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第10話「”白き太陽”の話」

 およそ2時間後、私はヒイラギに大使館への呼び出しを受けた。


「まずは報酬だ」


 ヒイラギはそう言うと、私に金貨3枚を見せびらかし、その内の2枚を手渡して来た。


 金貨を受け取る際に、「金貨1枚は大使館への1月分の宿泊費にあてさせてもらう」と言い添えられる。


「良いんですか、こんなに貰って?」


 と、窺うように尋ねる私。


 金貨3枚の対価____これがどれ程の価値を持つものなのか正確には分からないが、大使館への1月分の宿泊費が金貨1枚である事を鑑みるに、それなりに高額な報酬なのではないだろうか。


「それほどの仕事をしてくれたと言う事だ」


「……はあ……そうなんですか」


 あまり、実感はないが。


「それよりも、早速だが、次の仕事をお前に与えたい」


 ヒイラギがそう切り出して来たので、私は少しだけ姿勢を正した。


「まあ、仕事と言う程の事でもないが。巡回中のダンを王宮に呼び戻して欲しい」


「……ダン国王をですか?」


「ああ、街の外を出歩いている筈なんだが。先程の一件もあって、早急に帰還願いたい訳だ」


 先程の一件とは、インが騎士に殺された事を言っているのだろう。


 私は頷き、


「分かりました。ちなみにですが、ダン国王はどの辺りにいらっしゃるのですか」


「さあ……それは奴の気まぐれ次第だからな。本当なら、俺が出向きたい所なのだが、生憎と今は仕事が多くて手が離せないんだ。すまないが、ダンを頼む」


「はあ、成る程……とにかく、頑張って探してみます」


 と、言う事で、私はダンの捜索をする事になった。


 さて、ダンは何処にいるのだろうか?


 ダンの行き先に見当が付かなかったので、取り敢えずは、私が彼と出会った街外れに足を運ぶ事にする。


 すると、運の良い事に、行く先で数匹のゴブリン達を引き連れたダンと出くわす事に成功した。


 私は手を振り____


「ダン国王!」


「ん? おお、シロメじゃねえか」


 ダンと対面する。


 ダンが「何だ、俺に何か用か」と尋ねて来たので、


「ヒイラギさんに、ダン国王を連れ戻すように言われまして」


「ヒイラギに? 何かあったのか?」


 私は説明しようとしたが、話が長くなると思い、


「取り敢えずは、街へ」


 それだけを言い渡し、ダンの引導を開始する。


 ダンは溜息を吐き、


「はあ、ヒイラギからの呼び出しか。もう少し、サボっておきたかったのによお」


「サボりって……巡回と言う仕事の最中なんじゃないですか」


「巡回と言う仕事の名前を借りたサボりだよ」


「……はあ」


 生返事をする私。


 インとガンもそうだったのだが、ゴブリンにはサボり癖があるのだろうか。


 街へと戻る途中、ふと、ダンは、


「シロメ、ところでお前のその容姿なんだが」


 少しだけ言い辛そうに口を開くダン。


「あんまり、その姿のままでいない方が良いぞ」


「……? 何でですか?」


 唐突に容姿の事に言及され、首を傾げる。


 今の私は、”擬態”の能力により、ハーフインキュバスとしての本来の姿ではなく、リリウミアで生活をしていた頃の姿をしているのだが。


「”白き太陽”を知っているか?」


「……”白き太陽”……いえ、知りませんが」


 ダンが聞いた事も無い単語を口にする。


「”白き太陽”って言うのは、まあ____俺達魔族が付けたそいつの二つ名なんだが____コイツはリリウミアの騎士団に所属しているとある恐ろしい騎士の事だ」


 説明するダンの口調は、何故だがしんみりとしていた。


「で、その”白き太陽”と呼ばれる騎士が、私とどう関係しているんですか?」


「似てるんだよ、お前と”白き太陽”が」


 私と”白き太陽”が似ている?


「”白き太陽”は先の大戦で多くの魔族を殺し、その名を轟かせた騎士だ。奴を知る者は、その姿を見るだけで恐怖ですくみ上る。つまりだ。今のお前のその姿は、あの戦いを経験した魔族にとって、恐怖と憎悪の対象でしかない訳だ」


「ダン国王にとっても、そうなんですか?」


 私が尋ねると、ダンは「……いや、俺は……」と歯切れの悪い返答をした。


 私は顎に手を添え、もしかしてと思い、


「その”白き太陽”って”剣聖”クロバの事ですか?」


 ”白き太陽”____魔族を相手に戦っていたとすれば、それは聖日騎士団の騎士と言う事になる。その上、今の私に容姿が似ているとなれば、母親以外考えられないのだが。


 ダンの答えは____


「ああ、そうだな。確かに、あっちじゃ”剣聖”クロバなんて言われてたな」


 ああ、やっぱり。


 まあ、意外でも何でもない真実なのだが。


 私は言うまいか迷い、


「クロバは私の母親ですよ」


 その事実を告げる。


 ダンは「へ? 母親?」と一瞬、驚いた表情を浮かべ、それから何かはっと気が付いたような顔になった。


「つー事は、あれか……クロバの奴、死んじまったのか」


「ええ、先日話した通り」


 やや間があって、ダンは重苦しく、


「……そうか」


 ダンは眉間にしわを寄せ、俯きながら「死んじまったのか」とうわ言の様に繰り返し始めた。


 そんな暗い様子のダンを私は不思議そうに見つめていた。


 目に見えて、気が沈んでいるダン。


 事情はよく知らないが……母親に対して、何か特別な想いがあったのだろうか?


 この様子からして、”白き太陽”に対して、あまり否定的な感情は感じられない。


 私はこの話題にもっと踏み込むべきかどうか迷い____落ち込んでいる様子のダンに配慮してそれ以上何も口にしなかった。

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