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第5話「キャンプ地への襲撃」

「ダン国王!」


 急いでキャンプ地に戻り、ダンが居座るテントに転がり込む。


 ダンは驚いた様子で私の顔を見つめ、


「ん? どうしたんだ、シロメ? 戦いに行ったんじゃないのか?」


「ええ……まあ、そうなんですけど……!」


 私は一旦息を整えてから、


「リリウミアの騎士達がこっちに向かって来ています! 少なくとも50人はいました!」


 私の放った言葉に、ダンは目を丸くしてから、渋い表情を作った。


「騎士達がこのキャンプ地に……おいおい、マジかよ……」


 ダンは溜息を吐いてから立ち上がり、早足でテント内から出る。


 私はその後姿を追い掛ける事にした。


「どうする気ですか?」


「取り敢えず、ゴブリン共には注意喚起を飛ばす。後は……そうだな……」


 ダンはイライラとした様子で頭を掻いていた。


「あー、くそっ……分からねえ……奴ら、俺達がここいる事を知っているのか……それとも、たまたま偵察でこっちに来ているのか。もし後者だとしたら、迎え撃たずに大人しく隠れているのがベストだが」


 ダンはそれから配下のゴブリン達を集め、状況を手短に伝えた。


「お前ら、取り敢えず大人しくしていろよ。それと、逃げ出せる準備だけはしておけ。後は各々の判断でどうにかしろ」


 ダンの言葉を受け、不安気な表情のゴブリン達は散り散りになる。


 私はダンと二人きりになり、


「私はどうすれば良いですか?」


 腕を組み、困ったように俯くダンに尋ねる。


 ダンは顔を上げ、


「そうだな……取り敢えずは、お前も大人しくしておいてくれ。下手に奴らに手を出して、俺達がこっちに居る事を悟られたくない」


「いや、でも」


 私は周りを見回し、周囲に散らばるテントや雑多な生活用品を指差す。


 一帯には人の存在を示す痕跡が残っていた。


「騎士達がこの場所を通過すれば、ここに私達が居る事はバレると思いますけど」


「……まあ、そこは微妙な所だよな。テントの数は疎らだし、はぐれ魔族共が野営しているだけだと判断される場合もあると思うが……お前の言う通り____」


 やはり悩まし気に唸るダン。


「……よし、なら一丁、俺様自ら奴らの偵察に赴くとするか! 百聞は一見に如かず! 護衛よろしく頼むぜ、シロメ」


「え、あ……はい!」


 ダンはそう言うと足早に移動を開始する。


「ダン国王って意外と活動的ですよね」


「ん? そうか?」


「ええ、最前線で積極的に指揮を執ったり、自ら偵察に出掛けたり」


 正直、普段は怠けている印象の方が強かったので、意外な一面だと思ってしまった。


「俺は動く時は動くし、動かない時は動かない。要するに気分屋なんだよ」


 肩をすくめてダンはそう語る。


 しばらく歩き、やがて、グン王国へと伸びる細道の入口に差し掛かろうとした所で、


「!?」


 突如、頭上を無数の飛来物が翔けて行った。


「……な、なんだ!?」


 狼狽えるダン。


 私も突然のその光景に、腰を落として身構えていた。


 飛来物……あれは一体なんだ?


 黒くて、丸くて、無機質で、手の平サイズのもの。


 それらが、ずっと遠方へと____キャンプ地の方へと飛翔して行った。


 刹那、閃光が”地下水道”の薄闇を払う。


 そして、次の瞬間には、キャンプ地の方から無数の轟音がこちらに響いて来た。


「!? ……爆撃、だと」


 キャンプ地の方を振り返り、そう呟くダン。


 先の飛来物の群れ____その正体は無数の爆弾。


 そして、今しがた、キャンプ地への空爆が行われたようだ。


 多くのゴブリン達が身を潜めている場所に。


「……」


 轟音が止み、しばし、呆然と空爆が行われたキャンプ地の方角を眺めていた私とダン。


 次に頭上を翔け抜けて行ったのは、


「いやはや、私の爆弾は大した威力だろう、マノン! こっちにまで爆発音が響いて来る!」


 それは快活な女性の声だった。


 私ははっと声の方に向き直る。


 そこには、小柄な体形の、それこそ、人形かと見間違えるほどに小さな騎士が、小高い丘の上から、双眼鏡でキャンプ地の方角を観察していた。


 あそこまで極端な体形……恐らく、種族はドワーフであろうか。青いラインの入ったその制服から、聖月騎士団の騎士である事は分かる。


「しかも、爆発と同時に周囲に猛毒を振りまく極悪な代物さ! ヒト族同士の戦争じゃ使用が禁じられている化学兵器! だが、魔族相手ならば、容赦なく使える! いやあ、実に良い機会を得られた! 今回の戦、まだまだ色々な兵器が試せると思うとワクワクするよ! 君もそうだろう、マノン!」


