a-15_非才の角度
「本当に、君は『御化狩り』を目指すの?」
ナギは先ほどの担任のマギスの言葉を思い出し、また腹を立ってきた。
怒りに任せてズンズンと廊下を進む彼女の歩速に追いつける者はおらず、次々と他の通行人を追い抜き、すれ違って行く。
確かに自分には才能がないのかもしれない。
それはここ二週間で彼女自身にでも分かったことだ。
他の生徒たちは問題なくできていたことが、ナギには時間がかかる。
出力も小さめで『御技』を用いた実践で支障を来たすこともなかったと言えば嘘になる。
分かっているのだ。
自分には『御技』を使いこなす才能がない。
ただ、使えない訳でもない。だから、ゆっくりとそれを使える環境であれば、別に困らない。
だからこそ、マギスは個人面談で彼女に提案したのだろう。
それらを気にする必要が薄い、三の徒や四の徒を。
だが、それでも。
「諦められない」
実際に言葉にしてみると少し冷静になり、ナギは歩調を緩めた。
ナギは自分が初めて『気づき』を得たあの日から、それをどのようにして使っていけば良いのか、悩んでいた。
神衛隊にとって『気づき』は『御技』を用いる始めの一歩であり、その深度が『御技』という技術の精度を決める。
ナギの『気づき』は浅いものらしく、集中しなければその道筋が見えてこないのだが、スーなどは常に身近に感じるほどには深い繋がりを感じるらしい。
それが逆に生活には不便だと彼女は言うが、神衛隊としての素質は彼女の方が遥かに高いと言うことだろう。
ナギは嘆息して自室へと戻った。
途中、クァルシンに挨拶をして鍵を受け取りに行く。
「………ナギちゃ〜ん、もし悩みがあるんだったら相談してね〜」
鍵を受け取る直前、かけられた言葉と彼女の不器用な笑みにナギのささくれた心が少し解けた。
彼女はああ見えて、いやそうだからこそ、人の感情に敏感なのかもしれない。
同じような気遣いをできる人はそういないだろう。
「ありがとうございます」
ナギは彼女に笑いかけて、大丈夫だと言うことを伝えた。
サクラスがスーにそうしているのを何度か見ていたし、実際にこれをするとやられた方も嫌な気分がしない。
ナギが今抱えている問題は少なくとも、彼女に対してしたい類の話ではないと思った。
いつもの中庭の植物談義(彼女は草花についてやけに詳しい)に関する悩みなら彼女に打ち明けていただろうが、如何せん、今回はそうではない。
クァルシンもそれを察してくれたのだろう。軽く頷いた後、何も言わずに自分の作業に戻った。
部屋に戻ると、スーがいつものように窓際に椅子を置いて本を読んでいた。
その姿に少しホッとする。
彼女はいつも本を読んでいるのだが、その内容は大きく『御化』に偏っていた。
単純に興味があるのか、それともそれ以外に理由があるのかは分からないが、少なくともすごい熱意だとは思う。
「………どうだった?」
スーはナギが入ってきたことに気がついて、本に栞を挟んでを畳んでそう言った。
「本当に『御化狩り』を目指すのか?だって」
「あ〜確かに、あなた、『御技』はからっきしだものね。それで?諦めるの?」
ここで生活するようになって二週は日を過ごし、スーはナギの気のおけない友人の一人となっていた。
スーは一見すると大人しそうにも見えるのだが、その実、結構切り込んだことを言う人間だ。
だが、悪意はないことが分かるので、ナギとしても気持ちよく切り返すことができる。
「まさか」
「そうよね。あなたが諦める姿って、なんでか想像できないし。とは言え、何か対策は立てないといけないのは確かよ」
「それは、ずっと、考えてる」
ナギは口に入ってきた羽虫を吐き出すような思いで応えた。
スーは才能があるにも関わらず、人を見下すようなことをしない性格だ。
対して、ナギは非才だが嫉妬とは無縁な性格だった。
だからこそナギとスーの仲は良好でいられたし、スーの助言をナギは素直に受け止める。
「ま、ずっと考えていてもしょうがないし、気分転換でもした方がいいかもしれないわね」
「じゃあ、今度の休日、一緒に街に出ない?」
ナギは天啓のように閃いた考えを即座に口にした。
「すごい唐突。まあ、こっちにきてからあまり外には出てないし、乗るわ。私も少し行き詰まっているところではあるし………」
ナギは意外にも乗り気なスーに意外に思いながらも、それよりも彼女が行き詰まっている状況ということに興味が湧いた。
「なに?行き詰まってるって」
「私も、あなたと同じようなことを言われたってこと」




