第12話「妹とヴァンパイア」
戦闘による破壊の跡が目立つ街並みを歩く。
”地下水道”に広がる魔族の国、グン王国。
ゴブリンの国だと聞いていたが、意外にもしっかりとした街並みが築かれているのは驚きだ。
まあ、ヒト族の国のそれには劣るが。
さて、ゴブリン達はその総員が撤退を開始したようで、私達騎士団は、既にグン王国を占領したと言っていい。
ただ、油断ならないのは、彼らがあちこちに地雷だの毒だの罠を仕掛けている事だ。
おかげで、私達は罠を解除しながら街を探索する羽目になった。
「あ、アンリエットさん! その先、まだ罠の確認が済んでいないので、進まないで下さい!」
「ん? ああ、そう……分かったわ」
前へ進もうとする私に部下の騎士から注意が飛ぶ。
……この通り、自由に散策が出来ない状態な訳だ。
バツが悪くなって、頭を掻いていると____
「あら、アニェスじゃない」
前方にアニェスの姿を発見する。
ぼうっとした様子でこちらに歩いて来ていた。
確か、シロメを討伐するべく、単騎で敵陣に乗り込んだ筈だが。
アニェスはこちらに気が付いたようで、
「んー……ああ、アンリエットか」
と、アニェスは眠そうな声で返事をしてこちらに手を振る。
私達は立ち止まって向かい合い、
「貴方、シロメの討伐はどうしたの?」
「……んー……ああ、倒して来たよー」
やはり眠そうに答えるアニェス。
余りにもあっさりとした答え方だったので、私は確認するように、
「倒したって……しっかりと、殺して来たのよね?」
「うんうん……殺した殺した……この後ろの剣でバッサリと」
やけに間の抜けた答え方だ。
「アニェス……貴方、寝惚けていない? ねえ、大丈夫かしら?」
若干目くじらを立てたように尋ねると、アニェスは大きな欠伸をして、
「……たくさん死んだから、今すごく眠いんだよ」
「あ、ちょっと!」
突然倒れ掛かって来たアニェスの身体を支える私。
アニェスは兎も角、その背中の大剣の重みに思わず顔をしかめてしまう。
「……寝ちゃった、わね」
抱きかかえたアニェスから寝息が聞こえ始める。
そう言えば、聞いた事がある。ピクシーは死んでもすぐに蘇る種族だが、その死に代償が無い訳ではなく、死んで蘇った後は強制的な眠りの状態に入るらしい。
恐らく、シロメとの戦いで多くの死と蘇生を繰り返したアニェスは、今から長い眠りの期間に入るのであろう。
「誰か、アニェスを本部まで運んでくれないかしら?」
私がそう周囲に声を掛けると、すぐに騎士達が集まり、アニェスの運搬を開始してくれた。
アニェスに大剣の重量が加わり、騎士達は苦心しているようだった。
さて、シロメ討伐完了の報告をするべく、聖日騎士団団長であるベルティーユの元に赴こうとする私だが、
「……あら?」
ふと、アニェスの大剣に大きな違和感を覚え、立ち止まる。
シロメをその大剣でバッサリとやったと口にしたアニェスだが。
「……血が全く付着していない」
アニェスの大剣には血が全く付着していなかった。
シロメを斬り殺したのであれば、少しぐらい血の跡が残っていても良い筈なのだが。
綺麗に拭き取ったのかとも一瞬思ったが、大剣は泥で薄汚れていた。
つまり、アニェスは戦闘後に大剣を清掃した訳ではない。
「本当に……シロメを殺したのかしら?」
そんな疑問がわいて来る。
寝惚けていた様子のアニェス……彼女の言葉をそのまま信じても良いのだろうか。
ベルティーユにどの様に報告すべきか迷い、立ち止まっていると、
「……ん? ……あれは……イライザ?」
視界に妹の姿を捉える。
イライザはまだ罠の解除の確認がなされていない方へ、しかも、小さな通路の方へとささっと消えて行ってしまった。
まるで人目を忍んでいるような様子のイライザ。
怪しく思い、私はその後を追い掛ける事に。
「……何処へ行く気かしら?」
イライザは街の外側へと移動しているようだった。
自陣とは反対側へと赴くイライザに、私は彼女が魔族と繋がっているのではないかと言う以前の疑念を再燃させてしまう。
イライザが魔族と?
……そんな……まさか、ね。
緊張のままに、イライザの追跡を続ける。
そして、街の外へと抜け出した彼女は____
「私よ、イライザよ」
大きな岩へと呼び掛けるイライザ。
すると、岩陰から人影が一つ現れた。
「毎度ご足労感謝致します、イライザさん」
出て来たのは長身の男性だった。
整った身なりに、紳士的な態度と口調。
この”地下水道”において、余りに異質な存在だ。
……彼は、何者だろうか?
私の疑問を余所に、何やら話し合いを始めるイライザと男性。
声を抑えて会話をしているためか、その内容が上手く聞き取れない。
こちらの存在を悟られないように、出来るだけ二人に近付いて、何を話しているのか聞き取ろうとする私。
だが、かなり小声で話し合っているため、断片的にしか内容を拾えなかった。
「クロガネ王国の軍勢はそのほぼ全てがこちら側に集結しています」
「あら、そう。なら、そのまま彼らをそちら側に引き付けておいて頂けます?」
「ええ、ですので、騎士団はその間に進撃を」
何やら、今回の戦について協議をしている様子。
やがて、話し合いを終えた二人は解散し、元来た道を引き返し始める。
私はさっと物陰に隠れて、イライザをやり過ごし、男性の後を追い掛ける事にした。
ただの紳士にしか見えない男性……だからこそ、怪しい。
人間と同じ見た目をしているが____
「……ヴァンパイア!」
その正体に気が付く私。
遠ざかる男性の背中から突如、コウモリの翼が出現したのだ。
間違いない。
男性の正体はヴァンパイアだったのだ。
そう言えば、先程の会話の節々にクトー王国と言う単語が耳に入って来ていたが。
恐らく、彼はクトー王国の者だ。
私の驚きを余所に、彼方へと飛び去ってしまうヴァンパイア。
「……どうして、イライザがヴァンパイアと」
目的は分からない。
だが、一つはっきりとしたことがある。
それは、イライザがヴァンパイアと____魔族と繋がっていると言う事。
「……イライザ」
思わず頭を抱えて、その場に立ち尽くしてしまう。
まさか、本当に妹が魔族と繋がっていただなんて。
「……うーん……どうしたものかしら」
こういう時、姉としてどう行動するのが正解なのだろうか。
取り敢えず上に報告するべきか、それとも隠しておくべきか?
イライザに問い詰めるべきだろうか?
「……一旦、保留と言う事にしようかしら」
まだ、分かっていない事が多すぎる。
ここは判断材料が出揃うまで、待つとしようではないか。
そう私は決断する。




