第20話「ベルティーユの追放」
ベルティーユとアカツキとの密会が発覚。
私はその後数日間、二人の様子を見守る事にした。
それで、二人の関係性について大分理解を深める事が出来た。
ベルティーユとアカツキは以前から親交があったようで、時々手紙での遣り取りをしている仲のようだった。
言葉の節々や態度からベルティーユがアカツキに惚れている事は確実で、しかし、アカツキの方はベルティーユに恋愛感情を抱いている様子は無い。
つまり、ベルティーユの片想いで、二人は恋人同士ではなく、あくまでも友人同士と言う訳だ。
ところで、
「……ベルティーユの奴、あんな男がタイプなのね」
と、二人の観察中に呟いてしまう。
魔族である事を抜きにしても、アカツキは特段魅力的な男性とは思えなかった。
オーガなのにひょろっとしていて、紳士的だが、ぼんやりと頼りない顔をしている。
ベルティーユと二人きりの時は特にその緩さが目立っていた。
……って、そんな事はどうでも良いのだが。
ベルティーユとアカツキの密会を観察する事数日、私はベルティーユを裏切り者として裁く完璧な証拠を捉える。
「アカツキ君、本国から停戦を破ってすぐに進軍しろって、最後の警告が来たんだけど」
いつもはどうでも良い話ばかりをするベルティーユとアカツキだが、その日は違った。
真剣な様子で本国からの停戦破りのお達しについて話し出す。
「大分粘ったんだけど……もう限界かも。これ以上調停を引き延ばすと、私、団長クビになっちゃうよ」
対するアカツキは、
「うーん……もうちょっと、どうにかならないかなあ」
そんな抜けた調子で口を開く。
真剣に困った表情を浮かべるベルティーユとの対比で、なんともだらしがない印象を受けて、ムカムカした。
「どうにかって……だいだい、アカツキ君がちゃんと遭難者の情報を掴んでくれれば、もっとやり様はあったんだよ?」
「それは……ごめんよ。僕も精一杯やってるんだけどね。結果として、ベルに負担を掛けちゃってるみたいだ。本当にごめん。自分が情けなくて仕方がないよ」
「……もう、そんなに謝らないでよ、アカツキ君」
何だか、ヒモ男とそれを養う女を見ているみたいで、非常にイライラする。
さて、リリウミアとアカツキとの間で板挟みになっているベルティーユは____
「分かったわ。どうにかしてみる」
「どうにかって?」
「最終手段。本国に既に進軍を開始しているって虚偽の報告をするから」
とんでもない事を言い出す。
「まあ、進軍したけど、思いの外苦戦して立ち往生してるって事にすれば、どうにか辻褄が合うでしょ」
「……良いのかい? バレれば、最悪投獄ものじゃないのかい?」
ベルティーユよりもアカツキの方が気後れしている模様だ。
ベルティーユは溜息を吐き、それから、若干顔を赤らめて、
「____だって、アカツキ君のためだもの……あ、いや、今のはやっぱなし……!」
いや……何言っての、この人。
私は一体、何を見せられているのか?
割と良い歳した女が、ロマンス小説の十代前半の少女よろしく初々しい恋愛の一幕を繰り広げている様子を、どう捉えればいいのか?
「と、とにかく、私に任せて、アカツキ君!」
さて、場面は変わり、騎士団の野営地。
ベルティーユは本国への手紙をしたため、それを封筒に入れ、部下の騎士に手渡していた。
私は封筒を手に船へと移動する騎士の後をつけ、頃合いを見計らって、
「ちょっと、貴方、少し良いかしら?」
「え、はい……何でしょうか、アンリエット様?」
騎士を呼び止める。
そして、半ば強引に、封筒を奪い取って、
「これ、預からせて貰うわね」
「あ……いや、それ、ベルティーユ様の手紙ですよ?」
「知ってるわ」
私は「後は私に任せなさい」と一言告げ、戸惑う騎士を尻目に封筒を持ち去って行く。
そして、一人きりになった所で、開封して手紙の中身を確認する事に。
手紙には、既に騎士団が進軍を開始していると言う虚偽の報告が記されていた。
「やっちゃったわね、ベルティーユ」
アカツキに伝えた通り、本当にリリウミア本国に虚偽の報告を行おうとしたベルティーユ。
これは私情による利敵行為で、リリウミアに対する重大な裏切りだ。
私はすぐさま部下の騎士達を呼び集め、事の経緯を説明する。
部下達は一連の情報にかなり困惑していた。
聖日騎士団団長が魔族の男に現を抜かしていたなんて、そうそう信じられる事ではないので、当然の反応と言える。
「告発の準備を進めるわよ」
