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第28話「決闘の申し込み」

「決闘、だと?」


 私の言葉に目を丸くするペイハイ。


「はい、貴方達の王に私は決闘を申し込みます」


 重ねて告げると、オーガ達の間でどよめきが起きた。


 ペイハイはしばらく呆然としていたが、


「受け入れられない。お前はここで俺達が始末する」


 私の要求を跳ね除けるように、断固としてそう告げる。


「何故ですか?」


 挑発するように私は、


「ヘイロン王が私に敵わないからですか? 一対一の闘いじゃ勝てないから、数の力を使って私を始末しようとしているんでしょ」


 私の言葉にペイハイは目を吊り上げる。


「王への侮辱も大概にしろ。陛下はお前よりも強い。横暴な態度が目立つお方だが、それはオーガの王に相応しい力があってこそ」


「どうだが」


 私は尚も挑発する様に、


「本当はそんなに強くないんじゃないですか? 強くないから、ヘイロン王の元から去って行く人達がいるんでしょう?」


「……貴様」


 歯軋りをして私を睨むペイハイ。


「王の強さを知らんのか、たわけが!」


 怒鳴るペイハイに対し、私は冷めた態度を努める。


「だったら、その強さとやらを見せて下さいよ」


 分かりやすく豹変するペイハイの態度から、私はオーガと言う魔族の種族性を再確認する。


 普段は比較的温厚で文明的に思えるオーガだが、彼らにとって力こそが誇りであり、全てなのだ。


 それを侮られることは、とても許し難い事なのだろう。


「私をヘイロン王の元まで連行して下さい」


 私はここで提案する。


「分かってますよ。要は手柄の問題ですよね? 私を連行と言う形でヘイロン王の元まで連れて行けば、それだけで貴方達の手柄となります。そして、私とヘイロン王の決闘を行い、それで王が勝利すれば、インキュバスを自らの手で葬った魔王と言う箔が陛下に付き、求心力が高まると思いますけど」


 ペイハイの顔に迷いの色が浮かぶ。


 ここはもう一押し、必要だろうか?


 ……と、思ったのだが。


「分かった」


 私が次の言葉を用意している内に、ペイハイがそう告げる。


「お前を陛下の元まで連行する」


 ペイハイはちらりと横を見て、


「それで構わんな、ヒイラギ」


「ああ」


 頷くヒイラギがふうと息を吐いて楽な姿勢になる。


「妙な動きをしたら、即お前の首を刎ねるぞ」


 ペイハイは脅し文句を口にした後、部下達に指示を出して私の四方を囲む。


 私は大人しくオーガ達の包囲を受ける事になり、


「では、王宮に向かう」


 ペイハイの指示を合図に移動を開始した。


 どうやら、私の思惑通りになったようだ。


「安い挑発なのは分かっている。だが、敢えてそれに乗っ掛かってやる」


 先頭を歩くペイハイが私に背中を見せながら話し掛けてくる。


「実を言うと、お前の一件では陛下に不満があった。魔王であるならば、自らの手で王国の脅威となる強敵を屠るべきだ。それを臣下達に任せるなど、臆病と思われ兼ねない」


 そんな胸中を語るペイハイ。


 物々しく街中を往く私達に住民達がどよめいているのが分かる。


 にわかに騒がしくなる往来の中、ヒイラギが私との距離を縮め、


「本当に陛下と決闘するつもりなのか?」


 そんな再確認をして来たので、私は「勿論です」と返した。


 ヒイラギは難しい顔をして、


「忠告しておく。お前は恐らく自らの勝利に命の保証を求める心積もりなのだろうが、それは甘い考えだぞ。第一に、ヘイロン王はお前が考えている以上に強い。”赤毛の猛獣”に勝利したからと言って、調子に乗らない事だ」


「分かっていますよ」


「第二に____決闘後に取り決めが確実に履行される保証はない。と言うのも、決闘の際に交わされた約束と言うのは当事者間でのみ有効な口約束に過ぎんからだ。そして、オーガの決闘と言うのは、大抵がどちらか一方の死によって幕を閉じる事が多い。つまり、決闘後に約束を果たしてくれる相手が存在しなくなる。お前が仮に決闘で勝った所で、クロガネ王国から無事に出られる保証などない」


