a-7_デフラードス・ガシュー
少しだけスーとの距離が近づいたのを感じた頃、一人の人物が教室に入ってきた。
その人は波打つような白い長髪を持ち、切長の目を持った初老の女性だ。
金糸の装飾がなされた緑の腕章が彼女の浅黒い肌に映える。
ただならぬ雰囲気を放つその女性は堂々たる佇まいで教壇に立った。
その際、彼女が意図的に踏み鳴らして床を叩いた音が、鞭のように生徒たちを打ち据えた。
彼女を起点に沈黙の波が起きたかのように、教室中に静寂が広がる。
そして完全に静かになった教室に、彼女の第一声は放たれた。
「ようこそ、新入生諸君。まずは『神衛隊学校』へと入学し、ここにいることに賞賛と歓迎を」
彼女の声はよく通った。
まるで神授堂の打ち鐘のように腹に響き、耳に残る声だった。
その余韻が冷めやらぬうちに、彼女は言葉を重ねる。
「あなた方はここで、普通に生きていれば目にすることはないだろう物事を目にし、聞き、語らうこともあるでしょう。それはあなた方に与えられた特権です。それを享受できることは誇っても良い経験と言えます。しかし………」
彼女の言葉に一瞬だけ空気が弛緩したのだが、それを抑え込むように語気を強めた声でまた空気が引き締まった。
意図的に緩急でもつけているのだろうか、だからこそ耳によく残るのかもしれないと、ナギは注意深くその声に耳を傾け、次の言葉を待つ。
「同時にそれは普通の生き方を諦めるということでもあります。ここに来ると言うことは、普通を捨て、外なる道を歩むということに他なりません」
彼女はそう言って教壇から部屋中を見渡した。
決して狭くはないが広くもない部屋、彼女の視線は明らかにその場の全ての人間を捉えていた。
彼女の目にはナギやその他の生徒の姿はどのように映っているのだろうか。
そのなんとも言えない微笑からは、正確なことは何も読み取れなかった。
「はっきり言いましょう。ここに来るということは普通から逸脱するということです。皆さんはこれから『異常者』としての生を生きてもらいます」
彼女は何でもないことを語りかけるような口調でそんなことを言う。
「そして、その異常者が普通の存在に危害を加えないよう、教育、躾を行うのが、我々、神衛隊学校の役目です」
彼女は教壇を離れて生徒たちの前を歩き始めた。
彼女のゆったりとした大股な歩みには無理がなく、それだけ彼女の体幹がしっかりとしていることを示していた。見た目の印象とはあまりにかけ離れている。
「私たちはあなた方にその『異常』の扱い方を教えます。代わりに、皆さんは神の徒としての貢献を強いられます。それこそが神衛隊の四つ柱、『四徒』としての役割です」