決行は次にアカツキが来た時だ。
簡易会議場の皆の面前で真実を伝える。
そして、アカツキもろともベルティーユをお縄にかけるのだ。
1日が経過し、アカツキが捜索状況の説明に簡易会議場にやって来る。
アカツキがいつも通り、報告を始めようとした所で、
「ちょっと、待ってもらえるかしら?」
立ち上がる私。鞘から剣を引き抜き、アカツキとの距離を詰め、その喉元に切っ先を突き付ける。
「うわっ!? ……えーと、これはどういうつもりですか、アンリエットさん?」
狼狽えるアカツキ。
私の行動に会議場は騒然となった。
私は剣を握りしめたまま、鋭くアカツキを睨み、
「やりなさい」
そう告げると、場外で待機していた私の部下達が会議場に雪崩れ込み、ベルティーユを取り押さえた。
それで、その場は更に騒然となる。
「ぐっ!? お、おい! これは、どういうつもりだ!? おい、アンリエット!」
「どういうつもり? それはこっちの台詞ですよ」
身動きを封じられたベルティーユが怒鳴り散らかし、私は冷たい一瞥を彼女に与えた。
「皆さん、お静かに! そして、聞いて下さい! 聖日騎士団団長ベルティーユは____いえ、この売国奴にしてヒト族の裏切り者は、我々騎士団やリリウミアを騙し、魔族側に与する最低最悪の悪事を働いています!」
声を張り上げ、一同に告げる。
私が「例のものを」と一言指示を出すと、部下達がすばやく会議場に巨大スクリーンを用意し、魔道具を用いて、音声と共にそこに映像を投影し出した。
「まずは、これを見て頂きたい」
映し出されたのは、ベルティーユとアカツキとの密会、その数日間の記録を短く編集した映像だった。
映像では、ベルティーユとアカツキが仲睦まじく談笑しており、二人が親密な関係である事が察せられた。
「な……!? い、いつの間に……こんな……! や、やめなさい! すぐに映像を止めなさい!」
ベルティーユが怒声を発するが、誰一人としてその言葉に耳を傾けない。
皆、映像に釘付けになっていた。
そして、驚きと呆れの表情を浮かべている。
映像内のベルティーユは、皆の前で見せる毅然とした佇まいは何処へやら、惚け切った表情と甘え切った猫なで声でアカツキに接していた。
誰がどう見ても、アカツキに女として惚れていると分かるほどに。
「何だ、あの初々しいベルティーユ団長の姿は」
「あれって、完全に……アカツキ殿に惚れているよな?」
「……メスの顔だ」
騎士達はドン引きだった。
よりにもよって、聖日騎士団団長が魔族の男に恋心を抱くとは、誰が予想しただろうか。
さて、映像は先日の一幕に移る。
ベルティーユがアカツキのために本国に虚偽の報告を行う旨を伝えるシーンだ。
途端、会議場は非難轟々となる。
「あり得ない……聖日騎士団団長ともあろう者が!」
「これは重大なリリウミアへの裏切り行為だ!」
「恥を知れ、恥を!」
場内の熱気が最高潮に達した所で、映像は終了し____
「皆さん、この者は私情を優先し、我々騎士団を、リリウミアを、ヒト族を裏切った大悪党です!」
私は懐からベルティーユの手紙を取り出し、皆の前で掲げる。
「見て下さい! この通り、ベルティーユは騎士団が既に進軍を開始しているなどと言う虚偽の報告を本国に行おうとしました! 最早言い逃れは出来ません!」
手紙の内容を確認した騎士達は激怒し、口々にベルティーユを罵り始める。
会場が熱を帯びる中、
「……いやあ……参ったね、これは」
アカツキは苦笑いを浮かべ、
「……僕と彼女をどうする気だい?」
「抵抗しなければ、お前もベルティーユも拘束して牢に入れる。だが、抗うのであれば____」
「抵抗する気は無いよ。見ての通り、僕は武闘派じゃないんでね」
そう言うアカツキは両手を挙げ、無抵抗の意思表示をする。
「すまないね、ベル。君に迷惑を掛けちゃったみたいだ。いや、初めから多少なりとも迷惑を掛けるつもりではあったんだけど……兎に角、こんな事になってすまない」
アカツキは心から申し訳なさそうにベルティーユに謝罪する。
一方のベルティーユは「ううん、私の方こそ、力になれなくてごめんなさい!」と健気な返事を返す。
この期に及んで、自分ではなくアカツキの事を気に掛けるとは。
これは、呆れるべきか、それともその心意気を称えるべきか。
「さあ、二人を牢へ!」
私が指示を出すと、部下達はベルティーユとアカツキの連行を開始する。
後には怒号と困惑の会議場が残された。




