『Pioneer』
投稿が遅れてしまいました
あまり居ないとは思いますが、楽しみにしていた方、お待たせしました
あと、戦闘訓練のやり方ってこんなのでよかったですかね?
では、お楽しみあれー
『なぜ、我々は戦争がやめられないのか。正義の戦争があるからであろう。さらに言うなら正義があるからであろう』
――誰が言い出したのかも分からない。
それ程昔の時代に存在した太古の記憶である訳でもなければ、何者かに故意に抹消された幻の歴史である訳でもない。むしろ、その言葉自体は、歴代のハリウッド映画よりも有名で、下手をすれば、年齢が一桁にしか到達していないそこらの子どもも小耳に挟んだことはあるくらいの代物だ。
ただ、何のために何を思って言ったのか――それが何も分からない。
大層な例え話を引っ張り出してきたがつまるところ、意見の食い違いは世の常であり、考えの違う者同士の対立が打ち解ける道など皆無に等しいということだ。正義などという言葉でいくら着飾ろうと、本質的にはそんなものなのだ。
自身の持つ正義で、他者を悪と見なして攻撃する――それ以上の快感を享受させてくれる事象など、多分、この世には存在しない……。
――
――乾いた銃声が二つ、響いた。
遠く離れた壁に隠れたターゲットの動きを予測しながら、リューズはアサルトライフルに新たに弾丸を装填する。
続いて、自身の身を隠す壁の隙間から銃砲身を露出させ、スコープを覗く。そして、相手の指一本程度の細微な動きさえも見逃さず、タイミング良く、且つこなれた様子で引き金を引く。まるで向こうの動きが筒抜けになっているかのようだった。
「……少しハズレか」
同時、弾丸が壁の隙間をすり抜け、隠れていた帝国兵Aの耳をスレスレに空気を打ち抜いた。被弾はしなかったものの、それでもリューズの射撃の技術は並大抵のものではないことが伺えるだろう。
続いて、相手の頭上の空気を切り裂きながらまた弾丸が飛んできた。更には、左の頬を掠めるような勢いで飛び込んでくる。
「くっそ…、あいつもあいつでおっかねえなあー」
それからも、色々な部位をスレスレに弾丸が横切っていく。反撃はできるだろうか、と帝国兵Aは自身のアサルトライフルを壁を土台として銃砲身を預けるかたちで構えた。
同時、弾丸が彼の頬を軽々と掠った。何かが切り裂かれたような一瞬の衝撃。そして、そこから伝うジンジンとした燃えるような熱さ。
「あ、ダメだこれ」
帝国兵Aは両手を挙げた。手が二本、壁から少しはみ出て見えた。
――一方レットは、手慣れの帝国兵Bからの銃撃に押されつつあった。レットはアサルトバッグを漁り、何かを掴んだ。掴んだ状態で手を引っ張る。小型の爆弾だった。煙しか一丁前に出ない簡素なものだ。
思い付いた。当てずっぽうに引っ張り出した道具ではあるが、いざ使うとなると微量の躊躇いがある。だがそれもどうこう言っていられない。左手の指でピンを引き抜き、自身の背を預ける岩の更に後方へと投げ込む。
「ほらよっ、プレゼントだ」
爆破、それと同時に視界を白の煙幕が包み込む。一瞬、相手は怯んだ。直後、こなれた動きで相手の背後に回り、後頭部に至近距離で銃口を振りかざす。後頭部に銃砲身がコツンとぶつかる。そして、カチャリと小気味いい音が鳴ったことが、彼の攻撃開始の意思表示だ。
「ま、待ってくれ! 参った、参ったよ」
相手はアサルトライフルを捨て、両手を挙げた。機転の利かせ方はレットの方が上だったようだ。
「普通のマシンガンより断然いいな、これ」
――アサルトライフルのスコープを覗くが、人影は動かない。アサルトライフルがポツンと置いてある。構えた状態で周りの場所も見回してみるが、人は見えない。余計に、アサルトライフルを構えている帝国兵Cに意識を向ける。
カレンは眉を顰め、溜息を一つ。
「はあー……。命を狙われる身ってのも、楽じゃないねえー」
