a-14_落葉
久しく見ていなかった夢に混乱していたナギだったが、次第に治まってゆく。
乱れていた拍動もそれに従うように落ち着いていった。
そして、落ち着いてくると、ここが寮の部屋で、リンにここまで運んでもらったのだと察することができた。
(後でお礼を言っておかなきゃ)
切り替えの意味を込めて、一度だけ息を深く吸い込み、ナギは身体を起こした。
部屋は白く明るい。
小さく開いた窓から小鳥の朝の囀りが聞こえる。
微かに感じる匂いは慣れ親しんだものではなく、新品の寝台が放つ虫除け香のミニャ草の匂いだ。
ふと感じた口内の渇き。
それを解消するためにナギは洗面台へと立った。
自分の寝台から立つと、少し離れた場所に並べられている寝台の上には同室のスーが寝息を立てて眠っている。
眠っている姿を見ると、本当に人形のような綺麗な顔立ちをしていることが分かる。
物音を極力抑えるようにして朝の身支度を済ませたナギは、さっぱりとした気分で寝台に戻り、腰掛けた。
しかしなんとなく落ち着かず、立ち上がってぐるぐると部屋を見回っては座る、と言うのを何度か繰り返す。
というのも、何やら奇妙な感覚があるのだ。
何かから見られているような。
逆に何かを覗き込んでいるような。
かと言って実際に何かを見ている訳でもない。
これはなんとも………
(名状し難い)
少なくともナギはその感覚を説明するための語彙を持ち合わせていなかった。
ただ、昨日のリノバとリンに言われたことから考えると、おそらくこれが『拡張された感覚』なのだろう。
彼らの言う通り、今のナギには体調不良はない。
ふらつきも、倦怠感も、今のナギには無縁なことだ。
そう思うと気分も少し落ち着いてきた。
「んぅ〜っ」
猫のように伸びをして、ナギは窓際に立った。
部屋の窓からは昨日の中庭が見える。
昨日は暗くてよく見えなかったが、庭の中央には巨木が植えられていた。
その巨木は豊富に葉っぱを蓄えて、その身に降りかかる恵みを逃すまいとしているように見える。
実際、あの巨体を維持するのにはそれなりの代償が必要なようで、根元はほとんど不毛の地と化していた。
小円卓と椅子はその部分を利用するようにして置かれていたのだ。
あるいは、備品を置くために除草をおこなっているのかも知れないが、それにしては土面の範囲が広い。
(きっと、この庭はあの巨木のための場なんだ)
青々と茂った木の葉が風に揺れる音と小鳥の囀りが微かに聞こえてくる。
あの隠れ蓑の内ではきっと、小鳥たちの営みが興っていることだろう。
そして、それ以外の、もっと小さな生物もいるに違いない。
ナギは葉が何枚か落ちるのを見た。
その落葉は、何が原因なのだろうか?
ナギにはそれに思いを馳せた。
ナギの思索は、後ろで眠っているスーが動き出すまで続いたのだった。




