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第14話「水面下の戦い」

 馬車でクロガネ王国に急行する事にした私。


 アカツキと別れ、出発の前にダンに顔を見せる事に。


 彼はミン王国の王宮にいると聞いていたので、そちらの方に向かったのだが、


「おう、シロメじゃねえか。何だ、元気そうで何よりだ」


 道中、偶然にもダンと出くわした。


「ダン国王も元気そうで何よりです」


「お陰様でな。お前のおかげで、アイツらも無事に撤退出来たようだし」


 軽い挨拶を交わした後、私はクロガネ王国に赴く旨をダンに伝えた。


「ダン国王はこれからどうするつもりですか? 何か、揉めているって聞きましたけど」


「ああ……ミンの馬鹿野郎は俺達を引き止めたがってるからな。ったく、手前勝手なこった。自分達が次の騎士団の標的になりそうだからって」


 ダンは忌々しそうに顔を歪め、そう吐き捨てた。


「まあ、俺達の事は気にするな。お前はお前でやることがあるんだろ。頑張ってこい」


 ダンにそう言って背中を押される私。


 それから、別れの挨拶を述べ合い、私達はそれぞれの道を行くことに。


 次会う時までに無事だと良いが……まあ、ダンの事だから心配は無いだろう。


 私は馬車でクロガネ王国まで移動した。


 目的地に到着すると、街にはやはりと言うか、張り詰めた空気が漂っていた。


 馬車を乗り換え、王宮に向かう私。


 王宮に着いた後は、私の存在に気が付いた役人の案内を受け、顔馴染みであるペイハイの元まで通された。


「帰ったか、シロメ。まずは、無事で良かった」


 王宮の一室でペイハイは忙しそうに執務に当たっていた。


 疲労がその顔から見て取れる。


 私は挨拶を済ませると、


「こちらの状況はどうですか?」


 早速、現状把握だ。


 クロガネ王国は今どの様な状況なのだろうか。


 街の様子を見るに、戦火がこちらまで及んでいる訳ではないようだが。


「状況、か。そうだな、睨み合いが続いている……と言った所か」


 ペイハイは溜息交じりにそう述べる。


「敵はクロガネ王国及びウオトン王国を臨む形で陣を敷いている。一方の我々は軍勢を戦いの最前線となるウオトン王国に集中させている状況だ。しかし、奇妙なのはあちらが全く攻勢を仕掛けて来ない事。こちらは未だ、支配圏から兵力を集結させ、それが完了していない段階____即ち、あちらからすれば、戦の道理である多で少を叩く好機。それなのに、奴らは微動だにしない」


「……戦いは未だ始まっていないのですか?」


「ああ。こちらとしては、兵を集める猶予が生まれ、有難い限りなのだが……だからこそ、怪しまずにはいられない」


 確かに、クトー王国としてこちらの準備が整う前に攻勢を仕掛けるのが得策である筈。


 それなのに、何も動きがないとは。


 ペイハイが怪しむのも頷ける。


「それはそうと、水面下での戦いの方が激しくてな」


「水面下での戦いですか?」


「ああ、外交と言う名の戦いだ」


 ペイハイはうんざりとした顔で机上の紙束を指差した。


「此度の戦に関して、各国にクロガネ王国陣営での参戦を呼び掛けている所だ。無論、クトー王国もクトー王国で、あちらの陣営に加わるように各国に要請を出しているようだが」


「クロガネ王国とクトー王国で、引き入れ合戦をしてるって事ですか?」


 ペイハイは「そうだ」と頷き、


「我々としてはそもそもクトー王国の相手などしている余裕などない。他国の支援を得られれば、彼らにクトー王国の相手を任せ、すぐにでも騎士団側へと我々の戦力を移動させたい」


「……引き入れは、上手く行きそうですか?」


「さあ、分からない。何分、複雑に事情が絡み合っている訳だからな」


 国ごとに、信条や損得など、様々な思惑があるのだろう事は容易に想像が付く。


「クトー王国も随分とせこい事してきますよね。こっちがヒト族との戦いで大変な時に」


「……全くだ。奴ら、お前がクロガネ王国を発った後、急に押しかけて来たと思えば____」


 と、怒りを露わに私がクロガネ王国を出立した後の出来事に付いて話すペイハイ。


 その話の中で、少し気にかかる単語を耳にしたので、


「『H文書』って何ですか? 何か、以前にもちょくちょく耳にする機会はあったんですけど」


 ペイハイは特に何の説明もなくその言葉を使用していた。


 実は聞き覚えがあったりしたのだが、それがどのようなものなのか私は詳しく知らなかった。


 私の疑問にペイハイは「ああ、丁度ここに」と机の引き出しの中から紙束を取り出し、それを私に手渡す。


「『H文書』の写しだ。かいつまんで説明すると____」


 私が手渡された紙束の中身に目を通している間、ペイハイが簡潔に内容を説明してくれる。


 『H文書』____要するに、”地下水道”の魔族と地上のヒト族との間で交わされた秘密の和平条約のようなものらしい。


 ヒト族と魔族の相互不干渉を原則としており、クトー王国は今回クロガネ王国を攻めるに当たって、『H文書』におけるこの取り決めの反故を大義名分としているようだ。


「____さて、状況把握はこのぐらいで良いだろう。これからの話をするとしようか、シロメ。お前には、是非とも任せなければならない仕事がある」


 居住まいを正すペイハイ。


 仕事……すぐにでも、敵陣に乗り込んで欲しい、とかだろうか?


「先程、水面下での戦いに付いては話したな」


「はい、引き込み合戦の事ですね」


「実は、お前にはとある国に赴き、彼らを我が陣営に引き入れて欲しいのだ」


「……私に、ですか?」


 どうして、私に?


 外交なら素人の私よりも他に適任がいる筈だが。


 私の疑問に答えるように、


「あちらがお前をご指名でな」


 ペイハイは積まれた紙束の中から、器用に一枚の紙片を抜き出し、私に寄越す。


「トリフォリウム王国____サキュバスの国だ」

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