ついさっきまで遠かった筈の銃声が、心成しか隣り合わせに耳に飛び込んでくるように思えた。それと同時に、カレンはやっと身の危険を察知する。相手はそこまでの手慣れだったか? 先程の人影から想定するに、年齢や体格は自分と大して変わらないように見えたのだが。
すぐ後ろから銃声が三つ程。続いて、砂を踏む音。
振り返ると、相手は護身用のピストルを構えて、その銃口をこれ見よがしにこちらへと振りかざしている。どこか勝利を確信したような、誇らしげに立っているようだった。
「ふーん、バカはとっとと死ねってことか。だったら…!」
カレンは、ベルトのバックルにしまったピストルを取り出すと、相手の足元目掛け乱射する。同時、相手は驚愕という感情を携えたまま、必死に足を振り上げる。
一発、また一発と撃つ。一歩、また一歩と振り上げる。
カレンは半ば楽しんでいる様子で、相手の足元を撃ち続ける。相手は弾丸から逃れようと必死になり過ぎて、滑稽なタップダンスを披露していた。
十数発程度撃った後、限界が来たのか。ついに相手は前のめりになって転倒した。顎をそれなりに強く打ち付ける。その痛みを脳が感知すると同時に、今度はカレンがピストルを構え、相手の額に標準を合わせる。
「ま、待って! 降参。もう降参するから!」
相手がピストルを捨てる。それを確認し、カレンは腕を下ろす。
「色々考えたみたいだけど…多分それ、バカになってる時の私にしか通用しないよ」
――横切る弾丸の唸り声を聞きながら、相手の技術を見極めようと試みる。弾丸はクラセルの身体を捉えようと、ギリギリ身体に触れない程度の空間で起動を描く。否、ギリギリと言うよりかは、弾丸がハエか蚊かと見紛うくらいにすばしっこくまとわりついてくる、といった様子だ。
成程、粗削りではあるが使いこなそうとするやる気はあるようだ。
「ですが、当てずっぽうにやっていたら、それこそ意味がありませんよ?」
よく耳を澄ませると、先程の弾丸はアサルトライフルのものだった。では今は? 乾いた発射音と無音が変わり番子に、且つ定期的に訪れる。そして、その音は部分的にではあるが、大きくなっている。否、近付いてきている。移動と狙撃を繰り返しながら、こちらへの接近を試みているようだ。
聞く限り、上手く回り込もうとしていることが伺えた。
砂を蹴る音と撃鉄を起こす音。二つの音が混ざり合いながら、クラセルの首元に牙を立てようと一歩一歩近づいてくる。反撃のため、アサルトバッグの中から一つ、あるものを取り出す。どちらかと言えばメジャーな道具の一つだ。
(……来た…!)
足音が背後で止まったその瞬間、身体を180度回転させる。彼女が構えたのはピストルだった。引き金を一つ。
相手は面食らったが、身体を逸らして攻撃を回避する。続いて、腰のバックルからピストルを取り出し、引き金を二回引いた。だが、その弾丸はどちらも空を切った。反射神経や瞬発力はクラセルの強みなのだ。
相手の手首を掴んで捻る。急な速さと急な角度に捻ったため、相手は、手首に生じた、突き刺さるような痛みに怯んだ。その拍子にピストルを取り落とす。
背後に回ると、クラセルは相手の首を締め上げて腕をまわし、ファイティングナイフを鼻先に突き付ける。二人の身長はそう変わらないが、今ではクラセルが優勢だ。
「成程ね、そういうこと。今回は…、負けね」
帝国兵Ⅾは、抵抗の手段として暴れさせていた両手を下げ、降伏の意を示した。それを確認し、クラセルは腕の力を緩める。
「いえ、あなたもよくこなれていた方です」
――その戦闘は、その場所ではありふれた日常と言えるような、そこに居るほぼ全ての人間が見慣れた景色であった。
――
――配属された《帝国軍、陸軍司令部、第一五九師団司令棟》での、戦闘用の訓練場。そこでは、レベッカが一人、2万5千を超える隊員を前に今後のことについての指示を出していた。
「諸君。午後の訓練、ご苦労であった。作戦決行までそう時間もない。慌てろとは言わないが、一層、気を引き締めて軍務に臨んで欲しい。この国のためにも…、この世界のためにも……、だ。――では、整理運動と武器の整理を終えてから、各自解散だ」
