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第6話「ポレットとマノン」

 暗い岩肌の天井を見上げる。


 もう何日も太陽を見ていない……と、そんなネガティブな気持ちになってしまう。


 普段あまり気にする事は無いが、ヒト族にとって、やはり太陽はとても掛け替えのない存在のようだ。


 ”地下水道”で戦争が始まってから、ずっと日の光も浴びずに魔族と戦ってきたが、ようやく魔族の国の一つ____グン王国と言うらしい____を攻略しつつある。


 そして今、私は野外に作られた簡易会議場で騎士団の重鎮達と肩を並べ、今後の方針について話し合いをしていた。


 今次戦争において、私は参謀の役職を与えられた一人であった。


 戦いの最前線で指揮を執るのではなく、後方から戦い全体を見渡し、軍全体に指示を出す役目を担っている訳だ。


 私は自分自身で戦うのも、最前線で指揮を執るのも得意だが、最後方から組織全体の方針を決める方が性分的に合っているので、この割り振りにはとても満足している。


「さて、既にグン王国は我々の手中に落ちたと言っても過言ではないが、残念ながら戦いはまだ終わりではない」


 今次戦争における将軍の任を与えられた聖日騎士団団長ベルティーユ主導のもと、作戦会議は進んで行く。


「尋問したゴブリン達の話を総括すると、遭難者達は周辺国に散り散りに囚われているらしい。即ち、この戦いは周辺国一帯の完全制圧をもって、その目的が果たされると考えるべきである」


