第31話「力を示す」
舞台は完成した。
地上の世界をヒト族から取り戻すと言う夢を掲げ、共鳴した二人。
そして、私の資格を問う熱い戦いが始まる。
全て、私の筋書き通りだ。
ただし、筋書き通りと言っても、困難が無い訳では無い。
ここからは口先が通じない。
ヘイロンとの純粋な力のぶつかり合いになる。
ヘイロンは強く、しかも、厄介な事に私はこの戦いで彼を死なせてはならない。
加減が出来ない相手に、加減をして戦えという無理難題。
だから、ここまで上手く行ったからと言って、安堵などしていられない。
「行くぞッ!!」
ヘイロンが赤い光を全身に纏い、叫ぶ。
”剛鬼”の能力を発動したのだ。
その威圧感に、肌がひりつく。
「行きますッ!!」
応じるように叫び、私は駆けた。
身体が熱を帯びているのが分かる。
場の雰囲気に当てられたのはヘイロンや観衆達だけではない。私も同じようだ。
私の中で滾る様な戦意が燃えている。
だが、思考はあくまで冷静に。まるで、身体の武者震いを抑え込むかのように、重く研ぎ澄まされていく。
「「はあッ!!」」
ほぼ同時に、私とヘイロンの両者から刃が繰り出された。
私のダガーとヘイロンの砕かれてリーチが短くなった大剣。
切っ先同士がぶつかる瞬間に、私は身体を捻るのと同時にダガーの軌道を急変させる。
空を切るヘイロンの大剣。
一方の私は地面のすれすれまで姿勢を低くして、ダガーでヘイロンの足首を刺しに行った。
「甘いッ!!」
「!?」
だが、ヘイロンの反応は予想以上に早かった。
こちらの狙いを知るや、私が刺しに行った足を振り上げ、鋭い蹴りを放ってくる。
「ぐうっ!?」
ヘイロンの蹴り上げを躱した私だが、彼の攻撃は止まらない。
私が体勢を整える前に、金棒を打ち付けてくる。
土煙が舞う。
間一髪、回避する私。
「まだまだッ! 行くぞ!!」
休む暇などない。
次々と繰り出される、出鱈目の様で正確なヘイロンの攻撃。
私はそれを躱して、躱して、躱して____躱す事しか出来なかった。
”剛鬼”の能力により疲れ知らずなヘイロン。
体力と集中力の限界はこちらが先に来た。
「がはっ!?」
飛び散る鮮血。
ヘイロンの大剣が私に命中した。
斬られたのは胸下部。
刃の入りは深くないので、致命傷には至っていない……が、重い斬撃により、私は地面に押し倒された。
ヘイロンはそんな私に追撃を放とうとしている。
激しい気迫を伴ったオーガの顔が迫る。
彼は本気で私を殺すつもりでいるようだ。手加減は無い。
一緒に地上をと誓い合うような一幕が先程あったが、それはあくまでも私に力があったらならばの話。
ヘイロンの中では、本気で戦って、それで私が死ねばそれまでと言う認識なのだろう。
……立ち上がれ、私!
立って、戦え!!
「はあッ!!」
気合一つ____私はヘイロンに立ち向かう。
ヘイロンは私を粉砕するべく金棒を振り下ろしている途中だった。
迫り来る鉄塊に己のダガーを合わせに行く私。
ダガーと金棒がぶつかる。
火花が散るのと同時に、ダガーを握る手に衝撃が伝わり、身体がよろめく。
ヘイロンは息を入れず大剣の横薙ぎを放つ所だった。
すぐに態勢が立て直せない。
このままでは、斬られる。
____だが、させない!
私は【透明化】のスキルを発動させ、自身の姿を消す。
それと同時に【幻影の剣】のスキルを発動させ、ヘイロンの背後に剣を出現させた。
「なっ!?」
突然消えた私の姿と背後の剣の出現に驚いたヘイロンが、後ろに振り向く。
【透明化】と【幻影の剣】____私の隠し手により、ヘイロンに隙が生まれる。
私に態勢を整え次撃を放つ時間が与えられた。
「小癪なッ!」
だが、ヘイロンの切り替えも早かった。
すぐにこちらに向き直り、斬撃を繰り出そうとする。
「黒耀白牙よッ!!」
ダガーの名を叫び、私はその切っ先をヘイロンの肩口へと向ける。
……貰った!
