそんなことを言ったのが聞こえたが、その後に続く言葉は、スーの冷たい目線を前に、出てくることはなかった。

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