 ベルティーユは堅苦しい口調で説明を続ける。


 そもそもの話、今回の戦いにおけるリリウミア側の目的は遭難者達の救助にある。


 当初の想定では、沿岸地域の何処か一か所に全遭難者達が囚われているとの事だったが……蓋を開けてみれば、救助対象は”地下水道”中に散らばっている事が明らかになった。


 これにより、騎士団は”地下水道”をより奥へと、そして広域へと進まなければならなくなる。


 魔族の国を1つか2つ落とせば、目的は果たされると高をくくっていた騎士団だが、見通しが甘かったようだ。


 戦争は当初の予定以上に大きくなるだろう。


「……イストワールの奴が言っていたようになったわね」


 と、思わずそんな呟きが漏れる。


「ん? どうした、アンリエット。まだ私の話の途中だが、何か意見でも」


「いえ、失礼しました。独り言です」


「……そうか……まあ、良い」


 独り言のせいでベルティーユに咎められる様な視線を与えられる。


 その後、すぐにベルティーユは何事も無かったかのように話を再開したが。


「……」


「……何よ、イライザ」


 ふと、真横に視線を遣ると、イライザと目が合った。


 妹は「ふふっ」とからかう様な笑みを私に寄越し、艶めかしいウインクをして見せる。


 そして、「私語は慎まないとね、お姉様」と口パクで伝えて来た。


「……うるさいわよ、イライザ」


 と、妹を睨む。


 イライザもまた参謀の役職を与えられた一人だった。


 騎士団内における地位的に、本来は参謀を任される程の立場では無いのだが____妙な事にイストワールの推薦を受け、参謀を任される事になったらしい。


 よりによって、イストワールの推薦を受けて、だ。


 イライザは姉妹である私から見ても底が知れないと言うか、謎めいている人物だが……イストワールとの間に何やら繋がりがある事は晴天の霹靂であった。


「我々はグン王国の占領が完了し次第、次なる魔族の国の攻略へと進軍する」


 ベルティーユはそう宣言して、立て板に張り付けられた巨大地図を叩く。


 この周辺の地理が記載された代物だ。


「グン王国の近隣には魔族の国がいくつか存在する訳だが、次の攻略目標について皆の意見が聞きたい」


 ベルティーユのその言葉で、いくつもの意見が出席者達の間から飛び出る。


「ミン王国の攻略が無難だと思われますが」

「いや、まずは沿岸地域から魔族を掃討する必要があると。となれば、ムン王国を攻略するべきだ」

「ここからムン王国まではかなり距離がある。近場の攻略を優先するべきだ」

「迅速な進軍も良いが、少しだけ物資の補給を待った方が良い。人工太陽ヘリオスも後1度しか使用できない状態だ」


 そんな意見の中____


「まずは残党狩りだよ!」


 それは簡易会議場の後方からはつらつと響いて来た声だった。


 皆の視線が一斉に背後に向く。


 そこに居たのは、大剣を背負ったアニェスだった。


「グン王国の魔族は狩り尽くしておかないとね!」


 そう言って、ずんずんと簡易会議場を前の方へと進むアニェス。


 アニェスは”剣聖”で特別な存在と言っても過言ではないが、地位的には平の騎士に過ぎない。


 今回の話し合いにも召集を受けてはいなかった。


 なので、彼女の登場に出席者達からはその行動をたしなめる声が聞こえてくる。


「アニェス、君を会議に呼んだ覚えは____」


「私の勘では!」


 ベルティーユの言葉など無視して、アニェスは地図の一点を指差す。


「グン王国の魔族達はここに逃げ込んでいる!」


 アニェスが指差したのは、グン王国から伸びる細道の先に存在する丘陵地帯だった。


「もしも、だよ。ここに存在している残党を無視して進軍するなら、私達は敵に横腹を突かれる形になる。それはとても不味い事だよね。ただでさえ、こっちは慣れない土地なんだから、側面から敵の攻勢を受けるとなると、もう軍全体がパニック状態になっちゃうよ!」


 ばしばしと地図を叩いてアニェスは力説した。


 その言葉に騎士団の重鎮達は顔を見合わせる。


「確かに、残党を放置するのは良くないな」

「あの位置に敵軍を残すとなると、こちらの補給線を潰されかねない」

「ゲリラ戦なんて展開されたら、被害は甚大になる」


 出席者達からはアニェスの意見に賛同するような声が上がって来る。


 そんな中、ベルティーユはこめかみを押さえ、


「その場所に残党が存在していると言うのは、君の勘に過ぎないんだろう」


 そもそもの話を持ち出す。


「最前線からの情報によれば、グン王国の魔族達はミン王国の方面へ逃亡しているとの事だ。”地下水道”の魔族達は一つの宗主国が複数の属国をまとめ、巨大な支配圏を築く様な体制を取っている。グン王国の場合も同様で、クロガネ王国の支配のもと、ミン王国とは属国同士の同盟関係にあり、国を放棄する折には合流する事になっているのだろう。つまり、君の言う場所に残党が集結している可能性は低い」


