第21話「妹の秘密」
ベルティーユとアカツキを牢へとぶち込む。
牢と言っても、鉄柵で四方を囲っただけの簡易なものなのだが。
聞き取りが終わったら、船上のもっとしっかりとした造りの牢屋に二人を移送するつもりだ。
「……ふう、取り敢えずは一段落ね」
と、一仕事終えた後の達成感に浸る私。
アカツキは有用な情報源となるので、捕虜として丁重に扱う。
ベルティーユの処遇に関してはリリウミア本国に指示を仰ぐことになるだろう。
今の騎士団は頭が欠けた状態で、組織は再編の必要に迫られていた。
だから、上とは密に協議しなければならない。
そのため、私はリリウミアに、地上に帰還する事にした。
久々の地上。久々の日の光。
私は胸を躍らせながら帰路につこうとして____
「……あら?」
視界にイライザの姿を捉える。
周囲に気を配る様子を見せる彼女は、すっと街角の闇へと消えて行く。
気になって後を付けてみると、行き着く先はグン王国の外側だった。
「……まさか」
予感を抱く私。
以前、イライザが街の外でヴァンパイアの男と会話していたのを思い出す。
今回も例の男と会うつもりなのだろうか。
果たして____私の予感は当たった。
イライザが何やら呼びかけを行うと、岩陰からヴァンパイアの男が姿を現した。
私は身を潜め、二人の会話を観察する事に。
「アカツキとか言うオーガが消えて、ようやく、こっちは進軍が開始出来るわ」
「ようやくですか。随分と時間を稼がれましたね」
どうやら、今回のベルティーユとアカツキの一件について情報共有を行っている模様だ。
ただ、それなりに距離があって、詳しい話の内容は理解出来ない。
じれったくなって、少し接近しようと試みると____
「おや、そこに居るのはどなたですか?」
「!?」
ヴァンパイアが迅速な動作でこちらとの距離を詰める。
私は鞘から剣を引き抜き、ヴァンパイアを牽制する様に構えた。
視線が交差する。
私とヴァンパイアは睨み合った状態で、膠着した。
「……お姉様?」
と、対峙する私達の元にイライザも遅れてやって来た。
ヴァンパイアは私とイライザを交互に見遣り、
「……おや、もしや姉君でいらっしゃる?」
イライザは「ええ、そうよ」と頷きつつ、私の退路を塞ぐように移動する。
妹とヴァンパイアに挟み撃ちにされる形となった私。
……これって、もしかして……私、やられるパターン?
「どういたしましょうか、イライザさん? 始末した方がよろしいでしょうか?」
「……うーん……そうねえ……」
私は半身になって、イライザとヴァンパイアの両者に注意を配る。
ヴァンパイアはイライザの判断を待っている状態で、イライザはじっくりと考え込むように口を閉ざしている。
やがて、イライザは決心したように、
「____いえ、お姉様なら、私達の力になってくれる筈よ」
「ほうほう」
イライザの言葉でヴァンパイアの身体から緊張が霧散する。
私も釣られて、構えを解いた。
イライザは優しく語り掛けるように、
「お姉様……お姉様は、今、ひどく困惑していると思うの。どうして、私が魔族の男なんかと一緒にいるのか。だから、説明をさせて」
「……説明? ……そうね、是非、説明して貰おうかしら?」
私がそう促すと、イライザは落ち着いた様子で、
「聞いた事ないかしら? リリウミアの上層部には”地下水道”の魔族と繋がりを持つ者がいるって」
「……聞いた事はあるわ。ただの噂だと思ってたけど」
「それ、ただの噂じゃないのよ。事実として、リリウミアの上層部にいるのよ____魔族と繋がっている者が」
その言葉で再び身構える私の緊張を解くようにイライザは、
「でも、勘違いしないで欲しいわ。その人は何もヒト族を陥れようとしている裏切り者って訳じゃないの。むしろ、ヒト族のために地上から魔族を排除しようと頑張っている人なのよ」
弁明する様に言う。
「地上のヒト族と”地下水道”の魔族との間にはね、密約が存在するのよ。それは相互不干渉の誓い。地上のヒト族はヒト族で、”地下水道”の魔族は魔族で、それぞれ住み分けて生きる。そう言う約束が存在するの。そして、リリウミアの上層部には、その密約の履行者であるH氏が存在していて、彼女は地上から魔族を排除するために、”地下水道”の魔族と連携している。で、私はそのH氏の使いって訳」
イライザはヴァンパイアの男に手を向け、
「この方はクトー王国の大使ルイさん。クトー王国は”地下水道”側の密約の履行者の筆頭。そう言う訳で、私と彼の間には繋がりがあるの」
イライザに紹介されて、ルイが一礼する。
「H氏にとっても、クトー王国にとっても、今回遭難者を攫って密約破りをした魔族は敵。排除すべき存在。だから、連携して彼らを滅ぼすために私達は話し合いをしていたの」
イライザの話を聞き終わり、私は事情を把握した。
そして、まずはイライザがベルティーユのような裏切り者ではない事に安堵する。
一応、ヒト族のために妹は行動しているらしかった。
それはそうと____
「そのH氏って誰の事よ?」
話によると、イライザにはH氏と呼ばれる主の様な存在がいるようだった。
一体、何者なのだろうか?
イライザは「うーん」と唸ると、悪戯っぽく笑い、
「秘密よ」
「……いや、秘密って」
「だって、教えたら、うっかり他の人にバラしちゃうかも知れないでしょ、お姉様は」
もしかして、私、信用されてない?
割と口は固い方だと思うのだが。
「”口”は少ない方が良いのよ。だから、今の今まで、お姉様とカーラにも内緒でH氏の使いを務めて来たのだから」
納得出来る、出来ないような。
「でも、こうやってバレたからには、お姉様にもこっち側に加わって欲しいの」
そう言って、こちらに手を差し伸べるイライザ。
……勧誘、か。
私は差し伸べられた手を見つめながら、どうしたものかと考える。
イライザの行っている事は、リリウミアやヒト族に対する害意によるものではないが、魔族と手を取り合っていると言う点で、裏切りとも取れる行為だった。
ヒト族への献身か、裏切りか、解釈が別れる所だ。
だが、少なくとも、他人様にバレたらベルティーユのように糾弾される案件ではあるだろう。
だから、彼らの側に付くのは遠慮したい。
そもそも、協力して私に何の利点があるのか。
____だけど、イライザは私の妹だ。
「分かったわ」
覚悟を決め、私はイライザの手を取る。
正直、気は進まないが……私がここで身を引けば、誰が妹を御せると言うのか。
イライザがヘマをしないためにも、一線を越えないためにも、姉である私が付いていて上げるべきだ。
「お姉様なら、そう言ってくれると思ったわ」
イライザはそんな私の気も知らないで、いつもの掴み所のない笑みを浮かべる。
……全く、この娘は本当に。
もう少し、優秀で心優しくて妹想いの姉を持った事に感謝して欲しいものだ。
私は憮然としながら溜息を吐くのであった。