レベッカが言い切るのと同時に、隊員達は各自の持ち場へと戻っていく。その中でも、例の4人は相変わらず二つの派閥に分かれ、互いに干渉するにできていない…。所謂、一つの冷戦のような状態にあった。
『女のケンカは根深いもので、10年後に再会しても険悪な雰囲気になる』などといったようなことをリューズはどこかで聞いた気がするが、それが事実ならば、自分達にはどうすることもできない。二人がそれぞれ自身の咎を認め、相手を受け入れる姿勢を取らなければ、ことは終わらないのだ。
「ねえレット、行こー」
「うわっ! …作戦に影響しねえと良いけどよ……」
力無く飛び出たレットの独り言が、騒がしい筈の訓練場にて、いやに大きく響いていた。
――
(公私混同は流石にないとは思うが…)
クラセルのことだから、とリューズは微量の懸念を拭おうとするが、数日前のダスタリア支部での一幕がある。と言うのも、『何のストレスも無い訳じゃない』という旨の発言が、自らの存在を誇示するかのように記憶の網に引っ掛かるのだ。
ストレスの溜まらない人間や環境など殆ど存在などしないだろうが、今自分の隣に居る女も例外ではないようだ。
多分、カレンはストレスを感じると、その場その場である程度のガス抜きが試行されるタイプのようだ。だがクラセルの場合は、全くと言っていい程表に出さない分ストレスを溜めやすく、ある一定のラインを超えると、一気に爆発するタイプだと考えられる。リューズに対し、オモチャをねだる子どものようにタバコを要求していたことが、その片鱗だろうか。
「……」
「…う…さ…、……少佐、バルカローレ少佐!」
「――っ!」
クラセルの声によって、意識が現実へと引き戻される。
「ボーっとしていましたよ、大丈夫ですか?」
「あ…ああ、問題ない」
リューズの声は、どこか抜けていた。と言うのも、文章の始めに『一応』を付ける程度だが、カレンとクラセルのいさかいが気掛かりなのだ。このままいくと軍務に支障が出る。配属状況や二人の険悪具合によっては、作戦が成功できるかどうかすら怪しくなってくる。
カレンは大尉、クラセルは中尉だ。それぞれ中隊と小隊の長を務めている。だからこそ質が悪い。
――リューズとレットの話し合いの結果、二人の仲が良好に戻るまで顔を合わせるのも控えさせる、という結論に至った。また、カレンの動向も引き続きレットに監視させる方向に決定された。昼間、レットと部屋を変わって貰った帝国兵に、この複雑でややこしい事情を理解して貰えるかどうかは分からないが…。
――
寮の3階、西棟の階段のすぐそばの部屋。そこにリューズとクラセルは居た。
「そう言えば、だが…」
「はい」
「恋愛禁止とは言っていたが、なぜ部屋はこんな風に男女を混ぜて割り当てているんだ?」
どこか無性に気まずい雰囲気をどうにか和ませるような、苦し紛れの話の切り出しであった。話の選び方が悪かったのか。はたまた、彼女は今談笑に浸るような気分ではなかったのか。クラセルは説明口調で、淡々と答えた。
「そこら辺は結構ガバガバですよ…。それっぽく振る舞っても、注意されることの方が稀らしいです。…噂では、他国から見た時の体裁を守るためにわざとそんな軍則を設けて、実際は全く取り締まりなんて行ってない、と言われています」
「……そうか」
「まあ、今は独立当初の名残とも言われていますが」
慣れないことはするものではないな、とリューズは思った。
結果、気まずい空気を回避するどころか、より一層気まずくなってしまったように感じる。
作戦にまで影響が出てしまうのは好ましくない。他の師団どころか、同じ師団内の別の中隊や小隊とも連携が取れず、迷惑を掛ける。
ならば、どうするべきか。分からない。分かる訳もない。同じ大隊内の隊員ではあるが、それ以上でもそれ以下でもない関係だ。家族や親友や長年連れ添った恋人のように、互いが以心伝心出来る訳がないのだ。ただ数年前から同じ隊に所属しているといだけで、友人のような交流があったかどうかと聞かれると、特別そんなこともないのである。