 ベルティーユはアニェスにやや強めの口調でそう告げる。


 しかし、アニェスは引き下がらず、


「団長、それは理屈上の話に過ぎないよね」


「……何だと」


「私の勘はこの場所に残党が居る事を告げているんだ! だから、きっとこの場所に残党は存在しているよ!」


「そんな場所に無意味に進軍すれば、逆に危険だ」


「でも、私の勘だよ? ちゃんと聞いた方が良いと思うな!」


 自信満々にアニェスは言い返す。


 その度胸のあり過ぎる言葉と態度に会議場は騒然となり、ベルティーユは今にも怒鳴り散らしそうに身体を震わせ始める。


「ならば、斥候を我が聖月騎士団から出しましょう」


 騒然となる会議場で、静かに挙手をしてそう提言するのは、聖月騎士団副団長で”英雄”のザビーネだった。


「アニェスが指定した場所に斥候を送り込み、彼女の言葉の真偽を確かめるのです」


「ザビーネ……いや、しかし、斥候は……」


 ザビーネの提言にベルティーユは難色を示す。


 騎士団は今次戦争による犠牲者を限りなくゼロに近付ける事を基本方針としている。


 斥候のような少人数による偵察は、その当人達に危険が及ぶ可能性が高いとして、今回の戦いではその運用が避けられていた。


 敵情を探る場合でも大人数で行動する徹底ぶりだ。


「大丈夫です。実は我が聖月騎士団に丁度良い人材がいまして」


「丁度良い人材、と言うと?」


「ポレットとマノンをご存知ですか?」


 ザビーネが口にした名前にベルティーユは「ああ」と頷き、


「遠征から帰還したばかりの例の問題児2人組だな。物資の運搬が限られる中で、何やら大量の魔道具を持ち込んでくれた」


 やや苦い顔をするベルティーユ。


 ポレットとマノンは共に聖月騎士団の騎士で、今回の戦いが始まるまでは遠征任務に就いていた2人組だ。


 遠征組であり、聖日騎士団所属の私とは別組織の者達と言う事で、ほとんど面識もなかったのだが、彼女達の噂は時々耳にしていた。


 ポレットはハーフドワーフで、魔道具を開発する事に長けた騎士だ。


 魔道具開発の中でも彼女の専門は大量破壊兵器で、そのほとんどが非人道的なものであるとして問題視されていた。


 ポレットの開発した魔道具は扱いが難しく、マノンはそんな彼女の問題作を自在に操る事が出来る貴重な存在だった。


 国際条約に抵触するような兵器を躊躇いもなく使用する2人組なので、騎士団にとって重要な戦力である一方、問題児ペアとしても認識されていた。


 特にポレットの方は勝手気ままな素行の持ち主なので、上はかなり手を焼いているようだ。


 今回の戦いでも、ポレットは勝手に大量の自作魔道具を持ち込んで騎士団の荷物を圧迫し、騎士団上層部に苦い顔をさせたと聞く。


「彼女達、高汎用性自律型ロボットなるものを大量に持ち込んだようで、斥候を任せるには丁度良いかと思われます」


「……こ、こうはんよう? ああ、確か、人型のロボット……だったかな……」


「ええ、あの2人組なら安全に斥候をこなせるかと」


 ベルティーユはしばし腕を組んで黙考した後、


「分かった。ザビーネの言う通り、斥候を例の2人組に任せてみよう。すまないが、今すぐ彼女達を呼び出すことは可能か?」


 ザビーネ「はい」と頷き、離席する。


 しばらくすると、問題の2人組を引き連れて戻って来た。


「どうも皆様、聖月騎士団所属騎士ポレットです! いやはや、我々をご指名とはお目が高い! 必ずや完璧に斥候をこなして見せますよ! あ、こっちは相棒のマノンです」


 皆の前に姿を現した途端、はつらつと自己紹介をするポレット。


「詳しいお話は既に道すがらザビーネ伯母様から窺っています。残党の所在を確認されたいとか。そこで、提案なのですが、我々には斥候のみならず、残党の殲滅をもお任せ頂きたいのです! この機会に試したい兵器が幾つか御座いまして! そうですね、まずは____」


 聞いてもいないのに、ポレットは自作魔道具の説明を始める。


 ザビーネが制止するような素振りを見せるが、それでもポレットは止まらない。


 まくし立てるように話を続けるので、誰もポレットを遮る事が出来なかった。


 私はポレットの長話をぼうっと聞きながら、そういえば彼女がザビーネの事を”伯母様”と呼んだ事に気が付く。


 ハーフエルフのザビーネとハーフドワーフのポレット。


 確か、二人は血縁関係にあると聞いた事がある。


 そして、珍しい事に、ポレットは犬猿の仲とされるドワーフとエルフのハーフなのだ。


 ハーフドワーフと言えば、大抵はドワーフと人間のハーフなのだが。


 そう考えると、その生い立ちから色々と苦労も……ありそうでなさそうなのがポレットだった。


「……話、長いわね」


 未だ長々と話を続けるポレット。


 さすがにうんざりして来た。


 彼女の話はいつ終わるのだろうか。

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