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第22話「嫌な空気」

「随分と気性の荒い王様でしたね」


 ヘイロン国王への謁見を終えた私達。


 帰りの馬車が動き出した所で、私は急くように口を開いた。


 まるで、沈黙を恐れるように。


「私達の前に居た人……まさか、ヘイロン王に斬り殺されるなんて」


 と、私は知らず、私自身への言及を避けるように、斬殺されたオークの話題を持ち上げていた。


「ウオトン王国の国王だな」


 それまで口を噤んでいたダンが話題に乗り掛かって来る。


「アイツも災難な奴だぜ。あそこの国はもともとゴブリン達の国だったんだ。それをクロガネ王国がオークを中心とした植民を始めて、今じゃ国民の半分がオークで国王もオークが務めている。そんな国情だから、内側の統率はガタガタで、反逆や売国が横行している。斬り殺されたあのオークの王は、誰かが働いた裏切り行為の代償を肩代わりさせられたんだ。本人は至って純朴で、ヘイロン王の忠実な僕だったのにな」


「もしかして、知り合いだったんですか?」


「別に、大した仲じゃねえよ。俺と同じぐらいの時期に一方的に国王に任命された奴……まあ、謂わば魔王の同期みたいな奴だった」


 ダンは溜息を吐いて、


「とんだ貧乏くじだよ。全く……王になんかなるもんじゃねえよな」


 若干恨みがましく呟くダン。


 再び沈黙が訪れ、次に口を開いたのはヒイラギだった。


「お前は本当にハーフインキュバスなのか?」


 静かな声音____しかし、厳しく問い詰めるような気迫がヒイラギの言葉の中にあった。


 獣人の鋭い視線に私は思わず息を飲み込む。


 私が「……そうです」と恐る恐る頷くと、


「何故、よりにもよって、あの場でその事を告白した」


 より厳しい口調と視線をヒイラギに与えられる。


 私はたじたじになりながら、


「……だって……ヘイロン王が……その……私を妾にするって……それで……」


 ヘイロンの提案を跳ね除けるには、それが一番だと思ったのだ。


 男性である事を伝えれば、考えを改めてくれると思ったのだ。


 だから、私の言動は間違っていない……筈なのに。


 どうして、ヒイラギ達はまるで私が大失態を犯したかのような顔をしているのか?


「あの、ヒイラギさん……私、何か不味い事でもしましたか?」


 たまらず尋ねる私だが、ヒイラギは答えず、


「……せめて、初めからインキュバスである事を明かしてくれていれば」


 溜息と共にそう呟かれる。


「何で嘘なんか吐いたのかねえ」


 ダンも溜息を漏らす。


 二人からの責めるような空気。


 ……居心地が悪い。


 私は頭を掻き、


「すみません、別に噓を吐くつもりはなかったんです。ただ……何というか……初めから私が女性である事は当然の事として流れが出来ていたじゃないですか。それで、その後、特に訂正する機会も無くて……気が付いたら、今更本当の事を言い出せない感じになっていたと言うか……」


 ぽつぽつと謝罪と言い訳の言葉を述べている内に……私は腹が立って来た。


 確かに、性別と種族を偽っていたのは良い事では無かったが____


「あの……て言うか……そんなに責められる事ですか? 性別とか種族とか。そんなに重要な事ですか? 何か、私……とんでもない悪さをしたみたいな空気になってますけど」


 頬を膨らませ、突っかかる様に私はヒイラギとダンを睨む。


 たかだか身元の詐称程度で、こんなにも責め立てられる謂われはない筈だ。


 ダンは大きな溜息を吐き、


「……重要な事なんだよ……インキュバスである事はな」


「……え」


 インキュバスである事が重要な事?


「それは____」


 それはどうして?


 そう尋ねようとした所で、馬車が止まり、私は口を噤んだ。


 駅に到着したようだ。


 扉が開かれ、私達は車外へと出る。


「明日も同じ時間にお前を迎えに行く。それまで、好きにすると良い」


 降車すると、私を見据え、ヒイラギが平淡に告げる。


 その口調、態度が余りにも余所余所しいものだったので、思わず私は目を丸くして、その場で硬直した。


 ヒイラギ、そしてダンは、用事は済んだとばかりに私の元から立ち去って行く。


 私は何か言葉を掛けようとしたが、二人の背中が私を拒絶しているようで、結局開きかけていた口を閉じる事にした。


 ……何なんだ……あの二人は……!


 本当に、私が何をしたと言うのだ。


 全く腑に落ちないし……苛々とする。


 私は舌打ちをして、晴れない心地のまま、宿泊地に引き返すことにした。


 部屋に戻ると、私は不貞腐れたように衣服を脱ぎ捨て、半裸の状態で毛布にくるまった。


 そうして、機嫌を悪くして____気が付けば1日が経過する。


 重い気持ちを引きずりながら、私は朝食を食べ、身なりを整える。


 ヒイラギとダンは前日と同じ時刻に私を迎えに来て、王宮までの付き添いをしてくれた。


 道中、私達の間に一切の会話は無かった。


 二人とも昨日以上に重たい空気を身に纏い、石像の様に表情を固くしている。


 嫌な雰囲気のまま、私達は再びヘイロンの前へと姿を現す。


「来たか」


 こちらが挨拶をするより先に、ヘイロンは玉座から立ち上がり、その口から低い声を発する。


 魔王の声に応じ、(こうべ)を垂れるヒイラギとダン。


 私も頭を下げようとして、


「そのインキュバスの処遇を決めた」


 鉛のような声が降りかかる。


 ヘイロンは私を指差し____


「ヒイラギ、ダンよ。この場でその者を処刑せよ」

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