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第22話「魔王のパレード」

 国王就任式はあっさりと終了した。


 結局、任されたスピーチも変に工夫を凝らしたものではなく、平易で無難な内容にした。


 所詮内々の行事だし、下手に張り切ってボロは出さない方が良いだろうと思ったからだ。


 就任式の後は、王国の内外に向けて祝祭を催す旨が伝えられた。


 その2日後、トリフォリウム王国は大勢の観光客で賑わう事となる。


 街には華やかな装飾が施され、多くの出店が開かれた。


「凄い賑わいですね」


 王宮の展望台から人で溢れかえる街を見下ろす私。


 平時でもトリフォリウム王国には多くの来客が訪れるが、今は胸焼けしそうなぐらい人が多い。


「人が集まるよう、十全に喧伝いたしましたから」


 と、私の隣に控えるヴァールが答える。


「トリフォリウム王国に新たな国王が誕生した。そう広く知らしめるための祝祭。人は多すぎるぐらいが丁度良いのです」


 ヴァールが言うように、この祝祭には私が新たな国王としてトリフォリウム王国に君臨した事実を他国に周知させると言う目的がある。


 トリフォリウム王国の玉座は既に空席ではなく、その場所を他国の者が占める事はない。


 故に、トリフォリウム王国は未来永劫、完全なる独立国である。


 それを分からせるための行事なのだ。


「シロメ様、そろそろ、パレードの準備を」


 恭しく促すヴァール。


 祝祭のメインイベントとして、国王就任パレードを予定していた。


 車輪付きの台の上に玉座を据え、私がそこに座り、家臣達の牽引を受けながら街中を移動するのだ。


 国王に相応しい煌びやかな衣服を纏い、私は仮面を身に着ける。


 準備が整うと、王宮からパレードが始まった。


 移動する玉座。


 ゆっくりと流れる景色を、じっと見据える私。


 市中に入ると、国民であるサキュバスや他国からの観光客、多くの魔族の姿が視界に飛び込んで来た。


 皆、一様に私の事を見上げている。


 そして、その表情は____


「んー、アレが新しい魔王か」


 かなり微妙なものだった。


 好意的な反応はかなり少ないように見える。


 仮面で顔を隠しているとは言え、やはり、実年齢の幼さを隠し切る事は出来ないようで、魔王としての器に疑問を抱かれている様子だ。


 そもそも、インキュバス自体、他の魔族達からは忌み嫌われている存在。


 私の国王就任に反感を持っている者もそれなりにいるだろう。


 ……このままでは駄目だ。


 パレードの間、私はただ大人しく玉座に腰を据えているだけの予定だったが、


「ここで、止めよ」


 広場に差し掛かった時、私は立ち上がり家臣達そうに命じる。


 少しの間と戸惑いがあり、家臣達は私の言葉に従って、パレードの進行を中断した。


 前に悠然と進み出る私。


 腰元からダガーを引き抜くと____


「はあっ!!」


 ダガーから彼方へ向けて黒い閃光を放つ。


 極太で濃密な漆黒が一直線に前へと進む。


 金切り声を上げる空気。


 直後、轟音と共に地底を揺るがす衝撃が発生した。


 市街は騒然となり、私の近くにいた者達が恐れをなして散り散りになる。


「聞け、魔族の同胞達よ!」


 仮面にそなわっている拡声機能を使用して、魔族達に語り掛ける。


「私は憤慨している。何故か分るか?」


 その問いに魔族達はざわざわとしながらこちらから距離を取り始めた。


 皆から私に対する恐怖が伝わって来る。


 ダガーを握りしめ、私は身を乗り出し、


「リリウミア____あの地上の汚らわしい侵略者共が我々の土地を再び踏みにじろうとしている! 同胞達よ、これを怒らずして何とする! 奴らはつい先日、ゴブリンの国の一つを手中に収め、魔族を軟弱と嘲笑い、その貪欲な触手をさらに奥地へと伸ばさんとしている! 何たる屈辱か!」


 ともすれば威嚇する様に、私は魔族達に視線を巡らせる。


「今一度、問う! 我々魔族がヒト族にその領域を侵される____それを良しとする者はいるか!?」


 煽る様に問い掛けると、群衆の何処かで「良い訳がない!」と声が上がった。


 そして、それを皮切りに四方で魔族達が「ヒト族を許すな!」だとか「ヒト族を殲滅せよ!」だとか、怒りの声を上げるようになる。


 ヒト族への怒りと憎しみを伴った興奮の輪は広がり、やがて市街は半狂乱の渦に包み込まれた。


「更に腹立たしい事に!」


 喧騒の中、私は続けて、


「あろうことか、奴らに、ヒト族に与する愚かな魔族がいる! クトー王国の事だ! リリウミアの侵略に対し、我々は団結して立ち向かわなければならない! だと言うのに、彼の裏切り者共は、これ幸いとクロガネ王国に対し火事場泥棒を働こうとしている! 許し難き事だ!」


 私の怒りの言葉に呼応するように、各地から「そうだそうだ!」と賛同の声が上がる。


 この場の空気は、今まさに私によって支配されていた。


 不意打ちの黒い閃光で恐怖を植え付け、共通の敵への怒りによって人心を纏め上げる。


 人心を操る事に長けた魔族であるインキュバスの私は、ほとんど直感的に、その作法を心得ていた。


「私は今ここで声を大にして宣言する! トリフォリウム王国はクロガネ王国と同盟を結び、リリウミアと、そして、魔族の裏切り者であるクトー王国と剣を交える事を! 魔族の同胞達よ! 決してヒト族による蹂躙を許してはならない! この”地下水道”の秩序をヒト族から守るため、我が国に続いて欲しい!」


 そう言い放つと、怒声のような大きな歓声がわいた。


「トリフォリウム王国万歳!! シロメ魔王万歳!!」


 私を讃える多くの声が聞こえてくる。


 つい先程まで、私の国王としての資質に疑いを持っていた者達が、口を揃えて祝福の言葉を投げ掛けて来た。


「共に立ち向かおうぞ、同胞達よ!」


 最後にそう叫ぶと、私は玉座に戻り、パレードを続行させた。


 再び、動き出す景色。


 その有り様は先程とは一変し、新たなトリフォリウム王国の国王を熱狂的に祝うものとなっていた。

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