表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽明の番人  作者: 寺島という概念
『信仰』の御化
20/77

a-13_夢中の海月

 彼女は何処かの畑の畦道を歩いていた。

 緩やかな坂にできたその畑は、細かく小分けされて棚畑状だ。

 見覚えがあるような気がするが、何処かは思い出せない。

 空は薄雲がまばらに浮かぶ程度の快晴。

 降り注ぐ陽光が眩しい。

(今日も暑いなぁ)

 彼女は頬を伝う汗を拭った。麻で編んだ帽子に指が擦れる。

 さて、自分は何をしていたのか。

 何かをしていた気がするのだが、それが思い出せない。

 しかし、彼女の意思に反するかのように身体は自然に動く。

 両手で抱えるように持った水差しの水を丁寧に畑の青々とした作物に振りかけていく。

 どうやら、自分は水やりをしている最中らしい。

 水差しの水がなくなると、畑のはずれの貯水槽で水を補充し、それを繰り返す。

 なんでもない日常の一幕。

 彼女は水を汲み終えて腰に手を当てて一息ついた。

 帽子の上からでも分かる、身をくような陽光に耐えかねて、彼女は貯水槽の水を一すくいして顔に被せた。

 一瞬だけひんやりとした清涼感が顔を包んだ。

 吹き込む微風がほんのりと涼しい。

 作業に戻るべく後ろを振り返ると、一人の少女が手を振っているのが見えた。

 その顔にも見覚えがある気がして、彼女は必死に彼女の元へと駆け寄ろうとする。

 しかし、焦れば焦るほどに、その少女の姿は彼女から離れて行く。

(なんで………!?)

 そして、少女の姿が豆粒のようになったと同時に、光景が真っ暗なものに切り替わる。

 訳の分からない焦燥しょうそうも消え失せ、ナギは、自分がこれを夢と認識していることに気がついた。

 先ほどまでとは違い、自分の身体が自分の物として動いている。

 一度だけサクラスに連れて行ってもらった劇の幕間まくあいのようなその空間には、何もない。

 ただ無機質な空間が果てしなく拡がっている。

(なんなの、これ)

 ナギは夢の中で途方にくれる。

 まさか、夢の中で思い悩むことになるとは、誰が予想できるだろうか。

 と、皮肉気味に笑ったところで、遠くの方で闇の中に一点に光が差し込んだ。

 そこには誰かがしゃがみ込んでいるようだった。

 ナギはそこに歩みを進める。

 それが正しいような気がした。

 なんの抵抗も妨害もなく、普通に歩みを進めることができた。今回は不思議な力で引き離されることがないらしい。

 いくらか歩いたところで、啜り泣きのような息遣いも聞こえ始め、その声からその誰かさんは少女であることが分かる。

 今や、その誰かはナギの目の前にいる。

 夢にまで見るのだから、きっと無くした記憶に繋がる誰かなのだ。

「こんにちわ」

 少し長めの髪をもった少女の背後に立ったナギは、声を掛けて反応を待った。

「あなた、名前は?」

 反応がないと見て、ナギは少女に名前を問うた。

 啜り泣きは止まず、空白のような静寂のみがその場にあった。

 痺れを切らしたナギは少女に合わせるようにしゃがみ込んだ。

 そしてその肩に手を当てた。

 夢の中で実体、非実体を語るのも妙な話ではあるが、実体はあるようで、ちゃんと触れる。

 それでも反応がないので、少女を振り向かせるように引き寄せた。


 黒。


 思わず身体をらせるようにして距離を置くが、見えるものは変わらない。

 そしてさらに悪いことに、さっきまではなんの反応も見せなかったその少女は、こちらを認識したかのように立ち上がり、後ずさるナギに寄ってくる。

 そして、ナギはその顔から目を逸らせなかった。

 あの御化を思わせるような黒穴が揺蕩たゆたうように目の前に広がって行く。

 夢だと分かっていても、彼女は恐怖で目を閉じた。


 そして次に目を開けた時、その目には見知らぬ部屋の天井が映った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