「……そうですね」


 その辺の風習については私も知っている。


 アカツキのお世話になっている間に、この世界ついてそれなりに勉強したのだ。


 ヒイラギの言う様に、ただ決闘に勝利した所で私は生きてこの国を出る事は出来ないだろう。


 ただ(、、)勝利しただけでは。


「甘く考えているつもりはありません。いきなりの事ですが、こっちだって覚悟は決めてるんですよ」


 私が決意をもって告げると、ヒイラギは神妙な面持ちになる。


「……何を考えている、シロメ」


「すぐに分かりますよ」


 強気に言い切る私。


 生き延びるため……そして、野望を果たすため、私には考えがあった。


 それが上手く行く保証など無いが、さりとて何も行動を起こさなければ、そこで私は終了だ。


 長い移動を経て、やがて私達はヘイロンが座して待つ王宮へと足を踏み入れる。


 王宮に到着すると、ペイハイがその場にいたオーガの一人と何やら遣り取りをしていた。


 やや揉めている様な雰囲気があったのだが、


「陛下の元へ」


 その短い言葉の後、一層の緊張感を強めて移動を開始する。


 重苦しい静寂の時間が続き、私達はいつの間にか魔王の目前にいた。


 久しぶりに思えるヘイロンの顔。


 険しいオーガの顔がそこにあった。


「俺様はインキュバスを始末しろと言ったつもりだが」


 開口一番、叱責する様にヘイロンが告げる。


 ペイハイは恭しく頭を下げ、


「無論、承知しております。我々は持てる気力の全てを尽くして、シロメを探し出し、捕える事に成功いたしました」


「では、これは何のつもりだ」


「このインキュバスから陛下に対し決闘の申し込みがございまして、連行して来た次第です」


 ペイハイが告げると、ヘイロンは「決闘だと?」とさらに顔を険しくさせる。


「あろうことか、この思い上がりの激しい愚か者は、陛下の力を、いえ、我々誇り高きオーガの力を侮辱したのです。陛下が自分よりも力で劣ると、そう豪語したのです。単独の力で劣るから数の力で自分を始末するのだと」


「あり得ん!」


 激昂するヘイロンは片足を強く床面に叩きつけ、


「オーガの王であるこの俺が、淫魔如きに力で劣る道理などないだろう!」


「ええ、勿論です!」


 ペイハイは私を指差し、


「ですので、陛下、この者の発言が誤りである事を証明して頂きたいのです! 我々オーガの真の強さを分からせた上で、あの世へと送ってやるのです!」


 怒り狂い、煽りたてるようにヘイロンに言葉を飛ばす。


 半分はヘイロンを乗せるための演技だろう。


 やや大仰な言い回しが気になった。


 ヘイロンの答えは____


「無論だ!」


 声を張り上げ、告げるヘイロン。


「今すぐにでも、淫魔との決闘を行う!」


 力を侮られた時点で、ヘイロンとしては既に引けない状況だったのだろう。


 オーガの王として、そして、彼自身のプライドにより、ここで決闘を断る事は出来ない。


「決闘は前庭で行う! 早くその愚か者を連れ出せ! それと、人を集めて来い!」


「はっ、承知致しました!」


 ヘイロンが言葉を飛ばすや、ペイハイはそれに応じるようにすぐに行動を起こす。


 対するヘイロンは戦う準備のためか、のしのしと奥の方へと引っ込んでいった。


 集団は今しがた来た道を王宮の前庭へととんぼ返りする事に。


 前庭へと到着すると、ヒイラギ、ダン、数人のオーガ達を、私を囲う様にその場に残し、ペイハイは再び王宮の方へと行ってしまった。


「へへっ、こう言うのも何だが、おもしれー事になったな」


 ダンがそれまで堪えていたかのようにげらげらと笑い出す。


 オーガ達の冷たい視線が突き刺さるが、ダンははばかる事無く、


「上手く乗せたな、シロメ。オーガは無駄にプライドが高いから、ああ言う煽りには滅法弱い。面白いくらい挑発に乗ってくれる」


 ダンの言葉に「おい、余計な事は口にするな」とヒイラギが叱責する。


 ダンは尚もへらへらとした笑みを浮かべ、


「で、どうなんだよ、シロメ。お前、マジで陛下に勝つつもりなのか? 本気で真っ向勝負をするつもりなのか?」


 ダンの問い掛けに、私は静かに頷く。


「そのつもりです」


「何か策はあるのか? やけに余裕と言うか、冷静だが」


 冷静、か。


 ダンには、周りにはそう見えるのだろうか。


「冷静とはまた違いますよ。……ただ、そうですね____」


 私は目の前を見据え、


「やるべき事が、道がはっきりとしている。だから、ただ進む。それだけです」

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