第7話「死体の平原」
「……これで最後ッ!」
ダガーから黒い閃光を放ち、人形の騎士を粉々にする。
30体目____今ので、ポレット達が残したロボットは最後だった。
息を整えながら、周囲にまだ敵がいないか警戒する。
そして、安全を確認すると、ダガーを懐に仕舞い込み、後ろを振り返った。
「ダン国王、無事ですか」
「ああ、お陰様でな」
ダンは私の隣まで歩み寄り、
「随分とお疲れの様子だな」
「ええ、それはもう……戦い慣れない相手だったので」
「まあ、何はともあれ、ご苦労様だぜ」
労いの言葉を受け、私はキャンプ地の方角を見つめる。
しばらく、私とダンの間で沈黙が続き、
「……皆、無事ですかね?」
「さあ……行って、確かめてみねえとな」
そのダンの言葉からは、若干の恐れの様なものが感じられた。
状況を確認するのが怖いのだろう。
爆撃を受けたキャンプ地。
まるで天変地異の様な襲撃だった。
恐らく、仲間のゴブリン達には大きな被害が出ている。
生き残ってくれていると良いが……。
あまり、希望は抱かない方が良いだろう。
「よし、行くぞ」
己を鼓舞するようにそう口にし、ダンがキャンプ地の方へと歩き出す。
私は黙ってその後ろに付いていくことにした。
歩き、キャンプ地に近付くごとに、壊滅的な光景が広がり始める。
爆撃の影響で地形が変化し、そこら中にクレーターが見受けられた。
そして、帰還を果たした私とダンは____
「……こりゃひでえなあ」
凄惨な景色を目の当たりにする。
テントはそのことごとくが吹き飛び、残骸が周囲に散らばっていた。
そして、焼け焦げたゴブリンと肉片となって飛び散ったゴブリンが、死体の平原の形成している。
醜悪な血と内臓の臭いで、思わず私は顔をしかめてしまった。
「……何だ、これ」
さらに歩みを続けると、無傷ではあるものの口から泡を吹いて息絶えるゴブリン達が視界に現れ始める。
まるで陸に打ち上げられた魚のような悲愴な死にざまだ。
この異様な死に方は……。
「毒だな。おい、シロメ、布か何かで口元を覆え」
ダンが冷静に忠告する。
毒……そう言えば、ポレットが”爆発と同時に周囲に猛毒を振りまく極悪な代物”と口にしていた気がする。
目の前のゴブリン達は爆発そのものからは免れられたものの毒により命を奪われたようだ。
持ち合わせていたハンカチで口元を覆う事にした私。
途切れる事のないゴブリンの死体の光景に、私の中で不安と絶望が強くなる。
それなりの期間を共に過ごして、グン王国のゴブリン達の中には顔馴染みがたくさん出来ていた。
良い奴ら……では決してなかったが、一緒に馬鹿騒ぎをした事もあったし、お世話になった事もあった。
彼らの内の何名かも、爆撃で息絶えている事だろう。
いや……この様子だと全滅している可能性だってある。
「……」
嫌な感覚だ。
知り合いが、仲間がいなくなっていくと言うのは、何度味わっても耐え難い。
一応、これでも慣れて来た方だとは思うのだが。
「……生き残り……いなさそうだなあ……」
ぽつりとダンがそう口にする。
この光景を前にすれば、そう考えるのが妥当だろう。
恐らく生存者はいない____かと、思われたが、
「……ん」
死体の群れを抜け、半ば惰性のままに歩いていた私とダンは前方に光を発見する。
それは洞穴から漏れる小さな焚火による灯り。
私ははっとなって思わず駆け出す。
「あ、おい、シロメ、急に走り出すなよ!」
ダンが急いで私に続く。
二人して洞穴内に足を踏み入れ、光に導かれるままに前へと進む私達。
やがて、そこそこに広い空間に出た私達は焚火のさらに奥の岩陰に隠れるゴブリンの一団を発見する。
グン王国のゴブリン達____生存者の姿がそこにあった。
「おう、お前ら生きてたのか!」
後ろからダンの弾んだ声が飛んでくる。
その嬉し気な声に応じるように、一匹のゴブリンが前に進み出て、
「ダン国王! それに、シロメの姐さん! いやあ、本当にびっくりしましたよ! 突然爆弾が頭から降って来て! 急いでこの場所に逃げ込んだんです! 本当に凄い爆発で! しかも、何かヤバいガスが辺りに噴き出すし! みんな、それで死んじゃって!」
わなわなと震えながら、迫真の表情で説明する。
私も見知っている顔のゴブリンだった。
私は前のめりになり、焦るような口調で、
「他の皆は? どれくらい生き残ってる?」
「ここにいるのは50ほどで……後は分からないです」
「……50……そう……なんだ」
ゴブリンの背後を見渡す。
およそ50匹のゴブリンがそこでたむろしていた。
そして、恐らくだが……キャンプ地の生き残りはこれで全てだろう。
未だ最前線で騎士団と戦っている者達を除けば、全滅したと見なして良い。
私は生存者達に近付き、その顔を一つ一つ確認して行く。
知っている顔が幾つか見当たらない。
と言うか、見当たらない顔の方が多い。
最前線で戦っていると言う可能性もあるが……爆撃で命を落としたと考えるべきか。
しばらく悼むような沈黙が続き、やがてダンが咳払いをしてゴブリン達の注目を集めるように両手を打ち合わせた。
「お前ら取り敢えずは良く生き残った! だが、おちおちしてられねえ! ここが奴らにバレている以上、早く次の行動を決めねえとな!」
ダンがゴブリン達に向けて語り掛ける。
「キャンプ地があの状態だ。食糧もねえし、水もクソッたれな毒の所為で飲むのは危険。ここにとどまっている理由は無え! となると____」
と、その時だ。
不意に背後から足音が聞こえて来た。
やけに荒々しい1人分の足音。
皆の視線が一斉に一点に集中する。
……敵だろうか?
思わず身構える私だが、足音の主が何者かに気が付き、
「……ガン!」
その名前を叫ぶ。
私が目にしたのは、必死の形相でこちらに走り寄るゴブリンの姿だった
ガン____毒矢を食らわされたり、初仕事を共にしたり、酒の楽しみを教え込まれたり……”地下水道”に来た当初から何かと縁のあるゴブリンだ。
彼が生きている姿を目の当たりにし、思わず笑みがこぼれる。
「良かった! みんなここにいたのか! あ、国王も! シロメもいるじゃねえか!」
息を切らしながら私達の元に辿り着いたガンは、
「ダン国王、丁度良かったです! ただいま、クロガネ王国からの文書を届けに参りました!」
「クロガネ王国から? ……ああ、そう言えば、緊急の通信使としてお前を使いに出していたっけ」
そう言えばと思い出すようにダンは言う。
「で、やけに必死な様子だが、クロガネ王国からは何て」
「……それが」
ガンは自身の主に暗い表情で封筒を手渡す。
ダンは無言で封筒を受け取り、中から紙を取り出してその内容を読み出し始めた。
ガンの表情、そしてダンの文書を読み進めていく様子から、あまり良い報せではなさそうだが。
文書を読み終えたダンは小さな溜息を吐いた。
「……まあ、今更か」
そんな呟きを漏らした後、
「お前ら、クロガネ王国からの連絡だ! 結論から先に言わせて貰うと____クロガネ王国は援軍を出せない状態にある!」
そんな絶望的な報せを伝える。




