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幽明の番人  作者: 寺島という概念
『信仰』の御化
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a-8_四徒-1

 ナギは、彼女が自分の前を通った時に、その目線が一瞬だけ自分に向けられたように感じた。

 しかし、それはあまりに一瞬で確証はなく、自然に視線が彼女を追ってしまう。

 そんなナギの視線などお構いなしに、彼女は語り続ける。

「別に歴史の授業ではないのでこれ以上は説明しませんが、あなた方の暴走を防ぐために用意された首輪、それがこの腕章です」

 彼女は自分の腕に煌めく緑色の腕章を指差し、腕を上げて少し強調した。

「これは緑ですが、緑は『四の徒』を指します。四の徒はこうして私があなた方の前に立っていることからも分かるように、『導き手』もしくは、その『徒弟』であることを示しています。他にも………」

 腕章と制服は、神衛隊の関係者であるという証である。

 特に腕章は神衛隊においてその人物がどのような役割を担っているのかが分かる、重要なものだ。

 彼女の説明によると、緑が「教導」の「四の徒」を示すのと同じように、黄色が「探究」の「三の徒」、青色が「戦力」の「二の徒」を示すらしい。

 三の徒と四の徒、特に「三の徒」は神衛隊においても変人揃いと言われており、主に御化の発生原因の究明や、その行動原理の分析、果ては『神』の力の分析など、いわゆる研究職とされる集団である。

 四の徒の中でもそう言った研究などを行う隊員も存在するが、彼らの本分はあくまでも教導であり、主な仕事はこうしてナギたち神衛隊学校で生徒の相手をすることである。

 近年では御化の発生が減少傾向にあり、直接的対処にあたる「二の徒」のような隊員の逼迫ひっぱくもないため、反比例的に増加傾向にあるのがこの二つの徒である。

 対して減少傾向にあるのが「二の徒」。彼らは直接「御化」に相対する機会が増えるため、どうしても危険がつきまとうことは否定できない。

 しかし「神衛隊」と言われて誰もが一番先に思い浮かべるだろう姿は「二の徒」のものである。

 直接的に人々を助け、『神』から授かった不思議な力を用いて戦う戦士たち。

 そんな分かりやすい姿は人々の支持を得やすく、また憧れる者も多い。

 それ故に人気も高い徒であると言えよう。

「慣習的に「赤」、「最優」の「一の徒」というものもあることになっていますが、ほとんど廃れた慣習と言って良いかもしれませんね。実質的には「黒」の「元老の徒」が四つ目の徒として、神衛隊を支えています。彼らは現役を退いた神衛隊員達が集い、その知恵を持って神衛隊の維持に努める、それが「元老の徒」です」

 ナギはスオに神衛隊について色々と教わっていた筈なのだが、ここら辺は正直教えてもらった覚えがない。

 忘れていたとも思えないし、多分わざと省いたのだろう。

 問われればきっと、彼ならこう言う。

(「どうせ後でわかる」か)

 確かに知らなくてもそこまで困りはしないが、そうは言っても知っていて損はないと思う。

 彼は自分が説明しなくても良いであろうことはどんどん省くのだが、それも彼の時間に対する考えかたゆえなのだろうか。

 自分も神衛隊の組織構造について気になって聞くことはしなかったし、彼の考えも分からなくもないのだが、少しモヤモヤが残った。

「そして皆さんは『無色』。神衛隊学校の生徒となったからには必ずつけることになる『緑』の腕章ですら、あなた方は、まだ与えられていません」

 ナギは思考にふけっていたところを、教壇からの声で現実に引き戻された。

 そして、自分の腕をちらと見る。何も巻かれていない自由の腕が、そこにはあった。

「皆さんは確かに、神衛隊学校に入学することを許されました。しかし、そこで終わりではありません。これから三月の間、皆さんにはさまざまな形で試練が課されます。それは適性を測るものであり、能力を知るものでもあり、『現実』を突きつけるものでもあります。それらを乗り越えて初めて、皆さんは神衛隊の一員として認められるでしょう」

 話を区切った彼女は、年季の入った鋭い眼光で教室を一度じっくりと見渡し、一人一人の身の内を覗き込んだ。

「私が課す最初で最後の課題は、皆さんは『なぜ普通でいられなかったのか』。その答えを出すことです。むしろ、これが分からないようでは、皆さんは出発点にも立てていないと言えましょう。皆さんの確固たる『解答』に期待しています」


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