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幽明の番人  作者: 寺島という概念
『信仰』の御化
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a-1_転生-1

不滅の存在など存在しない。

 時間は常に液体のように流動し、世界のことごとくがその流れに運ばれて、遠くへと運ばれている。

 その過程で運命という障害物に角を削がれ、形を変えて揺蕩うのだ。

 周り巡って、時に元の形に戻ることもあるかもしれない。

 だが、それはきっと「限りなく似た何か」であって、元の存在とは別物だ。

 だから、我々は今を大切に生きねばならない。

 本当の意味で永遠に変わらないものなど存在しないのだから。


***


 何かが聞こえる。

 それは優しげにも、激昂しているようにも、あるいは悲しげにも聞こえる。

 一つだけ分かることは、それが自分に向けられたものであるということだけ。

 黒い波のうちを揺られるようにしてそれを聞いていた彼女だったが、不意に大きな波が彼女の身体をさらい大きく揺さぶられる、かと思えば白い光が視界を埋め尽くした。


『起きろ』


 落ちた。

 朽木くちきが死に際に葉を落とすように。

 病に犯された、されど生きた成木が最後の子種を残すかのように。

 それは風に煽られ、巻かれ、その終着はどことも知れず。

 しかし、あらゆる可能性を内包して。

 そして確かに、生まれ落ちた。


 頭、割れた。


 激しい衝撃と共に視界がひらけた。

 仰向けの視界に緑色の天井が見える。

 それは騒めき、はためき、ゆらゆらと揺れている。

 散らつく視界と、鼓動の波に合わせて襲ってくる頭痛に顔を顰めつつ、彼女はなんとか身体を起こす。

 身体を起こすと、自分が透き通るような薄着一枚であることに気がついた。

 真っ白な素材で滑らかだが、古ぼけたように至るところがほつれている。

(どうしてこんな薄着?)

 気温はそこまで低くはないので寒くはないのだが、こうも薄着だとどうにも不安になる。

 彼女は辺りを見渡した。

 まばらながらも確かに森と言えるような、木々や茂みに覆われた緑と褐色が彼女を覆っていた。

(ここはどこだろう)

 考えても分からないので、とりあえず顔に引っ付いた泥と枯れ茎を左手で擦り落とし、彼女は立ち上がった。

 身体の節々が痛み、思わず身体がこわばった。

 おまけに、急に立ち上がったものだから、頭から一気に血が引けて視界に星が散っている。

 背面にあった崖壁に身体を預けて、ふらつきが収まるのを待つことにして、しばらく深呼吸を繰り返す。

 ふらつきが治った頃になって、彼女は周りに何があるのかを改めて確認することにした。

 何はともあれ、今の自分が置かれている状況を少しでも理解しておきたかった。

 背面にそびえ立つ白褐色の壁面は驚くほど高く、また急であった。

 真下からでは、首を限界まで反らせてもその頂上を見てとることはできない。

 もしかしたら自分は、この崖上から落ちてきたのかもしれない。

 空を頂く高崖を見上げつつ、そんなこと考えるとゾッとして、まだ少し残っている頭が割れたような感覚と、未だに強く残る頭痛を強く意識してしまう。

 そこから何か思い出せるような気もしたのだが、そんな気がするだけで実際に記憶が呼び起こされることはなかった。

 かき集めた傍からこぼれ落ちるかのような感覚がとても気持ち悪い。

 彼女は頭に記憶が抜け落ちるような穴が空いているのではないかと不安になり、思わず頭をまさぐった。

 髪が乱れ、泥だらけの手で汚れる。

 ところが、頭には穴はおろか、へこみすらなかった。

 綺麗な曲線を帯びた頭部を感じ取れるだけだ。つまり、彼女は崖から落ちた訳ではないのだと少し安心する。

 しかし、それならどうして自分がここにいる理由を思い出せないのか。

 ボサボサの頭から手を下ろし、改めて辺りを見渡す。

 周りにこれといった変化が見られないのと同様に、「自分がここにいる理由」もまた、思い出せなかった。

 だが、何か、声を聞いたのは覚えている。呼び声のような。

 それから………落ちたのだ。

(………やっぱり落ちた?)

 落ちたのならば、上の方に何か手がかりがあるかもしれない。

 改めて崖を見上げるために、背後の岩肌から離れる。

 岩肌を下から辿るように眺めていると、ふと、上の方に何か光るものを見たような気がした。

 それは、ひとりでに光っているというよりは陽光を照り返した煌めきのように見えた。

 ふと自分がさっきまで倒れていたであろう場所を見やると、同じような細かな赤い煌めきが目に映る。

 自分の所在を探すことに必死で脚元を見ていなかった。

 しかし、本当に小さな塊が、少量落ちているだけである。気がつかなくて当然だったかもしれない。

 むしろ、今気がつけたことが幸運とさえ考えられた。

 歩み寄り、拾い上げてみると、指先ほどのそれは、褐色の結晶だった。

 透き通っているが、気泡や黒く変色した何かの繊維のような粒子が、その内に散見できた。

(何だろう、これ)

 指に摘んでその結晶の赤い煌めきを見つめていると、視界が急に暗くなった。

 最初は雲間に日が翳ったのかと思った。

 しかし、それは違うのだ直感する。

 泡立つ全身の肌がそれは危険なものだと、教えてくれている。

 耳元で呼吸音のような、それにしては細長く漏れるような音を感じとり、恐る恐る振り返る。


 穴。


 深い谷間。深淵を思わせるような黒い虚がそこにあった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

書く方は面倒だと思いますが、感想。大歓迎です。

主観ではそこそこでも、客観だとひどいとか普通にあると思うので、改善できるところはしていきたいですしね。

モチベーションにもつながるので、よろしくお願いします。

お気に入りとかしてもらえると、単純に喜びます。

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