 小さな騎士はその背後の何者かに呼び掛けているようだった。


 口調が弾んでいて、恐ろしいくらい楽しそうな様子で。


「あまりはしゃがないの、ポレット。周囲に敵がいるかも知れないでしょう」


 そんな小さな騎士の後ろから、まるで幽霊のようにもう一人、騎士が現れた。


 制服から同じ聖月騎士団の騎士なのだと分かる。


 そして、名前はマノンと言うのだろう。


 背が高くて、身体は全体的に細く感じる。


「ははっ、敵の一匹や二匹、何も問題ないさ! それよりも、やはり君は素晴らしいよ、マノン! 君はいつも、私の作った兵器を十二分に使いこなしてくれる! しかも、あの数を同時に、だ! 私の発明品は君の持つ膨大な魔力と魔力制御能力があってこそ、その真価を発揮するのだ!」


「褒めてくれるのは嬉しいけど、取り敢えず静かにして頂戴、ポレット。ここには例の半魔(ハーフ)がいるかも____」


 と、次の瞬間、私とマノンの視線がぶつかり合う。


 マノンは目をぱちくりとさせ____


「え……女の子? あ、いや……! ポレット、見て!」


「ん、どうかしたのかい、マノン?」


「ほら、あそこ! あの娘……アレって!」


 小さな騎士____ポレットの肩を叩きながら、私を指差すマノン。


 ポレットは双眼鏡をこちらに向け、


「ほうほう! ”オオカミの話をすると、その尻尾を見る”とはよく言ったものだね! もしかしなくても、アレが例のハーフインキュバスなようだね!」


 はしゃぐようにポレットはそう口にする。


「やあやあ、お初にお目に掛る! 私の名前はポレット! 種族はハーフドワーフで聖月騎士団の騎士をしている者さ! こっちは相棒のマノン!」


 突然、ポレットが親し気に自己紹介を始めたので、私は面食らってしまう。


「折角の機会だけど、我々は早々に退散させて貰うとするよ。君を見掛け次第、深追いはせずに、撤退する段取りになっているものでね。では、さらば!」


「あ……待て!」


 こちらに手を振り、すぐさま背中を見せるポレット。


 マノンもそれに続こうとする。


 ここで彼女達を見逃すのはあまり良い事では無いだろう。


 私がここに居ると言う情報を敵方に与えてしまう。


 それに、あれだけ派手に空爆をされて、報復も無しに黙って返す気は無い。


 私は二人に手を伸ばし____


「”止まれ”!」


 ”支配”の能力を発動させる。


 インキュバス紋が二人を包囲し、私の言葉通り、その動きを停止させた。


「きゃ!?」

「うわっ! 何だ、これは!?」


 驚きの声を発し、その場で硬直する二人組。


「おいおい、一体全体私達に何をしたんだい、シロメ! 身体が全く動かないぞ!」


 私に背を向けた状態のまま、ポレットが呼び掛けて来る。


「お前達を生きて返す気は無い。ここで死んで貰う!」


 ダガーを二人に突き付け、そう宣言する私。


 対するポレットは、


「ははっ! それは御免被りたい! 私はこんな所で死ぬつもりは毛頭ないんでね!」


 快活に余裕の言葉を述べる。


 その言葉に続き、いくつもの影が目の前に現れた。


 影の一つがこちらに疾駆する____その正体は聖月騎士団の騎士だった。


 騎士の剣が私に迫る。


 随分と素早い動きだが、私ならば余裕で対処が可能だ。


「ッ!!」


 剣を躱し、反撃のダガーを放つ。


 刃が急所である騎士の首を捉えたが……感触が変だ。


 ダガーを通して私の手に伝わって来たのは、筋肉や血管ではなく樹脂の感触だった。


「え……人形!?」


 私は騎士の正体に気が付き、驚きの声を発する。


 随分と精巧な作りだったので初見では分からなかったが、その正体は人形だった。


「くっ!?」


 首を斬りつけられた人形の騎士は、それで事切れる事はなく、再度私に剣を振るう。


「だあっ!!!!」


 しかし、騎士の剣が私に届くより先に、私はその腹部に渾身の蹴りを放ち、騎士の身体を彼方へと吹き飛ばす。


 人形の騎士は派手に地面を転がり、最終的に身体がバラバラとなり動かなくなった。


「やるねえ、シロメ! いやあ、本当ならデータを取るため、じっくりと戦闘を観察しておきたいんだけど、それは叶わないようだ! では、改めて____さらばだ、シロメ!」


 気が付くと、ポレットとマノンはそれぞれが騎士に身体を担がれて、既に元居た場所からは遠ざかっていた。


 さらに私と彼女達との間に割って入るように数人の騎士達が眼前で陣取る。


 目を凝らして観察すると、それらは全て先程の騎士と同様、生身の人ではなく、人形だった。


「……全部人形か」


「驚いたかい? 私の開発した高汎用性自律型ロボットさ! 中々の自信作でねえ! 今度、性能について感想を聞かせておくれよ!」


 嬉々として説明するポレットの声が、こちらまで響いて来る。


 高汎用性自律型ロボット?


 良く分からないが……まあ、人形なのだろう。


「下がっていて下さい、ダン国王」


 ダンに忠告し、私は人形の騎士達と相対する。


 人形と言えど、決して侮る事は出来ないだろう。


 その戦闘能力は手練れの騎士程はある。


「……くそっ」


 思わず悪態を吐いてしまう。


 ……ポレットとマノンに関しては諦めるより他ないようだ。


 人形の騎士達を相手に負けるつもりはないが、全て倒し終わる頃には、ポレットとマノンは追い付けられない程遠くまで逃げ果せている筈だ。

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