プロローグ
以前書いた短編の連載版的なあれです。よろしくです。
同情が嫌いだ。
人に向けられるものも、自分に向けられるものも、例外なく同情が嫌いだ。
だってそれは、真の意味で相手に寄り添う行為とは一番遠い感情だから。
無関心とも無視とも、ましてや心配とは全く縁がないものだから。
なればこそ、問いたい。
同情と最も近い存在である者を、どうやって愛すればいいというのだろうか。
真の意味で同情ができてしまう者は、何を信じていけばいいのだろうか。
一言で言い表せばーーそうだ。
ーー俺は自分が大嫌いだった。
ーーーー
突然だが、少し昔の話をしよう。
それはそう、俺が小学生4年生になった頃の話だ。
「なぁ!俺もサッカー混ぜてくれよ!」
体を動かすのが大好きだった俺は、いつも通り公園で遊んでいた友達に声をかけた。特に約束をすることもなく、放課後は自然とみんなここに集まるのだ。日によってやる遊びはばらばらなのだが、その日は俺の得意なサッカーだった。
チーム分けは適当だ。その時の人数でどちらのチームに入るのかを決めるのが、自然と出来上がった俺たちの決まりだった。
「おう!いいぜ!」
「じゃあお前はこっちチームな!」
「本当は上手すぎてつまんねーから入れたくないけどな・・・」
「じゃ、もっかい最初から始めよーぜ」
いつも通りの返答が返ってくる。いや、いつも通り?何かいつもと違ったような・・・。
「って、本当は入れたくないからとか、そんなこと言わないでくれよ・・・」
何か他の言葉に混ざったように聞こえて、そのまま流すところだった。普段はそんなこと言われることはないのに、どうしてそんなことを言うのだろう。その言葉に回りが疑問に思ってなかったこともそうだが、直接そんな言葉を浴びせられて黙って飲み込めるほど、当時の俺はまだまだ大人じゃなかった。
「え?誰もそんなこと言ってなくないか?どうした?」
ところが俺のそんな言葉は、意外にもそんな言葉で返された。
「え?たしかにそう聞こえたけど・・・」
あれか?みんなして俺をからかっているのか?
「い、いやいや。誰もそんなこと言うわけないだろ?な、なぁ?」
「あぶねー。ついつい口に出ちゃったのかと思ったぜ...」
「まぁ実際聞こえてなかったしなぁ。急にどうしたんだ?」
いやいやいや、おかしいだろって。やっぱりそういった感情があり、確かにそれは言葉になって俺に向けられている。
「つい口に出ちゃったってどういうこと?」
俺はたしかにそう言っていたやつに、直接聞いた。
思い返せば、それが始まりだったかもしれない。
その時自分の力に気付いて、そう聞かなければ、色々と違ったのかもしれない。
ともかく俺は、直接尋ねてしまったんだ。
返ってくるのは、当然の疑問。
「な、何でこいつ俺の思っていることがわかるんだ!?」
そいつの口は動いていなかった。ただ、俺を訝しむ目だけが、俺のその力の異質を物語っていた。
俺はこの日を境に、人の心を読むことができるようになった。
ーーーー
なんでこんな力に目覚めたかはわからない。何の前触れもなく、俺はこの力に目覚めてしまった。
その日を境に、俺の生活は一変した。
まず学校で孤立した。あの一件のことが知れ渡ってしまったのだ。嫌悪されていたというよりは気味悪か思われていた。
みんなにも悪意はなかったんだと思う。だってみんなからしたら、悪いのはどう考えても俺だから。
実際に口にされてないのに、悪口を言われたと一方的に相手を疑ったのだ。グループから外され、独りになってしまったのは必然だった。
それに、あくまで孤立。嫌がらせを受けたとかではないし、露骨に避けられたりとかでもない。
自然とそうなった。それは多分、俺の態度も関係していたんだろう。
だって、聞こえてしまうんだ。
怖い、イジワルだ、ひどい、なんてやつだ。
いじめに発展しなかったのが幸運だった。そう思えるほどの言葉を、思いを、未成熟で無防備な心に浴びることとなった。
別に彼らを恨んだりはしていない。きっと自分がみんなの立場だったら、同じように思うかもしれないから。
当時の俺にそれは、とても耐えられるものではなかった。それらを無視できるほど達観していたわけでもなく、悪意のない悪意は、容赦なく俺の胸に突き刺さっていき、やがて限界を迎えた。
俺は不登校となった。
なんでこんな力を手にしてしまったのか、それは今になってもわからない。わかるのはこの力が異質なものであり、普通のものではないことだけ。
相談できる人もいなかった。両親は俺が幼い頃に既に他界していて、俺は叔父と叔母に育てられた。
何不自由なく育てられた。衣食住に困ることなく、豊かな生活を送っていた。
しかし知ってしまった。俺は育ての親である二人の心を読んでしまった。
そして2人が、俺のことを疎ましく思っていることを、俺は知ってしまったんだ。
今までの思い出全てが崩れ去った。一方的に知り、勝手な裏切りを味わった。
二人は俺を見ると、死んだ娘...俺の母を思い出すようで、本当はそばに置きたくなかったようだ。
ショックだった。愛されていると思っていたから。
多分それが決定打だった。俺は人のことが信じられなくなった。
信じられないだけの材料は、嫌でも伝わってくるから。
それでも俺は2人に感謝している。それもかなりだ。
そんなふうに思っていても、表面上は愛情を込めて俺を育ててくれたのだから。
それが簡単なことじゃないのはよくわかる。幼いながらにも、当時の俺にもその凄さは理解できた。
だから俺は二人を嫌いにはなれなかった。それが「苦しみ」を助長させることになるのだが、それはまた別の話だ。
そして2年の時を経て、俺はこの力とようやく向き合えるようになった。
とにかく俺は頑張った。心の声をしっかりと聞き分けられるようにして、何とか中学校を3年間通いきった。
だけどやっぱり、他人を信じることはできなかった。どうしても、心の声が邪魔をする。
それに耐えながら生活するのは辛かった。
だけど卒業する頃には俺も、何とかこの能力と折り合いをつけられるようになってきていた。
そして春、俺は高校生となった。
念願の一人暮らし。バイトで忙しい生活が既に決まっているが、心の安寧よりも優先するものがあるはずもない。
ーーそこで俺は、運命の出会いを果たす。
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