「…変な事を話してしまったな。気分を悪くしたなら、すまない」
「お気になさらず」
とは言え、仲の悪い者同士を同じ空間に置くことは得策ではない。故に、このような処置をとっているのだ。
――数分後、クラセルが席を立った。
「食堂へ行ってきます。夕食を摂りに」
「待て、俺も行く」
リューズも席を立った。レットがカレンの監視役を務めている分、自身もクラセルの監視役を務めねばならない。少なくとも今は、道中でカレンと鉢合わせになっても対処ができるようにするための行動だ。
会わなければ、それはそれで万々歳なのだが。
――
ある日を境に、レイラは書斎に入り浸るようになった。と言うのも、今まで軍事施設のデータベースや屋敷の図書室の本をいくらひっくり返しても顔すら見せなかった情報が、書斎に足を踏み入れた途端に、足並み揃えてレイラを出迎える。今や書斎は、真実を追い求めるレイラにとってのオアシスとなっていたのだ。
オアシスと言う表現の仕方は度が過ぎているかもしれないが、それでも、この書斎はレイラにとって欲しいものをくれた。とは言え書庫に所狭しと詰め込まれている、小難しい文字と一瞬理解に苦しむ情報の集合体は、解読にかなりの時間と労力を必要とした。だが、そうでもしなければ進展は生まれない。
先程手に取った本の始めの方のページ。そこには、このように書かれていた。『――西暦2212年、大陸のほぼ中心に位置する国、ウニゾーン帝国が不穏な動きを見せ始めた。』
(帝国の反乱が原因だとは聞いていたけど、そんなに前から片鱗を見せていたのね。今からだと……、18年前か…)
18年前――この時、レイラの人生は幼少期の真っ只中だった。記憶の奥深くに追いやられた事象ではあるが、学校での世界史の授業で聞いたことはある。丁度その年に戦争が始まったのだ。本土が島国であったおかげか、共和国本土は攻撃を受けずに済んでいる。
続いての手記はこうだ。『やがて帝国は我が祖国、フラーリッシュ共和国へ攻撃を開始した。これが、×××××××の幕開けにもなったのだろう』
(確か軍学校だと、その帝国に抵抗するために共和国は参戦したって聞いたけど…。ってあれ? 何か黒ずんでて読めない)
レイラは自分の理解に及ぶよう自力で要約しながら読み進めていく。『幸か不幸か、共和国は勝利を重ね、順調に領土を広げた』
文章の隣には収縮された世界地図が印刷されており、共和国本土を含めた世界の様々な地域が、赤色に塗りつぶされていた。同じ色を領土だと考えると、本土以外の領域は植民地と考えるのが普通だろう。
――出鱈目にまとめれば、共和国がなぜ世界の覇権を握ることになったのかの解説ページのようだった。
「あー、ただの伝記みたいな感じか。微妙にハズレだったかな」
本を閉じようとしたその時、またもや本のページの隙間から、はらりと紙切れが落ちてきた。
「またー?」
何であろう。また写真などという展開であるのか。否。そこには意図の読み取れない、理解不能な文字の羅列が書き留められていた。数字とアルファベットで羅列の殆どが構成されているのが、まだ救いだった。そして、それはこのような文字列であった。『6J5KPEQ@』
「何かの暗号かしら? 一応ノラにも聞いてみよ」
ハッキングのエキスパートならば、何かしらのプログラミングやコンピューターウイルスのコードなどの知識があったりもするだろう。そんな淡い期待を抱きながら、ポケットから携帯電話を取り出した。
同時、その携帯に着信が入る。相手は、たった今自分が連絡を入れようと試みていた人間だった。
(ノラから? 余程急な用事でもあるのかな)
書斎に鳴り響く無機質な着信音が、いやに不気味に聞こえた。
ギリギリ投稿できました
疲れたんでもう寝る
次回の構想はちょっと決まっています
まあ1ページくらいですが……