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目的地の教室まではそう時間は掛からなかった。
とはいえ、一つの建物内を移動するにしては充分すぎるくらいには時間がかかっていた。
一体どれだけの設備をこの建物は内包しているのか。
今のナギには少し、想像も及ばない事柄のように思えた。
とはいえ今回に限っていえば、ここまでの道のりに時間がかかったような感じはなかった。
リノバは丁寧で几帳面、そして自分からは話しすぎない。
話相手として不足無く、親しみやすい人だった。
そんなこともあって、レノバとの気持ちの良い会話を交えたナギは、教室に着く頃には少しばかり学校内のあれこれに詳しくなっていた。
「さて、到着だ」
「ありがとうございます。色々教えてもらって」
「言ったろ?憧れてたんだ。感謝される程のことじゃ無いよ」
「『感謝はできる時にしとけ』と言われているので」
「はは。君とは本当に仲良くなれそうだ。それじゃあ、頑張ってね。またどこかで」
彼はにこやかに手を振って去っていく。
去り際に、前を歩く人にぶつかりかけたのは、なんと言うか、彼らしい。
リノバと別れたナギは意を決して今日の到達点へと足を踏み入れたのだった。