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第17話「眼下の惨状」

 サルスベリは死んだ。


 後の仕事は簡単。


 結界の発生装置を停止させ、私は移動結界アポロンを消滅させた。


 自己防衛機構は無力化している。


 私は【紫電】のスキルにより無防備となった装置に雷撃を放つ。


 装置は破壊され、移動結界アポロンは最早再起不能となった。


 私は建物の外に出て、上空に向けて信号弾を放った。


 これにて、任務完了だ。


 後は信号弾に気が付いたペイハイ達がミン王国を奪還するべく動いてくれる。


 私はぐったりとしながら足を進める。


 疲労で足取りが覚束ない。


 ふらふらとしていると、道路の脇に酒瓶の詰まった木箱を発見したので、一本抜き取る事にした。


 仕事終わりの一杯でも楽しませて貰おう。


 私は見晴らし台のような場所を見つけ、その屋根に上り、お酒を飲みつつ、街の趨勢を観察する事にした。


 街の外周からゴブリンの群れが波の様に押し寄せてくる。


 粗暴で邪悪な波は瞬く間に街を侵食し、その内、甲高い女性の悲鳴が連声となって響いて来た。


 しかし、それら女性の声はゴブリン達の下卑た声に飲み込まれ、掻き消されていく。


 往来ではゴブリン達が女性達を取り押さえる様子が確認出来た。


 拘束具で身動きを封じられ、何処かへと連行されていく女性もいれば……その場で衣服を剥がれ、ゴブリン達の慰みものとなる女性もいた。


 それは私にとって、初めて目にする生殖行為だった。


 嫌悪感半分、興奮半分____そんな心境で私は行為を眺めていた。


 魔族によるヒト族の蹂躙と凌辱。


 お酒の酔いの所為もあるのだろうが、私は眼前で繰り広げられる地獄の様な光景を痛快に感じていた。


 しばらく、私は特等席で凄惨な地獄の様子を楽しんでいると、


「ここに居たのか、シロメ」


「あ、ペイハイさん、どうも、お疲れ様です」


 ペイハイが私の元にやって来た。


 ペイハイは私の手元の酒瓶に視線を向け、


「ヒイラギから聞いていたが、呑兵衛なんだなお前」


「最近、お酒の楽しさを覚えまして」


「まだ12だろ、お前。その歳で飲むのは例え半魔(ハーフ)だとしても、良い事ではないぞ」


 咎めるペイハイに対し、私は「はい、ほどほどに気を付けます」と言って、酒を口にした。


 ペイハイは何か言いたげな表情を浮かべて、私の隣に座り込んだ。


 沈黙が少しだけ両者の間を支配し、


「取り敢えずは良くやってくれた、シロメ。お前は間違いなくこのミン王国の救世主となった。ところで____」


 ペイハイは一度言葉を区切り、


「赤毛の獣の死体を発見したのだが……もしや、お前、”赤毛の猛獣”サルスベリを仕留めたのか」


「あ、ご存知なんですか、彼女の事?」


「ああ……先の大戦でヒト族側の連合軍の海軍大将を務めていた女だ」


 ペイハイは唾を飲み込み、


「本当にお前が仕留めたのか? お前一人で?」


「そうですけど」


「……そうか」


 ペイハイの瞳に、一瞬畏怖の色が浮かぶのを私は認めた。


「……”赤毛の猛獣”には随分と苦しめられたものだ。魔族側の連合軍の魔王を何人も殺され、そのおかげで、戦後の”地下水道”におけるパワーバランスは大きく変化した」


「サルスベリってそんなに凄い人だったんですか?」


「……ああ」


 ペイハイは重苦しく頷き、


「どうやら、お前は俺達の想像以上に強力な存在のようだな」


 どうやら、実力を認めてくれているようだ。


「ところで、シロメ……お前はこの光景をどう見る?」


 ペイハイが眼下の光景を指差す。


 そこでは、相も変わらずヒト族の女性達がゴブリンの群れに襲われる様子が続いていた。


「どう見るって?」


「お前の半分は魔族でもう半分はヒト族だ。そんなお前が、これ(、、)をどう感じるか。それを知りたいと思ってな。まあ、ただの好奇心だ」


 ペイハイの問いに私は黙り込み、ただ街中で繰り広げられる喧騒を見つめていた。


 泣き叫ぶヒト族の女性達。


 それに襲い掛かる醜悪なゴブリン達。


 私はそんな眼下の光景に手の平を向け____


「まだまだ、こんなもんじゃ足りません」


「足りない?」


「ええ」


 私はやにわに立ち上がり、何か決断する様に酒瓶をあおり、中身を空にした。


 高揚感に支配される私。


 喉、胃、そして(はらわた)が熱くなり、私に壮大な野望を抱かせる。


「これで終わりじゃない。この街の光景をもっと大きな場所____そう、あの地表で再現してみせる」


 私は頭上を見上げ、地底の天井を指差した。


「地表を恐怖と絶望で満たし、私は世界の一番高い所から、太陽の様に眼下の地獄を見下ろすんだ!」


 酔いが回っている所為か、言葉遣いが大胆で荒々しくなる。


 ペイハイは私のそんな宣言に目をぱちくりとさせ、


「……そうか。まあ、頑張れよ」


 と、面倒臭げに相槌を打つ。


 酔っ払いの戯言だとでも思われたのだろう。


 確かに、お酒の力で言葉は大きくなっているが……。


 私が今口にした言葉は、確固たる決意表明だった。

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