黒い光が鋭い切っ先から放たれ____
「!?」
しかし、驚異的な反射神経で回避行動を取るヘイロンに私は目を見開く。
黒い閃光がヘイロンの頬を掠った。
ただ、掠っただけだ。
直撃はしていない。
「ぐっ!?」
そして、次の瞬間にはヘイロンの刃がこちらの肩口を逆に抉っていた。
衝撃と痛みで私はダガーを手放してしまう。
この速度……およそ生物とは思えない程だ。
やはり、魔王か。
その一撃で、私はヘイロンが格上の存在である事を否応なく自覚させられる。
だが____
「まだだッ!」
格上の相手である事は闘う前から理解している。
サルスベリの時もそうだった。
敵の実力が自身のそれを上回っている事は承知の上だった。
だが、強敵が相手でも、活路はある。
理不尽な試練を幾度も生き延びて来た私には分かる。
世界に、運命に、屈した時が真の敗北。
そして、知恵と気力と体力の全てを投げ打つ事で、絶望は切り開ける。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
叫び、それから歯を食いしばる。
今の一撃で右腕が動かなくなった。
だが、問題ない。
左腕はまだ動く。
だから、私は宙に浮き、地面に落ちかけているダガーを左手で掴んだ。
ヘイロンの目には驚愕の色が浮かぶ。
恐らく、今の負傷で私の戦意を砕けたと思い込んでいたのだろう。
「はあッ!!」
ダガーが再び黒い光を放つ。
黒い光は刹那の内に収束し、一筋の光となってヘイロンに迸った。
閃光がヘイロンの肩口に刺さる。
守護鬼がその攻撃を受け止めたが____高濃度の黒い光はその防御を突破し、ヘイロンの身体を貫いた。
「があッ!?」
ヘイロンが苦痛の叫びを上げる。
群衆の中へとヘイロンの身体が吹き飛ばされた。
悲鳴を上げる観衆達。
それに次いで、どよめきがわき、ヘイロンの身を案じる声が上がった。
やがて、静寂が戦場に訪れる。
「……はあ……はあ……」
肩で息をして、棒立ちになる私。
ダガーを握る左手で右の肩口を押さえ、顔をしかめる。
前を見据えると……視線の先で、ゆらりとヘイロンが立ち上がった。
私と同じく右肩を負傷しており、立っているのもやっとと言う様子で意識が朧気だった。
「……どけ」
主の身を案じてか、ヘイロンに群がるオーガ達だが、そんな臣下達を睨み、邪魔くさそうに押し退けながら前に進む魔王。
ヘイロンはゆっくりと私の元へ向かって来ている。
「……」
無言でヘイロンの歩みを見つめる。
視界がぼやけ、歪みかける。
恐らく、後数分で私の意識は途切れる事だろう。
先の短い攻防の中で、私は全てを出し尽くした。
本来なら、もう指一本も動かせない。
……だが、私にはまだすべきことがある。
本当に最後の力を振り絞って____私はダガーを懐に仕舞い、辛うじて動く左手をそっと前へ、ヘイロンへと差し出した。
ヘイロンは差し出された私の手に気が付き、歩みを止め、そしてまた歩き出した。
両者の距離がどんどん縮まっていく。
さあ、ここが最後の一幕だ。
……ヘイロンは応じてくれるだろうか?
「ヘイロン国王よ」
声はガラガラだが、それでも言葉を絞り出し、名前を呼ぶ。
魔王の名を。
ヘイロンは立ち止まり____
「認めよう、お前の力」
やや疲労困憊気味だが、がっしりと私の手を握り返した。




